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『ブルーノのしあわせガイド』 (2011/イタリア)

   ↑  2013/03/28 (木)  カテゴリー: コメディ
 映画『ブルーノのしあわせガイド』公式サイト
●原題:Scialla! (Stai sereno)
【イタリア映画祭2012】タイトル:シャッラ/いいから! 
●監督:フランチェスコ・ブルーニ
●出演:ファブリッツィオ・ベンティヴォリオ、フィリッポ・シッキターノ、バルボラ・ボブローヴァ、ヴィニーチョ・マルキオーニ 他
●ローマで著名人のゴーストライターや家庭教師をしながら気ままな生活を送る中年男ブルーノは、ある日、教え子ルカの母親から、自分が留守にする半年の間、ルカを預かってほしいと頼まれる。しかも、ルカは15年前にブルーノとの間にできた子どもだという事実を告げられる。ブルーノはルカに父親であることを隠しながら、一つ屋根の下で暮らし始めるが・・・。イタリア映画界で長く脚本家として活躍中のフランチェスコ・ブルーニが、50代にして初監督・原案・脚本を手がけたハートウォーミングな1作。



Gyao!映画
4月13日(土)より、シネスイッチ銀座他にて公開!!のイタリア映画作品を「オンライン試写会」にて鑑賞。






さて、この映画。なんだかテンポや構成がズレているなぁ~と思いながら観ていました。あ、でもこれは良い意味での感想なんです。

変に映画を見慣れてしまうと、ある場面やセリフなどから何か悪いことが起きるんじゃないか?という「フラグが立つ」瞬間を感じ取ってしまうことがあって、思わずそれに揺さ振られておかしな緊張感を勝手に抱いてしまいがちです。でもこの『ブルーノのしあわせガイド』は、そんなものを跳ねとばしてくれる"善意"のパワーが流れているのを感じました。それが何よりも心地よくて、こんな時代のイタリアでこういう映画が生まれていたことが本当に嬉しかったりもして。

鑑賞前にあらすじを読むと「父子の感動的な心の寄り添い」なんかをちょっと期待してしまうわけなんですが、意外や意外、この物語は"あるトラブル"が起きて新しい展開を見せる時は、ほとんどもうラストだったりします(笑)。で、この映画の大半は、二人それぞれの何となく抱えている"もやもや"を映していきます。目的がわからない、何もできない、そんなモヤモヤした気持ち。

うつ伏せの寝姿もキュウリ嫌いなところも同じ二人。「なんで僕たち母子を捨てたんだぁ」とか「息子よぉぉ」とか、そういう親子の情に対する説教じみたありがちな展開(わたしベタですかね・・・)が一切、まったく、ちっとも起こらないんです。これは私にとって予想外に新鮮なシナリオで、こんなに押し付けがましさや作りこみを感じず、気取らない素直な清々しさは久々かもしれない!そんな気持ちがしました。






ま、考えてみれば、この映画の登場人物たちもちょっと面白いんですよね。詩や文学、音楽に親しむポルノ女優のティナの気っぷの良さはカッコイイですし、トリュフォーの『大人は判ってくれない』の鑑賞会を無理強いするヤクの売人チェチェレだとか。

主人公ブルーノだって変わっています。イタリア人だけれど女にはもうそれほど興味もなくてサッカー嫌い。しかもローマにいながらベネツィア方言を話す彼はバールで「北部人!」と野次られる始末(笑)。そういえばブルーノが街中をバイクで走るシーンは、ナンニ・モレッティ監督(やはり元は北部出身)が『親愛なる日記』の中でヴェスパを乗り回していた姿を思い起こさせるものでした。


向こう見ずで強がるルカは悪ぶってはいるけれど、悪質なものに惑わされず物事の本質を見抜く力と聡明さを持っている。それはきっと、愛情深く育った子だからなんだろうなぁ。彼のリュックに"Verità x Stefano Cucchi"(=The truth about Stefano Cucchi)と書かれているのも、2009年に起こったステファノ・クッキ事件(警察や刑務所の権力濫用による少年の死亡事件)に対する抗議、彼の意志の強さを表しているのかも。

イタリア社会で以前から問題になっている若者の間にはびこる薬物問題の危うさを扱いながら、そんな世界を優しく吹き抜けていく風のような映画だなぁと思いました。『ブルーノのしあわせガイド』は、マンマの愛情に始まりマンマの愛で終わる、そんな物語なんですよ。






ところで、この映画の原題でもありイタリアのラッパー Amirが歌う主題歌の「Scialla!」

映画の中にも登場する「Scialla!(シャッラ)」とは、数年前にイタリアのローマっ子の間で流行り、今では日常語として使われている若者言葉。「STAI SERENO(スタイ セレーノ)=まあいいから、落ち着いて」の略で、英語で言う「take it easy」にあたる。
公式サイトには書かれてあって、実際2009年にイタリアで流行語となった若者言葉で、人気TV番組『Amici』の中で使われたのが発端だったようです。

ただ、もう一つの語源もあって、それはアラビア語の「インシャーァッラー(inshallah)から来ているという説。

本来はムスリムの間で使われるアラビア語の「神の御心のままに」という意味ですが、例えば待ち合わせの時間を決めておいて「まぁ(神様がそう決められたなら)インシャーッラ間に合うと思うよ」とか「インシャーッラー(神様が決められたことなら)行けたら行くよ」と使われたりして、毎回友人たちに口癖のように言われる度に「何がインシャッラーだ、自分の意思で来ーい!」とか思っていた私はあまりに日本人でしたが(笑)、確かに「Scialla(シャッラ!)」という音も「まぁ何とかなるよ、どうにかなるんだよ」という意味も、非常に似た使われ方なんですよね。この説、けっこうしっくりくるような気がします。

『ブルーノの幸せガイド』の中でも、登場する従業員や使用人といった人々が移民だったりするシーンが見られます。もし、そうやって渡ってきた言葉が新しい社会に根付いていたのだとしたら、そんな面白さをも表しているリアルでピッタリな原題だなぁとも思いました。「Scialla!」を歌うAmirもエジプト移民二世だそうです。


4月13日(土)より、シネスイッチ銀座他にて公開!!


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  2013/03/28 | Comment (4) | Trackback (2) | HOME | ↑ ページ先頭へ ↑ | edit

『ルルの冒険 ~黄金の魂~』 (2007/デンマーク、スウェーデン、ドイツ)

   ↑  2013/03/22 (金)  カテゴリー: アクション、パニック
 
●原題:De fortabte sjæles ø /英題:ISLAND OF LOST SOULS
●監督:ニコライ・アーセル
●出演:サラ・レンジベック・ガーマン、ルーカス・マンク・ビリング、ラッセ・ボルグ、ニコライ・コペルニクス、アンダース・W・ベアテルセン、ラールス・ミケルセン 他
●ルルと弟のシルベスタはとあるデンマークの田舎町に引っ越してきた。ある夜、100年以上前に死んだヘルマンの魂がこの町に現れ、突然シルベスタの体に入り込んだのだった。シルベスタが幽霊と話しているところを目撃したルルは、近所の少年オリバーとともに別人となったシルベスタを問い詰めたところ、モンク島に潜む悪魔の使者"ネクロマンサー"が復活して死者の魂を呼び出しているという。ルルは町の超常現象研究家リチャードらの力を借り、弟を救う冒険へと出発するが・・・。




これどう見ても、日本版のジャケットデザイン&タイトルがハリウッド映画『ライラの冒険 ~黄金の羅針盤~』の明らかなパクリでして、なんだかオカシイなぁ??と思っていたら、この原因、配給元のギャガ(販売当時は"G-CORE")のスタッフブログを見てわかりました。ビデオストレート業界では、この手の作品は“本物に似せる”というのが鉄則なんだそうで。"オトナの遊び心"というものらしいですのですが、思いっきり"内輪ウケ"です。

しかも、『ライラの冒険 ~黄金の羅針盤~』とこの『ルルの冒険 ~黄金の魂~』、そしてこれまた全く無関係なドイツ映画『マナツの冒険 ~黄金の石盤~』というタイトルを(勝手に邦題にして)3つ揃えて同時にレンタル開始!としたのだそう。

ライラの冒険~黄金の羅針盤~【GAGA】 ルルの冒険~黄金の魂~【GAGA】 マナツの冒険 ~黄金の石盤~【GAGA】
こういう売り出し方って、無関係な映画どうしに思わせ振りなイメージを植え付けてしまって、でも実際見たら「全然違うじゃん!!」というガッカリ感を覚えてしまうわけで。"勘違いレンタル"にしか頼れないなんて、これじゃあせっかく良く出来た元の映画の形をぶち壊しにしているとしか思えないんだけどなぁ。本国の制作スタッフやキャストに失礼だと思うんですよね。ま、私なんかがこんなところでプンスカ怒っていても仕方ないんですけどね・・・・・




だって、なかなか良かったんですよ!この映画。

北欧製のアドベンチャー・ファンタジー。孤島に捉えられた魂たちを解放するというメインストーリーに加え、何百年も密かに戦い続ける悪魔の使者ネクロマンサーと悪魔祓い結社の因縁や、両親の離婚で心を閉ざした思春期の少女の悩みなどがVFXたっぷりに綴られ、見応えあるキッズ・ムービーに仕上がっている。一方、僧侶とネクロマンサーに殺された恋人とのエピソードや全体に漂うシリアスなムードなど、大人が見ても楽しめる要素も充実。
■番組紹介/解説「ルルの冒険~黄金の魂~」【wowowオンライン】

なんと映画の35分に相当する630もの特殊効果ショットの合計は、あの『ジュラシックパーク』よりも多く北欧映画史の中で最大の特撮映画なんですよ!(De fortabte sjæles ø (2007)Trivia【IMDb】より) これらVFXの美しさはかなりナチュラルで、悪者の案山子がビョォォォン!!と飛び掛かってくるシーンとか、私、大好きでした。 しかも監督は、あのスウェーデン映画『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』の脚本を担当したニコライ・アーセル。うーん、お子様映画なのに家族のドラマが妙にシリアスで暗いのはそのせいか!(笑)



それにね、登場時間は僅かしかないのですが、日本で公開される数少ないデンマーク映画ではよく見かけるアンダース・W・ベアテルセン(『幸せになるためのイタリア語講座』の牧師様、『ミフネ』のダメ主人公)など、ベテラン俳優が出ているところなんかも渋いです。安心して観ていられます。

オーケストラの壮大な音楽に身を委ねて、ハリー・ポッターやナルニア国物語が好きな人であればなお、子どもでなくても十分楽しめる映画だと思います。


ま、惜しむべくは、主役の女の子の演技がやや残念気味で緊張感に欠ける点かな。かなりの美少女なのに勿体ないな~。感情を押し殺し気味の思春期の女の子の役なのでまぁなんとかもった方かと思いますが、その代わり、ヘルマンの魂が入り込んだ時の弟くんの"大人演技"がなかなかで、これには感心してしまいました。ちょっとオスメント君入っていますが、弟君くん芸達者だぞ!

「対悪魔戦闘ロッジを復活させるわ!」というラストもカッコいいじゃないですか~!続編できたら私は絶対観ます。ほんと、なかなか良かったですよ、この映画。"バッタもの扱い"にされたのが本当に残念


※因みに・・・
映画の最後に出てくる小型飛行機の側面に書かれた"OY - 1138" という文字。
OYというのはデンマークの航空機に使われる"国籍記号"なんですが、"1138"はジョージ・ルーカス監督の1971年の映画 『THX-1138』へのオマージュなんだそうです(De fortabte sjæles ø (2007)Trivia【IMDb】より)。"映画愛"ですね!




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  2013/03/22 | Comment (0) | Trackback (0) | HOME | ↑ ページ先頭へ ↑ | edit

『リンカーン弁護士』 (2011/アメリカ) ※全力でネタバレしています!!

   ↑  2013/03/14 (木)  カテゴリー: サスペンス、ミステリー



リンカーン弁護士 [マシュー・マコノヒー]


●原題:THE LINCOLN LAWYER
●監督:ブラッド・ファーマン
●出演:マシュー・マコノヒー、マリサ・トメイ、ライアン・フィリップ、ジョシュ・ルーカス、ジョン・レグイザモ、マイケル・ペーニャ、フランシス・フィッシャー、ボブ・ガントン、ウィリアム・H・メイシー、ブライアン・クランストン、ミカエラ・コンリン 他
●高級車リンカーン・コンチネンタルの後部座席を事務所代わりにLAを忙しく駆け回り、"司法取引"を最大限に利用して軽い刑で収める得意の戦略で依頼人の利益を守るやり手弁護士、ミック・ハラー。ある時、資産家の御曹司ルイスの弁護というおいしい話が舞い込む。事件はルイスが女性を殴打し重傷を負わせたとされるもので、いつものように司法取引をまとめるだけで高額の報酬が舞い込むはずだった。ところが頑なに無実を訴えるルイスは司法取引を拒否し、ミックの戦略に狂いが生じ始める・・・。アメリカを代表するハードボイルド&ミステリー小説の巨匠マイクル・コナリーの同名ベストセラー小説の映画化。



評決のとき [DVD]


その昔、ジョン・グリシャム原作の法廷サスペンス『評決のとき』で人種問題に毅然として挑んでいく新米弁護士役が印象深かった"あのマシュー・マコノヒー"が、出だしこそ"軽めでいい加減なチョイワル弁護士"なんていう役柄を飄々と演じているのを見て、ホント引っ繰り返りそうになりました。

大学時代、実際に弁護士を志望していたというマコノヒー。アメリカ映画の十八番ジャンルともいえるリーガル・サスペンスにおいて、新たなマコノヒーのアタリ役となったのでは!?それくらい、彼はこの主人公にリアルな命を吹き込んでいて、私は最後までまったく目が離せませんでした。この『リンカーン弁護士』、一見軽めな滑り出しですが、次第に事件の絡繰りが見えてくる中盤からはかなりハードな法廷劇に突入します。この映画は、スゴイ。







主人公ミック・ハラーの描き方がすごくいいんですよねぇ。
とある事件によって追い詰められていくハラーが、以前自分が担当した凶悪殺人犯に対して検察側が未解決殺人事件のぶんまで加えて証拠をでっち上げていたことを怒り、「司法制度ってのはそんなもんじゃないだろう!」と検察と警察官を激しく批判するシーンがあるんですが、あぁ彼なりの弁護士としての在り方、法との向き合い方に信念があったのだなぁ、と。しかも、それは単なるキレイ事などではなく、裏社会の力をも利用する根性や図太さなんかもあるわけで、ある意味ドス黒いまでの凄味を感じさせる強烈な弁護士像が見事に描かれています。

また、検事で元妻のマギーと離婚している→けれども娘も含め愛情をいまだ抱いている、という設定だけでも彼の弁護士としての生き様や過去が透けて見えるよう。マギー曰く「私は社会のゴミを捕まえるけれど、あなたは弁護士で彼等を野放しにする」




マリサ・トメイ(すごく素敵な歳の重ね方をしている!)以外にも、胡散臭さいっぱいのジョン・レグイザモや、今回は男くささプンプンでビックリのウィリアム・H・メイシー、そしてライアン・フィリップのサイコっぷりも素晴らしい。あ、「BONES」のアンジェラ(ミカエラ・コンリン)も出ていて嬉しかったですねぇ!






撮影技法的にはドキュメンタリータッチで撮られているため長回しも多く見られ、カメラがぶれ過ぎるのがちょっと技巧的すぎるかな?と気にはなりましたが、セリフを言う人物の顔をまるで食い入るようにぐっとアップにする効果はすごく効いていて、思わず身を乗り出して観てしまいました。

幾重にも重なった、そして畳み掛けるようなサスペンスの連続にもドキドキです。最後まで観たあとに再度オープニングから見直すと、きれいに張られた伏線の数々に感動!見た目は軽めだけれど、なかなか高難度の映画で最後の最後まで良い意味でキレイに裏切られました。人間ドラマ、サスペンス、アメリカの司法制度について・・・・と、二度三度観ても楽しめる映画でした。音楽もめちゃくちゃ恰好よくて、ほんと大好き!

そして本国アメリカでも『リンカーン弁護士』はかなりのヒットだったようで、TVシリーズの制作や映画続編の話が着々と進んでいる様子。もちろんマコノヒーも映画続編での続投を大いに望んでいるとこのと。これは嬉しい!不敵なミック・ハラーにまたぜひ会いたいなぁ。



※それでは最後に『リンカーン弁護士』でキーワードとなる"秘匿特権"について。
以下は『リンカーン弁護士』のネタバレ、内容に深く関わりますので、未見の方やこれからこの映画を観よう!と思われる方はお控えいただくことを強くオススメいたします。



           ↓  かなりネタバレ注意  ↓


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  2013/03/14 | Comment (4) | Trackback (1) | HOME | ↑ ページ先頭へ ↑ | edit

『マネーボール』 (2011/アメリカ)

   ↑  2013/03/09 (土)  カテゴリー: ロマンス、ドラマ





マネーボール【Blu-ray】[ブラッド・ピット]


感想(2件)


●原題:MONEYBALL
●監督:ベネット・ミラー
●出演:ブラッド・ピット、ジョナ・ヒル、フィリップ・シーモア・ホフマン、ロビン・ライト、クリス・プラット、ケリス・ドーシー、スティーヴン・ビショップ 他
●ビリー・ビーンは、プロ野球選手から球団のフロントに転身し若くしてアスレチックスのゼネラルマネージャーに就任する。しかしアスレチックスの成績は低迷し、貧乏球団のため優秀で高い選手は雇えないという最悪の状態に。そんな時、データ分析が得意なピーター・ブランドに出会い、“低予算でいかに強いチームを作り上げるか”を追求したマネーボール理論を作り上げる。野球界の伝統を重んじる古株のスカウトマンや、選手、アート・ハウ監督らの反発を買いながらも、揺るぎない信念のもと独自のマネジメントを強行していくビリー。すると、徐々にその成果が出始め、チームに勝利がもたらされていき・・・。



不思議な映画だった。
「マネーボール理論」から生まれる、野球だけに限らない経営哲学や物の見方、もっと言えば道化や欠陥品呼ばわりされた人間の"可能性"を見せてくれる物語かと思えば、一方で"不要"となった選手は即クビやトレードされるというスポーツ界の非情さもシビアに見せ、観る側をそう簡単に爽快感へとは導かない。最終戦逆転勝ちで20連勝達成という映画的には最もドラマチックな要素も、その後のプレーオフの結果を受けた厳しい"正論"で容赦なく釘を刺す。


ロバート・レッドフォードかと息をのむほど静かなブラッド・ピットのファーストシーン。この映画では、野球に関する交渉話は飛ぶように行き交うけれど、ビリー・ビーンの心の内を決してベラベラと語ったりはしない。彼が何に囚われ、押し潰され、悩み、怒り、あがいているか?それをひたすらに追う133分。『マネーボール』という映画は、野球に人生を賭けた一人の人間の物語。彼が何に対して情熱を傾け、何を信じて歩み、挑戦を続けていくのか、それを見守る静かな映画だった。



短気で負けず嫌い、こだわりが強くて傲慢で、どこか孤独で変わり者のビリー。そんな彼を支えるジョナ・ヒル演じる女房役ピーター・ブランドの穏やかで温順な人柄や、透明感のある初々しさが逆に頼もしくもある娘役のケリス・ドーシーの歌。まるでスポーツ界のドライな厳しさに寄り添うかのように、人間的な温かみと人生への前向きな賢明さを感じさせる彼らの存在感が、この映画の中で一番好きだったかも。




劇中、印象的なシーンで何度か耳にしたThis Will Destroy Youの「The Mighty Rio Grande」。決して押し付けがましくなく、それでも強く心揺さぶられるこの曲は、一段ずつゆっくりと階段を下りていくように音階を下げていくメロディラインの繰り返しだけれど『マネーボール』という映画の主題を、静かに、確かに支えていると思う。



・・・・ということで。
以上が映画を観ながら感じた本作への感想でした。
映画『マネーボール』では音楽以外にも印象的なシーンが多かったので、以下はインタビュー関連記事などで知った周辺知識です。特別野球に強い関心があるわけでない私のような者には非常に興味深かったですねー。


ブラッド・ピット演じるビリーが食べたり飲んだり何か口に入れているショットがとても気になったのだけれど、これは本物のビリーを意識して"人物描写"にこだわりを持って臨んだピットのアイディアだったのだそう。
中でも印象的なのは、精力的にあちこちを動き回りつつ、彼が常にムシャムシャと何かを食べている姿と、時間ができるとたった一人でグラウンドやトレーニングルームに赴き、自らの肉体を酷使し鍛え上げる姿。たびたび描かれるこうした描写について、監督はその意図をこう説明する。
「食べることと運動することは、とどまることを知らない彼の人物像を表しているんだ。ビリー・ビーンは常に消費し続け、自分自身を疲労させ続ける。彼は自分がどういう状況に置かれていて、何を求めているのかを自問自答しているんだ。実際のビリーも常にハングリーで、落ち着かずにソワソワしているようなところがあるんだけど(笑)、その中で自分が辿りつきたい場所がどこなのかを探っているんだよ」
■ベネット・ミラー監督インタビュー 『マネーボール』で描きたかった真"髄"とは?【Cinema Cafe.net】

しきりに噛みタバコを噛んではペッと吐き出すシーンについても、ブラッドはビリー・ビーンを演じるに当たって、彼の当時の癖をどうしてもリアルに再現したいという気持ちが強く、「こういった癖も人物の一部なので、是非に」と演じたらしいですね。
■『マネーボール』ベネット・ミラー監督「これは〈救い〉と価値観の変化の物語」




■その他のインタビュー&記事リンク

≪アート・ハウ監督インタビュー≫
Art Howe: They Did Everything To Make Me Look Bad In 'Moneyball' 【carbonated.tv】
■Art Howe: They Did Everything To Make Me Look Bad In 'Moneyball'
この映画でもっとも私が驚いたのは、体育会系でホフマンを使うという驚きのキャスティングでしたが、実際のハウ監督はフロントの意向に従い、温厚で笑顔を絶やさない人望の厚い人物だったのだそう。この映画での描かれ方にはご不満だったでしょう!
因みにジョナ・ヒル演じるピーター・ブランドの役も、モデルとなったポール・デポデスタが映画での自身の描かれ方に不満を抱き実名の使用を許可しなかったため、映画では設定の似た架空の人物となっています。


≪ビリー・ビーンGMインタビュー≫
「金持ち球団が強い流れに戻っている」――『マネーボール』のビリー・ビーンGMインタビュー【誠Style】
■「金持ち球団が強い流れに戻っている」――『マネーボール』のビリー・ビーンGMインタビュー
限られた予算、限られた時間や人員で結果を出さなければならないというのは、ビジネスシーンだけでなく、もっともっと小さな日常生活でも起こる問題だと思うのですが、ビーン本人から語られるサイバーメトリクスの持つ精神や真意、課題など興味深いです。



映画『マネーボール』は、ブラピ好き、フィリップ・シーモア・ホフマン好き、ジョナ・ヒル好きという映画ファンにも、メジャーリーグ好きな野球ファンにも、経営哲学に興味のあるビジネスマンにも受け入れられる、"楽しんだもの勝ち"な作品なのではないかと。派手さはないぶん、様々なシーンやセリフに心動かされたり揺さぶられたり、心落ち着けて鑑賞できる映画だったと思います。

マネーボール@映画生活



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  2013/03/09 | Comment (4) | Trackback (0) | HOME | ↑ ページ先頭へ ↑ | edit