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『シリアの花嫁』 (2004/イスラエル、フランス、ドイツ)

   ↑  2011/02/15 (火)  カテゴリー: シリアス、社会派
Bitters End配給作品『シリアの花嫁』公式サイトへ  【DVD】シリアの花嫁
●原題:THE SYRIAN BRIDE
●監督:エラン・リクリス
●出演:ヒアム・アッバス、マクラム・J・フーリ、クララ・フーリ、アシュラフ・バルフム、ジュリー=アンヌ・ロス 他
●結婚式の今日は、花嫁モナにとって最高に幸福な日となるはず。しかし、彼女の姉のアマルは悲しげな顔をしていた。なぜなら一度“軍事境界線”を越えて花婿のいるシリア側へ行ってしまうと、二度と家族のもとへ帰れないのだから・・・。彼女たちをはじめ、家族もみな、国、宗教、伝統、しきたり…あらゆる境界に翻弄され、もがきながら生きていた。モナは決意を胸に境界線へと向かうが、そこで思い掛けないトラブルに見舞われ…



ここ数週間、エジプトで起こった市民による歴史的反体制運動をずっと見守ってきました。

実はこの『シリアの花嫁』を観た1月にはレビューメモはあらかた出来上がっていたのですが、チュニジアで起こったデモの行方が、日々大きなうねりとなって確実にアラブ諸国へと広がっていくのを見て、記事のアップをもう少し待つことにしたのです。

というのも、エジプトが劇的なまでに変化を遂げようとしている中、この映画の舞台であるシリアとイスラエルの関係にもその影響が波及する可能性は多大であり、エジプトの今後の動向によっては、この映画に寄せる思いも随分と変わってくるような気がしたからです。中東各国が各々の思惑からエジプトの動向を注視する中、イスラエルは孤立を深め、そのイスラエルの中東和平交渉の現状破棄状態を黙認してきたアメリカも右往左往しているように見受けられます。

世界(=アメリカとも言える)に見捨てられたと言われているパレスチナ問題は、西岸地区支配のPLOが親米・イスラエル寄りだったムバラクを失ったことにより、現在勢いを増しているムスリム同胞団のハマスがその影響力を増大させていることでイスラエルを動揺させているはずです。中東世界の構図が変化していく正に過渡期に、私はこの映画を観たことになります。





いう訳で前置きが長くなりましたが、そろそろ映画の話に入ることにしましょう。この映画は、鑑賞前にある程度の国家事情や地理的な知識や解説を頭に入れておくことが大きなポイントとなってきます。簡単ですが、下記にちょっとだけまとめてみました。

ゴラン高原
内閣府 国際平和協力本部事務局(PKO)サイト「ゴラン高原」へジャンプします
1948年のイスラエル建国以来、4次にわたる中東戦争を経て続いていたイスラエルとシリアとの間の紛争は、1974年に両国間で「兵力引き離し協定」が締結され停戦ラインが引かれました。そこで設立されたのが、国際連合平和維持活動を行う【国際連合兵力引き離し監視隊(UNDOF)】です。しかしイスラエルは、ゴラン高原を戦略的重要地域(つまりイスラエルの水源)であるとして、1981年に「ゴラン高原併合法案」を国会で可決、「ゴラン高原は自国の領土である」と主張するようになりました。

ゴラン高原に残留を許されたシリア人は約17,000人ほどいると言われていますが、その多くは希望すれば【イスラエル国籍】を取得できるものの拒否し続け、シリア国民にもなれないまま無国籍状態となっているのです。



そしてこの映画は、現イスラエル占領下のゴラン高原に住む女性が、シリア国内に住む男性と結婚式を挙げることになったある1日を描いた物語となっています。

ちなみに、花嫁の姉アマルを演じているヒアム・アッバスは、自爆攻撃を決意する『パラダイス・ナウ』のパレスチナ青年の母親役でも存在感を光らせた他、アメリカ映画『扉をたたく人』や、フランス映画『画家と庭師とカンパーニュ』、はたまたジム・ジャームッシュ作品など幅広い世界で活躍されている素晴らしい女優さんです。





映画の冒頭、最も幸せであるはずの結婚式の朝に、沈み込むように悲しげな姉妹の会話が続きます。彼女達の様子から次第に「いったんシリア国内へ境界を越えて嫁いでしまうと、二度とイスラエル領内であるゴラン高原の故郷へは戻れない」という厳しい現実が横たわっていることが明らかにされていきます。更に、嫁ぐ妹モナの孤独を更に深めているのが、彼女のこの結婚は再婚であるということ。

通常日本人の感覚で考えてみると、なぜ一度も会ったことのない男性とのこれほど厳しい条件のある結婚を承知したのか?という疑問が浮かぶかもしれませんが、イスラム圏の人間から見ればさほど珍しいことではありません。

現在の国や地域の習慣による差はあるでしょうが、夫を亡くしたり離別した寡婦と再婚することは良いこととされ、女性も独り身よりは伴侶を得ること、家庭を持つことがよしとされるため、子を持つ離婚した女性でもすぐに親戚筋の男性を紹介されて再婚する・・・・そんな話をよく見聞きしてきました。戦乱が多く、夫を亡くした女性たちが生活できなくなることに配慮した時代の宗教観なのでしょう。自由恋愛が見受けられる都会では考えられないものですが、信仰深い習慣の残る地方などでは今でも見かけられる結婚形態なのです。



確かに『シリアの花嫁』という映画は、確かにこういった地域独特の宗教観や、国家間における国際政治問題などをバックボーンにはしていますが、そこから浮かび上がってくるのは「家族の絆」や「結婚の在り方」「しきたりや伝統との向き合い方」「女性の自立」など、地域を限定することなくどんな国の人々でも経験するようなライフステージにおける普遍的なテーマです。

しかも家族をテーマとしたこの映画は多数の人物が登場するのですが、どのキャラクターたちも隅々まで丁寧に描ききられている点、しかもシリアスに徹することなく、さり気ないユーモアも忘れないという、強くて温かな視線に私は感銘を受けました。花嫁であるモナを取り巻く環境は過酷であっても、その分だけ始めはバラバラだった家族の存在が大きく、強くなっていくのです(これらを映画的に見ても、見事に回収することのできる伏線の張られ方も、なかなか気持ちの良いものでした)。





そんな家族たちが様々な思いを胸に、いよいよモナを境界まで送り届けるのですが・・・・ここから更に試練の連続となってしまうのです。

他国の人間であれば軽々と行き来のできるほんの数十メートルの道路を間にして、人の気持ちが通わない国の規則や諸事情によって挙式そのものが危ぶまれる事態へと物語は進んでいきます。そして、誰にもどうすることもできない行き詰まりをみせたところで、このラストは唐突にやってくるのです

そこでモナがとった行動は、国境における緊張感を考えればかなり衝撃的なものではないかと察しましたが、案の定、伊藤千尋(朝日新聞社ジャーナリスト)さんが講演されたという内容が書かれた記事に目を通してみたところ「花嫁は殺されても文句が言えない場所を通って行った」と解説されていたようでした(【軽薄短笑~新潟県上越・妙高発~】yasu様のサイトより一部引用させていただきました)。

モナと、そしてそれを確認した姉の思いが重なる力強いこのラストシーンは、恐らく日本人である私などには到底思いも至らないほど、譲ることのできない深い決意と希望が込めれたものなのだと私は信じたいのです。そして忘れてはならないのが、この映画は「シリア映画」ではなくイスラエルが中心となって制作したものだということ。シリアへのゴラン高原返還問題が現在の中東情勢の中で、今後政治カードとして利用されることなく(自国の領土問題が解決できていない国民である私が言うのも何なのですが・・・)いつの日か解決されることを、私も願ってやみません。





因みに、この映画を観て個人的に思うことも多々ありました。
移民だった元夫の故郷へ戻っての結婚式は、この映画の風景にとても近いものだったのです。とても懐かしく思い出していました。

男たちは空に向かって銃で祝砲をあげ、リボンの巻かれた車でクラクションを鳴らし続けて街中を回り、同行していた両親からは「こ、これは映画だ・・・」と唖然とされた懐かしい思い出もあります。

残念ながらこの結婚を続けることはできませんでしたが、外国人の私を温かく迎えてくれた義理の母や父、親族たちの優しさを忘れることはありません。髪の色や目の色が元夫に似ている我が子も、いずれ自分のルーツを探す日が来るはずです。その時が来たら良い事を沢山話してきかせたい。子どものもう一つの国を一緒に歩ける日が来たらどんなに良いだろう。そんなことを思い起こさせてくれる映画でもありました。





■追記■
もう一つの「シリアの花嫁」の話が、イスラエル英字ネット「HAARETZ.com」で写真付きで報じられていました。「シリアの花嫁が今年1月6日、国境を越えて同じドゥルーズ派のイスラエル側花婿と結婚式を挙げた」とのこと。彼女もまた、自分の故郷へ戻ることはできないのです。このような結婚の景色は、年に数回あるということです。




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  2011/02/15 | Comment (0) | Trackback (0) | HOME | ↑ ページ先頭へ ↑ | edit
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