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『大逆転』 (1983/アメリカ)

   ↑  2011/05/28 (土)  カテゴリー: コメディ




ハッピー・ザ・ベスト!::大逆転 [ ダン・エイクロイド ]


●原題:TRADING PLACES
●監督:ジョン・ランディス
●出演:ダン・エイクロイド、エディ・マーフィ、デンホルム・エリオット、ジェイミー・リー・カーティス、ラルフ・ベラミー、ドン・アメチー 他
●大金持ちの老紳士兄弟が、人格形成に重要なのは「環境か?素養か?」の賭けをする。その犠牲になったのがハーバード大学出身のエリート、ウィンソープと貧しい黒人バレンタイン。フィラデルフィアの商品仲介会社を舞台に2人の立場が入れかわる痛快コメディ。





この映画が公開された1980年代前半――米国は、レーガン政権のもと「強いアメリカ」としての経済政策(レーガノミクス)を打ち出して推し進めていった、自信に満ち溢れた時代だったと言われます。

詳しく分析したわけではないのですが、この【80年代ハリウッド映画】というのは比較的安定・成長した時代でもあったためか、数多くの娯楽作品が生まれた楽しい時期であったように思います。そして、(一部の特例を除いて)それまで麻薬密売人などの"悪脇役"が多かったアフリカ系アメリカ人の俳優たちがいよいよスクリーンの中心へと躍り出て、映画界においても"市民権"を獲得していった!という過渡期だったのでは・・・と思うのです。

アメリカでは、1960年代から【アファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)が置かれ、映画界でもアフリカ系やヒスパニック、アジア系など"マイノリティ"と言われる人たちを配役するような働きかけはありましたが、黒人でも映画で主役が張れるか?となるとそれは別の話でした。1970年代に流行した【ブラックスプロイテーション・フィルム(黒人客だけをターゲットにした映画)を除けば、ハリウッド映画のようにメジャーな世界では観客は白人層が多く占めていたからなんですね。

ですから、アフリカ系の俳優を主演に据えて収益が見込めるようになった時代―1980年代というのは、経済成長によって比較的人々に余裕が生まれた影響も大きかったのではないかな、と思うのです。


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そして、この華やかなるアフリカ系米国人の牽引役こそ、この映画の主人公の一人、エディ・マーフィーでした(女性であれば、ウーピー・ゴールドバーグかな?)。

TV番組「サタデー・ナイト・ライブ」で大人気だったエディは、『48時間』(1982)でニック・ノルティと、今回の『大逆転』(1983)ではダン・エイクロイドとコンビを組み、そして『ビバリーヒルズ・コップ』(1984)で、遂に初の単独主演を果たしました。

その後も『星の王子ニューヨークへ行く』や『ビバリー~』などの人気シリーズでボックス・オフィスも賑わせるなど、ハリウッドの人気俳優としての座を不動のものとし、本人にとってもアフリカ系アメリカ人にとっても、本当に大大大躍進の時代となったのです。






『大逆転』は、私がまだ学生の頃にテレビ放映されていたのをビデオに録って、なんとなく繰り返し観ていた作品でもありました。文無しホームレスのバレンタインことエディと、アッパークラスで何一つ不自由のないダン・エイクロイドが大富豪の老人たちのツマラナイ遊び心から立場を入れ替えられ、最後には二人力を合わせて老人たちに逆襲する!という話が、単純にわはははと面白かったんですよねー。

加えて、先物取引を題材にしたコメディというちょっと風変わりな設定が、NY市場米経済の仕組みを理解するのに丁度いい映画だったんです。劇中、バレンタインが説明する「クリスマスの日の豚肉の売り・買い」の話は、私、何か経済のテストの時に丸々書いた覚えがあるほどで、本当に役に立ちました(笑)。

白人社会を小馬鹿にして、紙と数字で右往左往する人々を笑い飛ばしてはいるものの、「富=幸福」の枠組みから外れることのない躊躇いのなさは、当時のアメリカの揺るぎないパワーとダイナミックな世界観を感じさせるものでもあります。


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ただ今回、本当に久しぶりに観直してみたら、「この後にはマーティン・ローレンスやウィル・スミスが出てきたんだよなぁ~」とか、当時は何も思わなかったのですが「微妙に人種問題をくすぐっている"時代感覚"が見え隠れするなぁ」とか、「場立ちのトレーダーたちがワァ~!!と紙吹雪を撒き散らす米国商品先物市場のド迫力を久々に見たなぁ」とか。直接映画には関係のないことばかりが頭に多く浮かんできました。

なんとなくですが、自分の中で見えるものが違ってきたように感じられて、これもまた面白い体験だなぁと思い、この映画のことを書き残しておくことにしました。





  
 『セイ・エニシング』(1989/アメリカ)
そうそう、この映画を観ていて、1989年のキャメロン・クロウ監督の『セイ・エニシング』をふと思い出しました。キック・ボクシングに打ち込む高校を卒業したばかりのロイド(ジョン・キューザック)が、ガールフレンドの父親に将来のことを聞かれて、こんな風に答えるシーンがありました。

「売ったり買ったり、商品化はしません。商品化されたり、買ったものも売らず、買ったり、売られたものの商品化もしません」
"I don't want to sell anything, buy anything, or process anything as a career.I don't want to sell anything bought or processed, or buy anything sold or processed, or process anything sold, bought, or processed, or repair anything sold, bought, or processed."



華やかだった80年代も後半に入り、いつしかアメリカはレーガノミクスによって史上最大の債務国に転落、ニューヨーク株式市場は【ブラック・マンデー】を迎え、生産業を軽視した市場原理重視の政策は人々の生活にも少しずつ暗い影を落としていくことになります。


 『Rain レイン』(2003/アメリカ)   『ザ・ファイター』(2010/アメリカ)

産業都市としての発展から外れ、衰退していくクリーブランドの街並みを映し出した『Rain レイン』(2003/アメリカ)や、失業者があふれた町で荒んだ魂を再生させていくボクサーを描いた『ザ・ファイター』(2010/アメリカ)などの映画も思い浮かんできます。

変化していく時代の空気感が各年代の作品からも見て取れるようで、こうして比較しながら観てみると、アメリカ映画もなかなか興味深いものですね。




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  2011/05/28 | Comment (0) | Trackback (0) | HOME | ↑ ページ先頭へ ↑ | edit

『黄金の七人』 (1965/イタリア)

   ↑  2011/05/23 (月)  カテゴリー: コメディ



黄金の七人 【HDニューマスター版】【Blu-ray】 [ フィリップ・ルロワ ]


●原題:SETTE UOMINI D'ORO / SEVEN GOLDEN MEN(英題)
●監督:マルコ・ヴィカリオ
●出演:フィリップ・ルロワ、ロッサナ・ポデスタ、ガストーネ・モスキン、ガブリエル・ティンティ、ホセ・スアレス 他
●ジュネーブにあるスイス銀行近くのホテルに入っていく紳士と美女・・・2人は、教授ことアルベールと愛人のジョルジャ。最新式の防犯設備を備えている銀行には、時価数百円もの金の延べ棒が眠っている。そこへオレンジ色の作業服を着た6人の男たちが道路工事のため地下に潜っていった。だがそれは見せかけで、彼らは教授が集めたプロの泥棒たちだった!



イタリア映画において、数多くの映画音楽を生み出しておられるアルマンド・トロヴァヨーリ大先生によるこのテーマ曲「シャバダバ、シャバダバ~♪」というスキャットがタイトルバックで粋に流れてくるところで、私はもうハートをぐわしっ!っと掴まれました。「11PM」のテーマソングを思い出しますなぁ。・・・えー、wikiによりますと、1972年から始まった「水曜ロードショー(現・金曜ロードショー)」の第一回放送作品なのだそう。当時から地上波では幾度となく放映されているとのことですので、これは有名な娯楽作品だったのですね。



フリッパーズギターにもインスピレーションをもたらしたというこのモンド音楽だけでなく、ファッションや小物に至るまで悪趣味ギリギリのところで可愛いキッチュなデザイン、盗みの手口や美女の登場など「ルパン三世」のストーリー展開にも影響を与えたとまで言われる『黄金の七人』。とにかくリアル感はゼロ!なのだけれども、見た目が大事な映画としては、後々様々な分野に与えた影響の大きさは計り知れないのかもしれません。




映画では、冒頭から本物の「クレディ・スイス」正面で道路工事の準備をする6人組が映るのですが、実はこれ、――スイスでは、銀行強盗映画の撮影が違法だったので、ヴィカリオ監督は、ジュネーブでのクレディ・スイス前の撮影時には、フェイクの脚本を使用した――(IMDb)なんていう裏話もあったようです。

画面に映り込んでいる一般人の皆さんも異様にジロジロ見つめていますし(しかも、人々や車の往来なんかを見ると思い切り朝の通勤時間帯・・・)、本当に道路をゴゴゴゴ!!って掘り返していますし、おいおいイタリア映画なんてことするんだ!という感じです。ま、銀行内部や道路地下のシーンはセット撮影なので「銀行強盗のシーンではない」ことは確かなのですが・・・そういった意味でも貴重な映画かもしれませんね!

6人組の個性があまり強くないのでその点は少しザンネンですが、大掛かりな銀行強盗成功までのドキドキに加え、5人組、リーダーの教授、ドロンジョ様のような悩殺美女、そして・・・といった具合に、騙し合いに次ぐ騙し合いで二転三転するストーリーも最後まで目が離せません。最後は誰が金塊を手にするのでしょう・・・!?


エンディングでは「登場する銀行は架空のものであり、強盗たち『黄金の七人』はフィクションです」というテロップを出しておきながら、Banca Commerciale Italiana(イタリア商業銀行)前で、また銀行強盗の撮影をしている~(笑)
懲りない能天気さが可愛いイタリア映画でした!


※そして・・・
   『続・黄金の七人/レインボー作戦』(1966/イタリア)
さらにパワーアップした続編『続・黄金の七人/レインボー作戦』(1966/イタリア)もあったりして♪コチラもどうぞ!




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  2011/05/23 | Comment (2) | Trackback (0) | HOME | ↑ ページ先頭へ ↑ | edit

『不思議惑星キン・ザ・ザ』 (1986/ソ連)

   ↑  2011/05/16 (月)  カテゴリー: SF、宇宙、怪獣
 【DVD】不思議惑星キン・ザ・ザ
●原題:Кин-дза-дза! / KIN-DZA-DZA!
●監督:ゲオルギー・ダネリア
●出演:スタニスラフ・リュブシン、エフゲニー・レオーノフ、ユーリー・ヤコヴレフ、レヴァン・ガブリアゼ 他
●時は冬のモスクワ。技師のマシコフは帰宅するなり、妻に買い物を頼まれ外出する。街頭で地方出らしいバイオリンを抱えた青年に「あそこに自分のことを異星人だと言う男がいる」と声を掛けられて、関わるのは面倒だから警察に連絡しようとするが、「裸足で寒そうだから」と言う青年に付き合って、結局その怪しい男と言葉を交してしまう。自称異星人はこの星の座標を尋ねるが、マシコフはそんな男の言葉は聞き入れず、手に持っていた“空間移動装置”を押してしまう。その瞬間、マシコフと青年は砂漠のド真ん中にワープしてしまった。しかたなく歩き出す2人のまえに釣鐘型の宇宙船が現れた・・・!ソ連全土で1520万人という驚異的な動員数を記録した感動のローテク脱力SF映画。




えぇぇぇぇぇー!というような展開が延々と続くため(135分ある)、まずは映画開始10分過ぎが最初の勝負所になります。ここで、ついていけないわ!と思った方は、気を確かにしてスッパリとご自分の人生を歩まれた方が宜しいかと思います。

が、ここで脱力笑いが漏れた方は、どうかどうか最後までお付き合いいただきたく思います。何といっても、この映画のラストは予想を超えた感動のドラマが待っており、私も思わず胸が熱くなって泣きそうになったほどでした。コレ二ハ ヤラレタナー!

旧ソ連時代。マシコフおじさんとバイオリン弾きのゲデバン君がテレポートで飛ばされた先のギンザザ星雲プリュク星。ここでの言葉は全て「クー!」。ゴメンネも「クー!」何でも「クー!」。でも「このバカタレ」とか「クソヤロー」などの罵倒語だけは「キューッ!!」。
どこがSF映画なのか分からないくらいユルユルにすっ呆けている感じが、どこまでも広がる不毛の大地―砂漠のよう。ここから長い長~い地球帰還までのお話が続いていきます。

「面白い映画だなー」なんて私もゆるゆるに観ていたのですが、後半、警察が出てくるあたりから「こ、これはもしかして・・・」という、ただならぬ雰囲気を感じ始めました。




そうなんです。【脱力系SFカルト映画】とも言われているようですが、実はゴルバチョフの登場とソ連崩壊直前の時代に作られたという点、これがこの映画に鋭いメッセージを強烈に残しており、ロシアで多くのファンを熱狂させたと言われる理由の1つとなっているようです。ただのウケ狙いのお遊び映画ではない、ということなんですね。

因みに社会主義時代のソ連の共和国であったジョージア(日本語での旧呼称:グルジア)が、この映画の製作国です。
監督は、やはりジョージア出身で、デビュー作『SERYOZHA』がカルロヴィ・ヴァリ国際映画祭でグランプリを受賞したという、ロシア映画界の大御所ゲオルギー・ダネリヤ。
とてもインテリジェンスな雰囲気の方で、2010年7月16日付のロシアの日刊新聞【Новые  Известия】の記事では「バラク・オバマが、『不思議惑星キンザザ』を繰り返し見ていたらしいよ(byオバマ大統領の異父妹の話)」なんていう面白いことも書いてありました。
(ただ、私は翻訳で見たので、ロシア語の知識に明るい方がいらっしゃいましたら今一度ご確認ください。)

全体的ににレトロな雰囲気でのんびりした感じが、やはり旧ソ連の共和国だったウズベキスタン映画、1992年の『UFO少年アブドラジャン』を、どことなく思わせます。





~厳しい検閲をすり抜けるための工夫があった~

ロシアの熱狂的な「キンザザ ファンサイト」なども幾つか覗いてみたのですが、やはりこの映画はロシア語やジョージア語とともに、ソ連時代の文化や社会的風潮などが分かっていれば、きっと面白さも100万倍だったな!!と強く感じました(劇中使用されるチャトル=パッツ語の言語由来は後述)。当時の厳しい検閲を通り抜けるための工夫があちらこちらに散りばめられているようなのです。

例えばですね『不思議惑星キン・ザ・ザ』の中では、ソ連時代の官僚主義による腐敗でどうしようもなかった警察批判なんかを堂々とやってのけています。上の画像のオジサンは、惑星プリュクの【エツィロップ】と呼ばれる警察官のような存在の人です。【Etsilopp】と発音表記しますが、実はこれは警察=【police】の逆さ文字なんですね。映画の中では、権力を振りかざす大威張りのエツィロップを、地球人である"マシコフおじさん"と"バイオリン弾きのゲデバン君"がコテンパンにやっつけるシーンが出てきます。まともな映画でしたら、検閲でアウト!でしょう。

この【エツィロップ】ですが、劇中、ゲデバン君が荷物に入れていた「酢」を取り上げて飲んでしまうというシーンがありました。実はここにもちょっと面白いエピソードがあるんです。

当初のシナリオでは、ゲデバン君が持っていたのは酢ではなくチャチャでした。「チャチャ」というのはジョージアでしか採れないブドウ品種サペラヴィ種やムツヴァネ種を使用したジョージア産ブランデーのこと。つまりお酒だったのですね。しかし、この映画のスクリプトが出来てから完成するまで5年は経っており、その間ロシアではブレジネフ→アンドロポフ→チェルネンコと書記長が変わり、遂にゴルバチョフの時代へと突入することになります。ゴルビーといえばペレストロイカ。ということで、1985年6月にゴルバチョフ書記長が「反アルコール・キャンペーン」の一環として節酒法を施行したため、映画の中で用いられていたチャチャの瓶も「酢」へ変更しなければならない事態となったわけです。

まさに、ソ連時代に作られた映画ならではの裏話ですね。





~現代社会や文明に対するパロディや風刺~

また、この映画では当時の社会や環境、資本主義世界に対する皮肉や風刺などが、"不条理ゆるゆるSFコメディ"の中にうまく組み込まれています。ここが面白い!

例えばこの惑星プリュクでは、ひどい人種差別がまかり通っています。彼らは一見したところ同じような人間に見えますが、【識別器】を当てることによって緑色だと【パッツ人】、オレンジ色だと【チャトル人】と区別されます。プリュクにおいて身分の低いパッツ人は【ツァーク】というチリンチリン鳴る鼻鈴を付けて、チャトル人を敬わなくてはなりません。マシコフおじさんたちも「お前ら何様だ!おまえたちはパッツだ!!」と勝手に決めつけられて無理やり鼻鈴を装着させられます。

また、この人種差別以外にも「ステテコの色」での厳しい階級制度があります。特に【赤ステテコ様】と【黄ステテコ様】はエライので「クー!」の挨拶も二度しなくてはなりません。この星の儀礼にこなれてきたおじさんたちが、ちゃちゃっと「クー!」が出来るようになるところなんか可笑しいやら悲しいやら・・・
※ロシアのwikiでは『不思議惑星ギンザザ』に関して面白いくらい項目が細分化されています。パンツの色の差別化という頁もあって、「カラー分化パンツ:比喩的な意味でカースト制度を表し、社会的地位の属性を強調するもの」という説明と共にパンツ分類表も記されています。ご興味ありましたら是非!!

他にも・・・
■階級が下の者は楽器を演奏する時にはカゴの中に入らなければならないという厳重な規則
■水は【ルツ】という燃料に変えるために掘り尽しており、枯渇して星全体が砂漠化している
■ソ連時代ではマッチ1箱60本入りが2カペイカという最も安い製品だったのに対して、この星では【カツェ】と呼ばれて超最高級品として扱われ、このカツェで物を買うことも出来るため皆欲しくて仕方がない・・・・・などなど

何となく観ていれば、本当におとぼけ演出でバカバカしいまでにおばか映像を繰り広げていく映画にしか見えないのですが、実はペレストロイカの波が来る、そして社会主義国ソ連が崩壊する直前だったという時期を考えると、まるで旧ソ連や資本主義国などを模倣した世界観を持たせたこの作品に対してちょっと鳥肌が立つような、恐ろしく時代に即した映画を作り出し、世に送り出すことが出来たものだなと思わず唸ってしまうものがあります。





~国家間の対立や民族問題をユーモアの中に包み込んだ『キン・ザ・ザ』~

ただこの映画は、これまで書いてきたような批判的側面だけで成り立っているわけではありません。どちらかといえば、未来への期待や展望、人間への希望といった温かくてユーモラスな視点が、この映画の愛される理由なのかもしれません。

マシコフおじさんとゲデバン君は、どんな危機が訪れようとも互いを決して見捨てることがありません。地球に戻ることのできる日まで、おじさんは勇猛誠実であり続け、ゲデバン君はおじさんを信じてどこまでも着いて行きます。行動を共にしていたパッツ人とチャトル人のオッサン宇宙人二人に対しても、彼らがどんなに信用できなくとも攻撃的になることなく、それどころか彼らを助けようと地球帰還へのチャンスをふいにしたりもするのです。

惑星プリュクを脱出して辿りつく【ハヌード星】は"目障りだから"という理由で攻撃され全滅してしまった過去があります。また【アルファ星】は、一見豊かで美しく全てを可能にしてくれる金髪碧眼たちが住む場所ですが、"目障りな他者"は不幸な存在だと威圧的な態度で断定し、"異世界の人間には去ってもらう"と神様気取りで排除していきます・・・

そうなんです。
実はこの辺りの設定も、ロシアとジョージアの歴史的対立や民族問題、さらにはアメリカを始めとする西側諸国との関係を象徴しているものなのですね。プリュク星における「チャトル人」は「パッツ人」への支配に手加減することはありません。彼らの関係はロシアとジョージアの対立構造とよく似ているのです。

ところが、「ロシア人」のマシコフおじさんと「ジョージア人」のゲデバン君は協力し合い、共に危機を乗り越えていきます。豊かなアルファ星に取り込まれることを拒否して自分たちで未来を切り開いていくことを決意した二人が行きつくラストは・・・彼らの【絆】を思い起こさせる、泣きたくなるほど愛おしいシーンでした。

人間には、まだ希望がある。献身的な心と思いやりがある。未来を諦めてはいけない。
あのラストシーンの二人を観ていると、この映画で描きたかったのはここなのではないかと思ってしまいます。・・・まぁ、確かに最後の最後までユルユルではあるんですけどね。ただ、作ろうと思って出来るユルさじゃないところが、本当にスゴイ映画です。





■↓この映画を観る時に便利な単語帳
【カツェ】     マッチ
【チャトル】    通貨。
【ツァーク】    低い身分であることを示す鼻に付ける小さな鈴。
【ペペラッツ】   宇宙船。釣鐘状をしておりプロペラのようなものを回して飛行する。
【グラビツァーパ】 ペペラッツを時空移動させるための加速器。モーター部品。
【ルツ】      ペペラッツに使われる燃料。水から作られる。
【エツィロップ】  権力者、警察官。
【エツィフ】    囚人を収容する小さな箱。
【キュー】     公言可能な罵声語。
【クー】      それ以外の全ての表現。
※「ペペラッツ(Pepelatz)」は、ジョージア語で"蝶"を意味する「პეპელა (pepela)」から。
※「エツィフ(Ecikh)」も、ジョージア語の"要塞"を意味する「ციხე (ts’ikhe)」に由来。
 (いずれも英語版wikipedia【Kin-dza-dza!】より抜粋)


■↓なぜか今風の音楽が付けられている新しいトレーラー。オリジナルのトボケタ雰囲気とほど遠いし・・・これじゃまるでカッコイイSF映画みたい(笑)



■このレビューを書くにあたって、ロシアのサイトを理解できる範囲で見たのですが「知恵袋」のような質問サイトでも「この映画のどこが面白いのですか?教えてください」という質問が本国でも出ていました(笑)。若い世代のロシア人には、やはり戸惑うような内容なのでしょうか。丁寧な解説付きの回答もある中「自分で考えろ!"キューッ"!」というマニアからの怒りの回答もあり、なかなか面白かったです。





というわけで。
最後までお付き合いいただいてありがとうございました。
それではまたお会いしましょう!

    クゥー!!

※注:釣鐘型の宇宙船に乗ってやって来るこのお二人、太めのウエフを演じたエヴゲニー・レオノフとのっぽのビー役のユーリー・ヤコヴレフは、70年代に【人民芸術家】として表彰されたロシア演劇界の重鎮なのですって。ロシア文化は、その国土の如くキャラクターの幅もとてつもなく広いものですねぇ・・・・・



■この記事に関連する映画制作国、地域 : ロシア・旧ソ連映画 

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  2011/05/16 | Comment (0) | Trackback (1) | HOME | ↑ ページ先頭へ ↑ | edit

『ゾンビーノ』 (2006/カナダ)

   ↑  2011/05/13 (金)  カテゴリー: コメディ


【DVD】ゾンビーノ デラックス版キャリー・アン・モス [GNBF-7430]


●原題:FIDO
●監督:アンドリュー・カリー
●出演:キャリー=アン・モス、ビリー・コノリー、ディラン・ベイカー、クサン・レイ、ヘンリー・ツェーニー、ティム・ブレイク・ネルソン 他
●過酷なゾンビ戦争に勝利した人間たちは、ゾムコン社が開発した「調教首輪」でゾンビを従順なペットとして飼い慣らすことに成功。一家に一体飼うようになった世の中では、少年ティミーの家でもママの希望でゾンビを飼うことに。いじめっ子から助けてもらったのをきっかけに、ティミーはゾンビに「ファイド」と名付けて友達になる。しかしある日、ファイドが隣人のお婆さんを食べてしまったことから、とんでもない事件が巻き起こっていく・・・!



キャッチコピーは「僕の家にもペットのゾンビがやって来た!少年とゾンビの触れ合いを描いたゾンビ・ファンタジー」(笑)! 陽光美しく輝く街並に、カラフルに並ぶ家々、クラシカルな装い。強いパパと優しいママ・・・
どこかの国の古き良き時代を思い起こさせるホームドラマ風の舞台をガッチリと活かした上で、不気味なゾンビを過酷に働かせまくるというギャップが本当にシュールすぎて、あぁもうこの映画大好き!ちゃんと50年代風のドラマのように、車のシーンでも景色をはめ込みにするなどの細やかな設定も素晴らしく、無駄に完成度が高くて思わず悶絶してしまいました。前から観たい観たいと思っていましたが、期待以上に楽しめて幸せ気分です。


妻を顧みない夫より、心の通い合う"お手伝いさんゾンビ"とダンスするママ

『マトリックス』シリーズの時にはバァさんかと思っていたキャリー=アン・モス(失礼)が、プラスチックケースのような作り物の世界の中で生き生きと輝いていて、これにはちょっと感動してしまいました。世間体を気にするママかと思いきや、一転、独特の視点を持つ我が子を信じて守る強さや、ゾンビを思いやる愛情深さ、間違っていると思うことに対して信念を曲げない一本気なところなど、彼女の持つ凛とした美しさが尚一層引き立てられて、マトリックスよりも断然色っぽく、またカッコよかったなぁ!

それに、曲者トッド・ソロンズ監督の名作『ハピネス』(1998/アメリカ映画)で、ド変態人の喜びと悲しみを見事に演じて度肝を抜いてくれたディラン・ベイカーが、またまたパパ役として登場。期待を裏切らない"怪演"を見せてくれました(車の中でバンビちゃんみたいに可愛い男の子と二人きりになるシーンを見ると、反射的にビビってしまいます・・・)。世間的に"女々しい"と言われることに対して、痛々しいほど虚勢を張って自滅していく男性の役が本当に似合っている俳優さんで、彼の非日常的な雰囲気(というか"顔")が、この映画のフィクション性とピッタリ合っていて、マイナスオーラ全開。素晴らしかったです。





お散歩する時は、首に紐をかけましょう!

でもこの映画、現代社会に対する皮肉なんかがピリッと効いていて(意外と子育てなんかについても!)、おまけにゾンビという「死人の生き返り」と共存しながら、キリスト教の教えを何となく定着させているところなども堪らなく興味深かったです。

例えば、他の子供や大人たちと違って「ゾンビを飼い馴らした社会」に疑問を持っているティミー君は、単なる労働力としてしか扱われないゾンビに対して人間(?)性を感じるなど、この映画の世界では相当の変わり者。一見美しく整えられたこの世の中が、実は不都合なものを排除して無理やり作ったものだという、人間の身勝手さ、傲慢さ、欺瞞なんかを子供ながらに薄々感じているからなんですよね。

以下は、大好きな家政婦ゾンビのファイドを心配するティミー君がママとする会話です。

「人間が死んでゾンビになったら、それは完全には死んでいないってこと?」
「えぇ、完全にはね。例えるなら・・・天国に行く前の"苦行"みたいな感じじゃない?」
「じゃあ、ゾンビは罪人なの?」
「人間はみんな罪をおかすわ。でも神様は私たちを愛してくださる」
「神様はゾンビも愛してる?人を殺しても?」
「それは・・・・ゾンビが人を殺すのは、そういう性質だからよ」
「じゃあ、ゾンビのせいじゃないの?」
「ママはそう思うわ」


何でもないようにサラッと交わされた会話でしたが、私はここでガーン!ときてしまいました。子どもって、大人が作った世の中の仕組みに対する矛盾を、こんな風に考えて一人悩んだりするものです。おまけに、それを素直に周囲の人に聞いてみようものなら「馬鹿げている」「そんなことは考えなくていい」と一蹴されたりします。ティミー君のパパや、ゾムコン社のボトムズさん。それからボーイスカウトで"洗脳"されている学校の友達・・・このあたり、いい皮肉の効かせ方ですよね(笑)。でも、強い"マトリックス"ママだけは、ティミー君の疑問にちゃんと向き合い、ひとつひとつ丁寧に答えていってあげていました。ティミー君、話を聞いてもらえてすごく嬉しそう!





隣家のゾンビのタミーちゃんを心から愛しているミスター・テオポリスさん(これまた怪演!)や、ティミーと同じ感覚を持っているシンディちゃんたちには【幸せな結末】が待っていますが、世に中の矛盾に気づこうとしなかったパパや「ゾンビに情けを持ったらいけない」と言っていたボトムズさんの行く末が・・・(笑)。最後の最後まで、この映画は世の仕組みを嘲弄しているところが男前でした。カナダ映画、もっと応援したいなぁ。

そうそう、『ゾンビーノ』という思わず二流ゾンビ映画を彷彿とさせるようなこの邦題も、映画の味をうまく活かしていて面白いですよね!私は好きでした。

ゾンビーノ@映画生活



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  2011/05/13 | Comment (0) | Trackback (0) | HOME | ↑ ページ先頭へ ↑ | edit

『ジュリエットからの手紙』 (2010/アメリカ)

   ↑  2011/05/08 (日)  カテゴリー: ロマンス、ドラマ



ジュリエットからの手紙 [ アマンダ・セイフライド ]


●原題:LETTERS TO JULIET
●監督:ゲイリー・ウィニック
●出演:アマンダ・サイフリッド、クリストファー・イーガン、ガエル・ガルシア・ベルナル、フランコ・ネロ、ヴァネッサ・レッドグレーヴ 他
●ニューヨーカー誌の調査員として働くソフィーは、婚約者のヴィクターとイタリア、ヴェローナを旅で訪れた。自分のレストランの開店を控えたヴィクターは食材探しに忙しい。一人で「ジュリエットの家」を訪れたソフィーは、世界各地から寄せられたジュリエットへの手紙の山に驚く。ジャーナリスト志望で好奇心の強いソフィーは、その中の1通の手紙に強く惹かれる。それは50年前に書かれた女性クレアからの手紙だった。ソフィーがクレアに返信したことから、クレアの孫チャーリーも伴ってクレアの初恋の男性ロレンツォを探す旅が始まった・・・!




毎度ながらGyao!のオンライン試写会です。本当にもう、いつもお世話になっています。



というわけで、今回は【真実の愛】探しのキュートな映画です。
邦題では『ジュリエット"からの"手紙』となっていますが、初恋の人探しの「出発点」をほのかに連想させるという控え目かつニクイ視点が、あら素敵!

この映画、恋人未満の人どうしや、お互いちょっと気になる人と一緒に観るのが効果的なんだろうなぁ・・・なんて、腹黒い私はそんな若者たちのことを妄想しながら観ていました。結婚を迷い始めたマリッジブルーの人や、マンネリ気味の恋人同士は一緒に観ない方がいいでしょう。観終わった後・・・微妙な空気が二人の間に漂うかもしれませんよ~。

特に、思い切りのいい女性は「私も【真実の愛】に目覚めるわ!!」と、アマンダ・サイフリッドになりきって突っ走らないようお気を付け下さい。だって、不朽の名作「ロミオとジュリエット」の舞台である美しいヴェローナの景色や、ロマンチックな旅も堪能できて、女性がちょっと憧れてしまうステキなお話なんですよねー。映画っていいなぁ。


とにかくアマンダ・サイフリッドがとっても可愛い!

ロードムービーということもあり、彼女が着るちょっとしたカットソーとかワンピースドレスなど、旅行中のシンプルなファッションアイテムが健康的なセクシーさにピッタリと合っていて、一生懸命で飾らないソフィの魅力がキラキラいっぱいに伝わってきました。(ソフィのヘアスタイルも、ラストですごく効果的に使われていて素敵でした。ジュリエットのよう!)

・・・一方、出会った当初はまったく気の合わないチャーリー役のクリストファー・イーガンという俳優さんは、ライアン・フィリップと若い頃のヴァル・キルマーを足して2で割って、すごーく薄めたような顔をしているなぁと思いながら観ていました。・・・つまり良い所が見つからなかったわけです、スミマセン・・・・


なので、個人的には「愛すべき料理おばかちゃん」の婚約者を演じた、メキシコが生んだセクシーイケメン、ガエル・ガルシア・ベルナルの登場に思わず釘付けでした。バンビちゃんのようにつぶらな黒い瞳がカワイイ彼。でも今回はロマコメなのでセクシー爆弾は封印。おばちゃんは残念だよー。私なら絶対、胡散臭い弁護士より(失礼!)本物の美味しさを知っているレストラン経営のガエル君を選ぶんだけどなぁ。私も茹で立てのパスタをそのまま味見するのが大好きなのです!!あ、誰もこんなこと聞いてませんね(笑)。



だからというワケではないのですが、やはり私は年齢を重ねて人生を振り返る時期に来たヴァネッサ・レッドグレーヴとフランコ・ネロの二人の再会の方が胸にきました。二人は実生活でもお子さんがいらっしゃる長い付き合いのパートナーで、2006年にやっと結婚された【運命の人】だったりするんですよね。この二人が登場すると、登場人物たちの存在感や温かみ、説得力がぐっと増して、画も引き締まってくるから不思議です。

埋もれてしまった過去の甘酸っぱい思い出が、お伽話のような一通の「ジュリエット・レター」から蘇るなんて・・・映画ではありますが、やっぱりステキです。レッドグレーヴのように知的で美しく、魅力のある年の重ね方は本当に憧れですね。なんて美しいんでしょう!




なぜだか合成っぽいセットや景色もあったりするのですが、そんなのを吹っ飛すくらい「ロマコメ」の定型に沿った細部にわたるまでの"ベタ"な起承転結の展開も、音楽も、逆に清々しく感じるほど可愛らしい作品でした。きっと観終わった後は、爽やかな風が吹き抜けますよ!


2011年5月14日(土)Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開!!

ジュリエットからの手紙@映画生活



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  2011/05/08 | Comment (2) | Trackback (0) | HOME | ↑ ページ先頭へ ↑ | edit