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『大人の見る絵本 生まれてはみたけれど』 (1932/日本)

   ↑  2013/02/27 (水)  カテゴリー: コメディ


大人の見る繪本 生れてはみたけれど [DVD]


●監督、原案:小津安二郎
●出演:斎藤達雄、吉川満子、菅原秀雄、突貫小僧(青木 富夫)、坂本武、早見照代、加藤清一、小藤田正一 他
●東京の郊外に引っ越してきたサラリーマンの一家。近くには父親の上司の家もある。さっそく子どもたちは近所のガキ大将になり、その上司の息子も手なずける。ところが、父親はなぜか上司相手に卑屈な態度をとっていた。子どもたちにはそんな父の姿がたまらなく我慢ならなく・・・。子供の素直な視点から、肩書きに振り回されるサラリーマン社会の悲哀をユーモアを織り交ぜ描く。小津安二郎が28歳の時に撮ったサイレント映画作品。




隣りで一緒に座っていた子どもが画面をジーっと見て「あれ?聴こえないねぇ。音大きくしようか」と言ったので笑ってしまった。子どもはまだ漢字が読めないのでト書きが出ると「今なんて書いてあった!?」といちいち聞いてきてもう大変。昭和7年、小津安二郎監督のサイレント期を代表する映画を幼児とワァワァ言いながら観ました。



でも、就学前の子どもだからこそなのかな、無声映画の内容(ただしコメディパート部分だけど)をちゃんと理解して笑えるんだなーと思いました。音声に頼ることの出来ない部分を"画"で見て理解するという、サイレント映画ならではのわかりやすさなんででしょうね。

そう、「大人の見る繪本」というサブタイトルがありますが、本当に絵本みたい!
軽快な音楽を聞きながら口元をみてセリフが多少わかったりするのも、日本の映画ならではの有難さですね。

ヤンチャ坊主たちが喧嘩したり小突きあったりしながら、上手に年功序列のグループを作って遊ぶ「こどもたちの世界」を描いた前半部分は本当に可笑しくて「オナカヲ コワシテイマスカラ ナニモ ヤラナイデ下サイ」って(笑)、こんな大らかさがいいなぁと思いました。子どもたちもみんな純真で、ホント可愛いもんです。





「偉い人になりなさい」「ぼくは偉くなるんだ」

こんなセリフが幾度となく出てきますが、むかしの日本の映画や小説で言う「偉い人」というのは今の感覚よりもずっと純粋ですね。


家長として家族の柱であるお父さんの存在や、そんなお父さんを尊敬している子供たち、控え目ながらいつも家族のことを考えて優しく見守ってくれるお母さん。

こどもたちにとって当たり前だったそんな風景が「大人」と「こども」の世界が交差した"現実"の世界を前にして揺らいでしまう。大きくて強かったお父さんが、一人の人間として見えてくる。着替え途中のおとうさんの靴下がずり落ちているのを微妙な気持ちで見てしまう、こどものちょっと困惑したショットなど。そんな瞬間を『生まれてはみたけれど』という映画では、ほろ苦く、そして温かな視線で見つめています。

子どもの世界にも順列があるように、大人の世界にはそれ以上に確固たる上下関係があることを知ってしまい、ぼくたちの"強い"お父さんが"弱い側"にいることに我慢ならない、そしてそれがどうにもならないことが悔しくてならない。お父さんは強いはずなのに。ぼくはお父さんのようにはならない、絶対偉くなってみせる。そんなこどもの気持ち。

理不尽な現実をこどもに指摘されてお父さんは激怒してしまうものの、その後に込み上げてきた感情は、きっとこどもを落胆させてしまった寂しさと、そしてこどもが立派に成長していることを嬉しく思う気持ちだったんだろうなと思います。涙の跡を残して眠る我が子の寝顔を見つめる両親の表情は本当に切ないものです。



お父さんと一緒に食べたおむすびはどんな味がしたんだろう。いつかこのおむすびのことを思い出す日がくるんだろうな。そして「お父さんは本当に立派な人だったんだ」とわかる日がきっとくるんだろうな。

物語の最後の最後、上司の家の子どもに「本当は君の家の方がえらいんだよ」と言ったこどもの表情を見たら、なんだかホロッときてしまいました。こどもが大人に追いついた瞬間なのだなぁと。



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自転車泥棒 [ ランベルト・マジョラーニ ]


ふと1948年のイタリア映画でヴィットリオ・デ・シーカ監督の『自転車泥棒』という作品を思い出してしまいました。

敗戦直後のローマを舞台にした時代も国も異なる物語ですが、こちらも父と息子の小さなドラマです。ラスト、こどもが自分の涙を拭い、無言のまま父親の手を取り、寄り添って歩くシーン。セリフはありませんが子どもが父親をかばい、理解し、そして追いつく瞬間です。子育て子育てというけれど、本当は親が思うよりずっと早く、子どもはいつの間にか成長しているんだろうなと思うのです。切ないなぁ・・・・



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  2013/02/27 | Comment (0) | Trackback (0) | HOME | ↑ ページ先頭へ ↑ | edit

最近観たアメリカ映画をまとめて3本 『崖っぷちの男』『ハングリ-・ラビット』『アベンジャーズ』

   ↑  2013/02/18 (月)  カテゴリー: アクション、パニック
『崖っぷちの男』(2011/アメリカ)



崖っぷちの男 ブルーレイ DVDセット【Blu-ray】 [ サム・ワーシントン ]


感想(2件)


●原題:MAN ON A LEDGE
●監督:アスガー・レス
●出演:サム・ワーシントン、エリザベス・バンクス、ジェイミー・ベル、アンソニー・マッキー、エド・バーンズ、タイタス・ウェリヴァー、ジェネシス・ロドリゲス、キーラ・セジウィック、エド・ハリス 他
●朝のNY。脱獄犯のニック・キャシディは、マディソン街の名門ルーズベルト・ホテルに入り、チェックインを済ませ、21階の部屋へと入って行った。ルームサービスで注文した朝食を食べ終えると、部屋中の指紋をふき取り始め、「潔白な身で逝く」という書き置きを残して部屋の窓枠を超え、地上から60メートル幅わずか35センチの壁面の縁に降り立った・・・!!




"ワンシチュエーション"という単純で簡潔な舞台設定ながら、交渉役の刑事との駆け引きや過去に起きたダイヤ横領事件の真相など、主人公の落ちそうで落ちない高所での一挙一動のドキドキ感とあわせて、グダグダしないスピーディな展開を楽しめました。

監督のアスガー・レスはドキュメンタリー出身ということで『崖っぷちの男』が長編映画デビュー作品なのだそうすが、あえて込み入ったことをせず「この人はあの人なんだろうな」とか「これは本当はこういう目的なんだろうな」という分かりやすい"映画の基本"を土台に据えたことで、安定した観易さが生まれています。映画を純粋に楽しむ!にはもってこいの作品かも。詰めの甘さとか大雑把感なんかは、もうこの際置いておいて(笑)。


『クローザー』のブレンダ、いやいやキーラ・セジウィックが、「ドラマとドラマの間に影響ない程度に映画にも出とくわー」と言っているかのような役で出てきて笑ってしまった。それとエド・ハリスが観るたびに小さくなっていくのが気になります。ぽっちゃりでなくていいので、いつまでも凄味のある役者さんとして光っていただきたいです。






『ハングリー・ラビット』(2011/アメリカ)

【Blu-ray】ハングリー・ラビット/ニコラス・ケイジ


●原題:SEEKING JUSTICE
●監督:ロジャー・ドナルドソン
●出演:ニコラス・ケイジ、ジャニュアリー・ジョーンズ、ガイ・ピアース、ハロルド・ペリノー、ジェニファー・カーペンター、ザンダー・バークレイ 他
●ニューオーリンズの高校教師ウィルは、愛する妻ローラと平凡ながらも幸せな毎日を送っていた。そんなある日、ローラが何者かに暴行され、重傷を負って病院に運ばれる。突然の悲劇に激しく動揺するウィル。するとそこへ謎の男サイモンが近づき、代わりに犯人を殺してやると代理殺人の契約を持ちかけてくる。代金は不要で、後で簡単な頼みを引き受けてくれればいいというものだった。逡巡の末に、その提案を受け入れてしまうウィルだったが・・・。



ジャンルでいうなら典型的な「ニコラス・ケイジもの」で間違いない!
仕事は絶対、学者や研究者・教師などのインテリ職で、嫁さんは必ず絶対もう絶対美人、事件に巻き込まれるものの愛する人や正義感のために泣きそうな顔で大奮闘。→えぇ、間違いなく【ケイジもの】で安心しました。追い詰められて"ニコちゃん善人パワー"全開の映画です。


近年『アンノウン』やら『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』などの大作出演が続き、ドラマ『MAD MEN』で悪妻ドレイパー夫人としてスパークしているジャニュアリー・ジョーンズ。今回はケイジの美人嫁さん役なんですが・・・・ちょっとこのかた、演技力が残念です。プラス、せっかくのガイ・ピアースも正体が浅くてこちらもまたまたちょっと残念。もっと奇抜になってほしかった~!!集中力のない私など、ラストは一瞬「このおじさん誰だっけ??」と思ってしまいましたが「根は深い!」というオチなのですね。なかなか楽しめる一本です。

それとこの映画、実はトビー・マグワイアが『カントリー・ストロング』に続きプロデューサーとして製作に回っていたことに驚きました。この後『ロック・オブ・エイジズ』も作っているんです。マグワイアは音楽好きなのかな?





『アベンジャーズ』(2012/アメリカ)


アベンジャーズ 3Dスーパー・セット【Blu-ray】ロバート・ダウニーJr.


感想(20件)


●原題:THE AVENGERS
●監督:ジョス・ウェドン
●出演:ロバート・ダウニー・Jr、クリス・エヴァンス、マーク・ラファロ、クリス・ヘムズワース、スカーレット・ヨハンソン、ジェレミー・レナー、トム・ヒドルストン、クラーク・グレッグ、ステラン・スカルスガルド、コビー・スマルダーズ、グウィネス・パルトロー、サミュエル・L・ジャクソン 他




今の時代、映画の中で車が引っくり返ろうがヘリが墜落しようが、誰もそう簡単には驚かなくなってしまったけれど、一緒に観たこどもは「うわー!!」「すごーい!!」「あぶなーい!!」と驚きまくりで大興奮。怪獣(?)との闘いはスーパー戦隊もので慣れているはずなのに、やはりクォリティの高さに圧倒されたのか。こどもよ、これが映画だ!!(笑)

とはいえ、この映画を楽しまずにはいられませんでしたねぇ!後半1時間近くあるオールスターの戦闘シーンも圧巻。お祭り映画は楽しいなぁ。


それにですね、初めて「ハルク」というキャラを受け入れられました。
これは何と言ってもマーク・ラファロの味ですよ!彼の温和な雰囲気と時折見せる悲しげな目、そしてちょっとハスキーに抑えたセクシーボイスにやられました。「本当はいつも怒っている・・・・・」ですって、すてきすぎるー!今回のハルクはユーモアもありますしね。そう、ヒーローキャラにギャグを軽く入れてくる監督の手腕は素晴らしい!誰?と思ったらジョス・ウェドン。懐かしい・・・サラ・ミシェル・ゲラーの「バフィー~恋する十字架」観てましたよ~。それに『トイ・ストーリー』の脚本も担当されていたとは。見事な辣腕ぶりを発揮されました。

・アイアンマンの人工知能J.A.R.V.I.S(ジャーヴィス)の声は、ポール・ベタニー。
・ハルクが落下して激突する建物の警備員役に、ハリー・ディーン・スタントンが出演。
・ナターシャを尋問するロシア人スパイ役では、ポーランド人映画監督イエジー・スコリモフスキが怪演。
・アイアンマンへ変身するためのアイテムは、大阪の健康器具販売会社のブレスレット型磁気健康器具。で、販売元の小松社長もカメオ出演。
 (『アベンジャーズ』アイアンマンの変身アイテムは大阪発の商品だった!販売元社長がカメオ出演)

こんな小ネタも満載の絢爛豪華、超エンターテイメント作品でした。あぁ、予習しておいて本当によかったなー!次回はぜひ映画館で!!



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  2013/02/18 | Comment (6) | Trackback (2) | HOME | ↑ ページ先頭へ ↑ | edit

『泳ぐひと』 (1968/アメリカ)

   ↑  2013/02/18 (月)  カテゴリー: シリアス、社会派




泳ぐひと [DVD]


●原題:THE SWIMMER
●監督:フランク・ペリー、シドニー・ポラック 
●出演:バート・ランカスター、マージ・チャンピオン、キム・ハンター 他
●高級住宅街に現れた会社員・ネッドが、近所の自家用プールを泳ぎながら我が家へと帰っていく。その過程での友人たちとの交流を描いていく。ジョン・チーバーの短編小説を基に、F・ペリーが映画化したアメリカン・ニューシネマの名作の1つ。



※この記事は、2008年以前のレビュー記事より映画を再見→再投稿したものです。

ストーリーはごくごく簡単なのに、どのジャンルにも当てはまらないのがこの作品。2005年のレビュー時が初見でしたが、私にとっては"トラウマ映画"のひとつかも・・・・・。


主人公ネッドが高級住宅街にある友人たちの家庭用プールを泳ぎつつ、様々な人々と出会いながら自分の家へと帰っていく・・・。たったこれだけの話なのに、物語がラストにさしかかる頃にはプールの水で濡れている彼の体が、まるで自分のそれのようにヒンヤリ冷たく感じられて思わず身震いをしてしまう。信じている物や思い込んでいるものが引っ繰り返るその瞬間。人間とはここまで哀しいものなのか・・・

そんな強烈な思いが突きつけられた、忘れられないコワイ映画となっていたのでした。



真夏の日曜の午後。キラキラと輝く太陽のもとで歓迎してくれる友人達との楽しげな交流と思えたものが、4軒、5軒と進んでいくうちに次第に日は陰りだし、友人達の対応は徐々に冷淡なものへと変わっていきます。

彼らがおかしいのか?いや、考えてみれば肉体美を誇る主人公ネッドにも、どこか少し異常で不安定な感じがしてくるのです。何かがおかしい。そしてラストには、彼の無残な現実の姿がさらけ出されるのです。






映画『泳ぐひと』は、いわゆる「アメリカン・ニューシネマ」初期の傑作として知られていて、これを踏まえた映画評としてストレートに思い浮かぶのは「当時のアメリカ社会の"挫折感"や"敗北感"そのものを主人公ネッドが象徴している」というもの。

映画製作当時の1960年代の政治的、社会的背景といえば、キューバ危機、ケネディ大統領暗殺、ベトナム戦争への本格的介入、反戦運動、人種差別問題等の公民権運動、そしてキング牧師暗殺。世界におけるアメリカの確固たる強さが内側から揺らぎ始め、信じるべき方向性や希望さえも見失い始めていた時期と言われていますから。


ところが最近、この映画の原作短編小説で1964年雑誌「ニューヨーカー」で発表されたジョン・チーバー(John Cheever)の「The Swimmer」を翻訳で読む機会に恵まれ、この物語に対して別の側面からの捉え方を教わった気がしました。

それは、チーヴァーが「サバービア(suburbia=郊外住宅地)」を舞台とした短編小説を多く編んでいる作家であった、ということから見えてきます。

チーヴァーが手懸けた「塗り固められた見せかけの幸福の下にある不安定要素、それが暴かれる恐怖」というものが何故この時代の人々の心を捉え、注目されたのだろう?人々がそれほどまでに怖がっていたものはなんだったのだろう?ということに私は興味を持ちました。


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60年代アメリカ―希望と怒りの日々


そこで、当時の社会的背景を具体的に知るために「60年代アメリカ 希望と怒りの日々」というトッド・ギトリン(当時学生運動のリーダーでニュー・レフトを代表する社会学者)の著書を参考にしてみました。

ギトリンは「平穏で自足していたと考えられる50年代が不穏な60年代によって引き継がれた」と捉え、「まず推測されることは、この世代は豊かさにひたりながら、反面では喪失、崩壊、失敗の恐れで極端に悲痛な緊張感の中で人格形成がなされた」と考えています。

当時、住宅建設ブームがあり、地方から都会へ、都心から郊外へ、南部から北部へという大移動現象によって、何百万というアメリカ人が全く新しい居住空間を獲得していました。そこから都市郊外に移り住んだ人々の特徴をこの書から少し引用してみます。
 中産階級の親たちは、50年代の慣用語で言えば「不確実」の思いに苦しんだ。それは感じること自体が後ろめたいとされたものだった。なぜなそれは「不適合」を意味していたから。しかし消費への渇望を癒すためにローンを積み重ね、自分たちの犠牲的努力がいのあるものだったと納得するために、そして清教徒主義の心理的重圧から逃れるためいかに空間と物質の獲得に熱中しても、彼等は今いる快適な消費者の楽園がこのまま続くと思ってばかりはいられなかった。(中略)
 多くの兆候が、アメリカ人がこのエデンの園で必ずしも居心地のよい思いをしていなかったことを示している。この兆候は文化の広い領域に散在していたため異なる解釈をされることがあるが、その全体を総合すれば相当なものになる。たとえば、アメリカ人が収入の次第に大きな部分を生命保険に投入するという顕著な傾向が一つある。1950年から69年の間に、一家の収入のうち日常の支出に回される部分は49%の上昇をみたが、個人の生命保険契約の伸びは保険金高に換算して200%に達した。(中略)1940年から64年の間に、精神分析医の数が6倍近くになったことも注目に値する。

そう、人々は心の奥深くで「作り上げた幸福」の脆さを知っていて、それを薄々感じつつ覆い隠していたのでしょう。生命保険に入り、精神科医に頼ることで。

こんな例もあります。
パットナムの『孤独なボウリング』(*注)によると、1960年代にアメリカはその歴史上最もコミュニティ活動の盛んな時期を迎えていたという。1964年の『ライフ』誌が「米国人は今や、過剰な余暇に直面する」と宣言しているように、ポーカークラブや地域のボーリングリーグ、バーの飲み友だちと野球仲間とのつきあい、隣人とのピクニックやパーティ、教会活動など「過剰なまでの入会好き(ジョイナー)」として積極的に隣人との関与を求めていた。このようなアメリカ人のコミュニティ感覚とは、「偶然、一時的に、共に暮らすことのなった人々のあいだで絶えず生み出され続ける結びつきの感覚」なのである。そして、そのようなコミュニティ感覚を醸成するのに最もふさわしい「器」となったのが、郊外のコモンを有する住宅地であった。

*注 ロバート・D・パットナム『孤独なボウリング 米国コミュニティの崩壊と再生』柏書房、2006
住宅生産振興財団により年2回刊行される総合機関誌「家とまちなみ」№64より
まちなみ研究【郊外住宅地の成熟過程】第5回 ユートピアとしてのアメリカ郊外 (著:九州大学大学院助教 柴田建)



【Suburbia】 by Bill Owens


作り上げたコミュニティやステイタスから滑り落ちる怖さ。

『泳ぐひと』の舞台は高級住宅街であり主人公ネッドもハイクラスという設定ですが、中産階級という当時アメリカ人の最も多い層の人々にとって、この物語は他人事ではなかったのかもしれません。心のどこかで、一瞬ですべて失った大不況という一世代前の記憶が刷り込まれていたのかもしれない、という考え方も興味深いものがあります。

チーヴァーの他小説のように、消費に追い立てられて心の余裕や平静を失っていく人々の言動は、十分今の時代にも通じ合うものがあり、どこか狂的で危ういヒヤリとした怖さを感じてしまうのです。






 
夏の午後だったはずの熱気を感じる空気は、秋を感じさせる冷たい空気に変わり、赤や黄色に染まったカエデが風に吹き飛ばされる光景を目にし、ネッドは夏の星座の出ていない冬の夜空を見上げ泣きだしてしまう・・・・

小説の中では、彼が泳いでいく午後の時間が季節も含め、異常なスピードでグングンと進んでいることが明確に描写されていることにも気がつきました。

原作小説ではプールづたいに家に帰ろうと思いついた主人公ネッドは明らかに友人たちと一緒にいたわけですが、思い出してみれば映画版の冒頭では、彼は突然友人たちの前に現れるのです。水泳パンツ一枚で。いったい彼はどこから現れたのだろう?

このような不条理な設定のなかで、徐々に暴かれていく人間の脆さや隠しておきたい愚かしさ。この物語は、たとえ自覚がなくとも深層心理のうちに人々の心を大いに揺さ振り、また"見せかけの繁栄"へ批判的視点を持つ人々からも支持されたものだったのではないでしょうか。






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  2013/02/18 | Comment (2) | Trackback (1) | HOME | ↑ ページ先頭へ ↑ | edit

『卵の番人』 (1995/ノルウェー) ※ラストの展開&ネタバレしています

   ↑  2013/02/11 (月)  カテゴリー: コメディ




【VHS】卵の番人


●原題:EGGS
●監督、脚本:ベント・ハーメル
●出演:スヴェレ・ハンセン、ヒエル・ストルモーン、レーフ・アンドレ、ユーニ・ダール・ブロンダル
●ノルウェーの森に住む老いた兄弟、モーとファーは完璧なルーティンの中で生活していた。同じ時間にとる質素な食事や午睡、時折訪れる客人など、まるで変わることなく続く穏やかな毎日。ところがファーの隠し子コンラードが現れたことで、二人の生活に異変が起こる。鳥の卵のコレクションを抱え、車椅子に乗り、雌鳥のような奇声を発するコンラード。やがてモーは、不気味な甥によって平穏と自分の居場所が失われつつあることに気付くのだった・・・。各国の映画祭で絶賛された、ノルウェーの雪深い森の中で暮らす老人の兄弟を描いたオフビート感覚の美しい寓話。




観終わったあとに「ねぇねぇ、あのラストどう思った??」と思わず誰かに話しかけたくなってしまう映画でした。VHSのジャケットだけ見るとめちゃくちゃ怪しい作品にしか見えません。ま、確かにかなり独特なリズムのある映画ではあるんですが、でもこれはかなり誤解を与えそうなデザインで、私はちょっと悲しい。


映画の冒頭で繰り返される「これさっき観なかったっけ??」と、思わず自分がボケたのか眠ってしまったか!?と疑ってしまうようなおじいさん兄弟の日常生活。これを見せるカメラはとにかく固定。何が何でもカメラは固定。繰り返される平凡な日常と日々の生活の細かなあれこれをただ映し、喋りまくるのはローカル局のラジオのみ。こんな序盤から、徐々に老兄弟の会話が増えてきて、この映画のテンポを掴んでいきます。一段ずつズレている階段のデザインなんて、なんだかこの映画を象徴しているみたいでスゴク印象的。



二人でラジオ活劇を聴いたり、宝くじをしたり、クリスマスの準備をしたり、縫い物をしたり、クロスワードパズルをしたり。お年寄りのゆ~っくりとした、繰り返される日常です。こんな地味な二人の生活のあれこれを見ているうちに、だんだん麻薬的な中毒性を感じ始め、彼らの微妙にツボに入るやりとりや動きから目を離せなくなるんです。

"歓迎"の意味で「赤地に青十字」のノルウェー国旗を出そうと(凍ってしまったので)お湯で溶かしたら赤が消えてしまって「白地に青十字」のフィンランド国旗になっちゃった!という北欧的小ネタとか、配達に来てくれたおじさんが頭に器具を乗っけたまんま「いつものアレやろうやろう」的な感じで始める「風船卓球」・・・ってなんだあれは!?(笑)とか、本当に好きだなーと思いました。





主演の二人は、実際に大戦中共同生活していたというノルウェーの名優スヴェレ・ハンセンとヒュル・ストルモーン。彼らから醸し出される自然な雰囲気にクスっと笑わせられながら観ていたこの穏やかな日々も、ファーがむかしスウェーデン旅行でつくったという息子のコンラードの存在が発覚し、彼の母親が重病なので二人の家にやってくる・・・・というあたりから、少しずつこの物語に微妙な変化が現れてきます。


だって、このコンラードという息子。鳥卵の膨大なコレクションを大事に持っている彼の存在は、これまで綴られてきた素朴なストーリーの中において、あまりに不気味!この存在感はまちがいなくデヴィッド・リンチ級。何がどうなるんだ!?と見守っているうちに、思いがけないエンディングがこの映画のラストを待ち受けているのです・・・・




ユーモアと不条理に満ちた、この奇妙な傑作!

【DVD】クリスマスのその夜に 【DVD】ホルテンさんのはじめての冒険 【DVD】酔いどれ詩人になるまえに 【DVD】キッチン・ストーリー
『卵の番人』は、『クリスマスのその夜に』(2010) 、『ホルテンさんのはじめての冒険』(2007)、『酔いどれ詩人になるまえに』(2005)、『キッチン・ストーリー』(2003)といった、近年日本でも人気の高い北欧映画界のベント・ハーメル監督のデビュー作品なんです。ちょうど現在、渋谷のユーロスペースでは「トーキョーノーザンライツフェスティバル2013」を開催中(2/9-15)。←い、いきたい・・・



※それでは最後に、あの"ラストの展開"についての感想を!

           ↓  ねたばれ注意  ↓


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  2013/02/11 | Comment (0) | Trackback (0) | HOME | ↑ ページ先頭へ ↑ | edit

『すべて彼女のために』 (2008/フランス)

   ↑  2013/02/02 (土)  カテゴリー: サスペンス、ミステリー



ラスト3デイズ~すべて彼女のために~ 【DVD】


●原題:POUR ELLE/英題:ANYTHING FOR HER/ラスト3デイズ~すべて彼女のために
●監督:フレッド・カヴァイエ
●出演:ヴァンサン・ランドン、ダイアン・クルーガー、ランスロ・ロッシュ、オリヴィエ・マルシャル、アンムー・ガライア、リリアーヌ・ロヴェール、オリヴィエ・ペリエ、ムーサ・マースクリ、レミ・マルタン 他
●フランス、パリ。国語教師であるジュリアンと編集者であるリザは、一人息子のオスカルと共に平凡ながらも幸せな生活を送っていた。しかし、ある朝、彼らの人生が一変してしまう。警察が突如として家に押し入り、リザが上司を殺した容疑で逮捕され、投獄される。やがて三年の時が経ち、リザに二十年の禁固刑が宣告されてしまう。悩んだ末に、彼がとった行動とは・・・?本国フランスで大ヒットを記録し、ポール・ハギス監督、ラッセル・クロウ主演により『スリーデイズ』としてハリウッド・リメイクされた。





ベタな人情話を持ち込まず、ドライに流す無駄のない潔さのあるフレンチ・サスペンスアクション、最近大好きなんです。無実の罪を被せられた奥さんを助けるために、ご主人いきなり脱走計画にアタマが飛んでしまう!という、あまりにストレートでシンプルな構成。思い切りが良くていいなぁ。



さらに、『プレイ‐獲物‐』の時にも感じたことだけれど、主人公のジュリアンが物凄くフツーのオジサンに見えるところが高得点でした。中盤ブチ切れてからの"なりふり構わず感"が凄まじい。警察の手が伸びてからの緊張感とスピード感はもっとスゴイ。この終盤戦の、都合の良い、とにかく運のいい話運びはやや気になるものの、ここはジュリアンのそれまでの鬱憤を晴らすが如く・・・ですからね!!



一方、いきなり監獄へ入れられた悲劇的な奥様であるダイアン・クルーガーって、美人だけれど情感に乏しくて何だか見ていて「これならナタリー・ポートマンが演じていても気づかないんじゃ?」くらいに感じました。一人息子のことをもっと気にかけてくれよーと本気で心配になりました。無実にもかかわらず犯罪に巻き込まれた悲惨さとか、絶望感、必死さだとかがあまり見えず。やつれても叫んでも美しく、ひっつめ髪でも美しい。美人とはそういうものなのだろうか。あ、でもこれだけの美人奥様だからこそ、ご主人も死にもの狂いになるわけですね。そうか、ワタシじゃだめなんだ!はいはいそうですね、美貌は必要でした



ただ人間ドラマとして一番印象的だったのは、冤罪→脱獄に突っ走るジュリアン実家のご両親の思い。最小限にまで削ぎ落とした親子のセリフ、言葉を交わさず目だけで語るその演技は、ここだけリアリティ満点で胸にぐっと迫りました。脱獄計画を壁に書くお父さんの真似をしていた健気な一人息子のオスカル君、立派に成長してほしいなぁ。




スリーデイズ【Blu-ray】 [ ラッセル・クロウ ]


感想(3件)


小さな自分のアパルトメントの部屋で書いたデビュー作『すべて彼女のために』の脚本を結局自分で撮ることになり、その2年後にはラッセル・クロウというような大スターとポール・ハギス監督によってリメイクされ(『スリーデイズ』(2010/アメリカ))、自分が思い描いたキャラクターをクロウが演じるのを見て「まるでSFのようだ」と感じたというフレッド・カヴァイエ監督。(HuffPost Interview: Fred Cavaye Goes Hollywood【HuffPost Entertainment】より)

次は2010年の同監督作品『この愛のために撃て』を観たいと思っています。決して安易に心安らぐハッピーエンドとはせずに終わらせた『すべて彼女のために』を96分でまとめたカヴァイエ監督。『この愛のために撃て』はなんと85分!・・・ラッセル・クロウ版『スリーデイズ』は134分と聞いてかなり尻込みしています(笑)。時間があればぜひ対比させて観てみようかな。

すべて彼女のために@映画生活




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  2013/02/02 | Comment (0) | Trackback (0) | HOME | ↑ ページ先頭へ ↑ | edit