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『砂漠でサーモン・フィッシング』 (2011/イギリス)

   ↑  2013/11/27 (水)  カテゴリー: ロマンス、ドラマ


砂漠でサーモン・フィッシング【Blu-ray】


●原題:SALMON FISHING IN THE YEMEN
●監督:ラッセ・ハルストレム
●出演:ユアン・マクレガー、エミリー・ブラント、クリスティン・スコット・トーマス、アムール・ワケド、トム・マイソン、レイチェル・スターリング、コンリース・ヒル 他
●アラブの大富豪からの「イエメンでサケを釣りたい」という依頼を受けた水産学者のジョーンズ博士。そんなことは絶対無理だと相手にしなかったものの、何とイギリス外務省後援の国家プロジェクトに発展。ジョーンズは、イエメンの大富豪の代理人ハリエットらと共に無謀な計画に着手することに・・・!



イエメンで鮭釣りを (エクス・リブリス)

Salmon Fishing in the Yemen


原作は、釣りを愛する国イギリスで40万部を記録したベストセラー小説。思いっ切り期待させてくれるユニークで奇想天外なタイトルですが、実話ではなくフィクションでした。もし現実に起こったら「奇跡体験!アンビリバボー」なんかでやってくれそうな内容です(笑)。



あーしかしですね、正直にバッサリ言ってしまいますが、編集がけっこう雑で物語には深みがなく、底の浅い上滑りした印象になってしまって本当に本当に残念でした。イエメン人のシャイフは突然すごく深くて哲学的な含蓄のある言葉を発したりするのに、それがもう全然物語に絡んでこなくて、しかも全く響かない!これほど響かないお言葉も珍しいんじゃないか!?と思ったりも。テロリストたちも、メディア戦の政治的駆け引きも、サーモン・プロジェクトも、不倫もアリのラブロマンスも、時々出てくるコメディ要素も、どのエピソードもあまりに中途半端すぎるので「これはもしや、どこかで何かをバッサリカットしたんじゃないのか!?」とハルストレム監督の心配をしたくなったほど。私は『ギルバート・グレイプ』の繊細さがとても大好きだったので、この大雑把な出来の映画がなんだか不思議にも感じました。





ただ、もしこの映画で嬉しかったことを挙げられるとすれば、それはハルストレム監督の透明感溢れる作風は変わらず健在で、それがきちんとキャストの演技に反映されていたこと。

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イエメンでの鮭釣りが可能になる!!その時に『砂漠でサーモン・フィッシング』という映画では、まんまんと水が湛えられた壮大なダムの景色をバックに、ムスリムであるシャイフがクルアーンのオープニングといえる第1章「開端章 الفاتحة(アル・ファーティハ)」を静かに朗誦(礼拝かな?)し、ユアン・マクレガー演じるジョーンズ博士はこれを聴きながらそっと目を閉じてハリエットと二人、静かにダムの前に佇むシーンを映し出していました。

イエメンといえば、アメリカ、アルカイダ、テロ、南北の部族問題やサーレハ前大統領の退陣から現在に至るまでの政情不安など、厳しい状況下での話題が多いのが現実でしょう。でもこの映画では、ここでムスリムが最も大切にし、きっと中東に暮らしたことのある人ならば一度は耳にしたことのあるであろう有名なスーラをさり気なく登場させました。クルアーンの朗誦というのは、信仰とは全く無関係の人間でも聞き惚れてしまうような美しい響きがあり(私には仏教のお経のように聴こえる)、シャイフの言う"宗教や国や政治を超えたところ"で人々が共鳴し合える瞬間を、ハルストレム監督は彼らしくとても丁寧に切り取ったのだなぁと思いました。

以前からちょっと不思議だったのですが、スウェーデン出身のラッセ・ハルストレム監督は様々な国や地域の文化を背景とした映画を本当にさり気なく撮っていて、それは何故なのだろうなと。そのヒントらしき監督の言葉をインタビューの中に見つけたので、ちょっとここに残しておこうと思います(相変わらず大雑把な意訳)

マイライフ・アズ・ア・ドッグ[Blu-ray]


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――私は、リアルな感情にこだわりたいのです。俳優にそう演じてもらいたい場合、撮影する土地の背景や文化の違いなどはそれほど重要ではありません。一番大事なのは、世界のどこにでもある普遍的な経験や感情なのです。どんな場所であろうと問題はありません。私にとっては、それらが"異質なもの"になることはないのです。――
Interview: Director Lasse Hallstrom of “Salmon Fishing in the Yemen”【Beliefnet】
“リアルな感情”にこだわり。『砂漠でサーモン・フィッシング』監督が語る【ぴあ映画生活】








あ、それとそれと、この映画で最も大健闘していたのは、何と言ってもクリスティン・スコット・トーマスの完全に振り切れた演技でした!控えめながらも内なる情熱を秘めた美女だった・・・あのクリスティンが「チッ!」とか舌打ちしながら「役たたずのバカが!」なんて辺りを蹴散らしまくって突き進む首相広報官役を楽しそうに演じていたのがインパクト大でした。美人が年を取って横暴な役をやると、ホント面白くなるんだよなぁ~

それとユアン・マクレガーが、鯉のことを「KOI-Carp」と言っていたこと。錦鯉というのは日本で生まれた鑑賞用の鯉のことなんだけれど、英語圏では食用鯉や野生鯉を「Carp」と呼び、鑑賞用鯉(つまり錦鯉)を日本名のまま「Koi」と呼んでいるのだそう(Carp-錦鯉の歴史【MCF Japan】より)。へぇへぇ~!

  Koi Carp Magazine
しかもイギリスには、錦鯉飼育の専門誌↑「Koi Carp Magazine」という人気雑誌まであるんですって、奥様ご存知でした?映画では「英国には200万人の釣りマニアがいて専門雑誌もあります。[釣りタイムズ][マスと鮭][淡水魚釣り][バス・マニア]・・・・・」なんてジョーンズ博士も言ってましたけど、ホント色々な世界があるんですねぇ~。




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  2013/11/27 | Comment (4) | Trackback (2) | HOME | ↑ ページ先頭へ ↑ | edit

『ホワイトアウト フローズン・リベンジ』 (2010/ロシア、ドイツ、イギリス)

   ↑  2013/11/23 (土)  カテゴリー: サスペンス、ミステリー




ホワイトアウト フローズン・リベンジ [DVD]


●原題:PRYACHSYA(ПРЯЧЬСЯ!) / 英題:THE WEATHER STATION
●監督:ジョニー・オライリー
●出演:ピョートル・ロガチェフ、ウラジーミル・グーセフ、セルゲイ・ガルマッシュ、アレクセイ・グシュコフ、アントン・シャギン 他
●雪山に孤立する測候所で暮らす気象学者のイワノフとドロゾフ、そして雑用係のロマシュ。ある日、日が暮れるので泊めて欲しいと一組のカップルが測候所を訪れる。しかしその後、測候所から発信されたSOSを最後に、5人の姿はこつ然と消えてしまう。一体何が起き、5人は何処へ消えてしまったのか?事件を担当することとなった刑事のスラバは現場検証を進めるうち、いくつもの壁に描かれた木のような絵を見つけるのだった・・・。外部から遮断された建物、残された多くの謎。サスペンスの王道とも言われる"クローズド・サークル"で起きた事件を現在と過去を並行して描きながら紐解いて行くロシア発のサスペンス・スリラー。



日本未公開、2013年12月4日からセル&レンタル開始!ということで、Gyao!にて1週間だけの事前限定配信されたこの作品。「無料で観られた♪」という心理効果もあるかもしれませんが、それを差し引いたとしてもこのロシア映画、なかなか高得点。良質なサスペンスもので、久々に真剣になって映画を観てしまいました(いや、いつも真剣なつもりですが・・・)


いわゆるヒッチコックやアガサ・クリスティの作品を思い起こすような、周囲から閉ざされ孤立した環境。限られたごく僅かな登場人物たちの隠された過去、思惑、欲望、裏切り・・・・そして殺人。あ、さらにはUMAである"イエティ"も!?

時系列が何の前触れもなく突然行き来するので、最初はそれに少し混乱させられたものの、ひとたびそのスタイルに慣れてしまえば、二つの物語が並行して走りながらそれらが見事に近づいていく緊張感が非常に心地よかったですねぇ!シンプルだけれど、よく練られた構成で、思わずあのシーンでは「うわぁっ」と声が出てしまいました(笑)。たまにこんなオリジナルの面白さのある作品に出会えるので、映画ってホントやめられません。

ただ、ロシアのどこなのかはわかりませんが、意外と雪山生活をシャツ一枚でウロウロしていたりするので、"極寒体感満足度"はちょっと低いです。「もうだめだぁぁぁ」的な寒さをそれほど感じません。また、邦題にある「ホワイトアウト」もこれまた物語とはまったく関係がないので、織田裕二さんの映画とも違います(因みに原題の意味は「隠れろ!」)。


『オーケストラ!』


常に冷静沈着なベテランのアンドレイ刑事と「まるでホームズとワトソンみたいですね!」なんて嬉しそうに言っていた若い刑事スラバ。この二人、すごく好きでした。そうそう、この渋いアンドレイ刑事を演じるアレクセイ・グシュコフ(Aleksey Guskov)、絶対にどこかで見た顔だ!!と思っていたらフランス映画『オーケストラ!』のソ連時代のあの元天才指揮者だったとは。ものすごく安定感のある俳優さんで、いつも何か考え込んでいるような地味なお顔立ちではあるのですが、観るたびにその燻銀的存在感に惹き込まれてしまいます。因みに本作品のジョニー・オライリー監督(Johnny O'Reilly)はアイルランド出身でロシア語が堪能。現在はモスクワを拠点に活動している、ハリウッドも注目の映画監督さんです。




ラストを知ってしまった上で最初からもう一度観ても、その面白さは薄れることのない映画だと思います。私は2回目に観た時に「・・・◯◯は一体どうやって来たんだろう??」と、本当はちょっと疑問にも思ったのですが、えぇぇいそんなことはロシア人ならきっと分かるんだろう!!と、心を広く持ってシメといたしました。こんな風に、何の前情報もなくレビューを目にすることもなく突然飛び込みで観てみる映画体験って、ほんと楽しいものです。またこんな瞬間に出会いたいなぁ。



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  2013/11/23 | Comment (0) | Trackback (0) | HOME | ↑ ページ先頭へ ↑ | edit

『キング・オブ・マンハッタン 危険な賭け』 (2012/アメリカ)

   ↑  2013/11/14 (木)  カテゴリー: サスペンス、ミステリー

キング・オブ・マンハッタン -危険な賭け- [Blu-ray]


●原題:ARBITRAGE
●脚本、監督:ニコラス・ジャレッキー
●出演:リチャード・ギア、スーザン・サランドン、ティム・ロス、ブリット・マーリング、レティシア・カスタ、ネイト・パーカー、スチュアート・マーゴリン、クリス・アイグマン、グレイドン・カーター、ブルース・アルトマン 他
●ニューヨークに暮らすヘッジ・ファンドの大物ロバート・ミラー。一代で巨万の富を築き、幸せな家庭にも恵まれた彼は誰もが羨むニューヨークの成功者。ところが実態は、ロシアの投資で巨大な損失を出してしまい、彼の会社は破綻寸前で、ロバートは会社の売却に一縷の望みを託して懸命の工作に追われていた。そんな最中に、愛人のジュリーと密会し、あろうことか事故を起こしてジュリーを死なせてしまう。しかもその車がジュリーのものだったのをいいことに、黙って現場から逃亡を図るロバートだったが・・・。




自業自得、四面楚歌。必死のギア様が観られます。

ギア様はこの作品で、『フライト』のデンゼル・ワシントンらと共にこの年のゴールデングローブ賞の主演男優部門にノミネートされていたんですね(受賞はアカデミー賞と同じ『リンカーン』のダニエル・デイ=ルイス)


人生も決算も粉飾まみれという、何と偽善的な笑顔の似合うことか。
それはいつもの(ギア様お得意の)ニヤニヤ顔なんだけれど、その裏に隠された追い詰められ度MAXのギリギリ感と、常に冷静すぎるストーリー展開にこちらも煽られてしまいました。状況打開のために打って出る必死さ、痛々しさ、胡散臭さ。「アイスクリームを食べに行っていたんだ」なんてお前は子供か!という幼稚な言い訳からも滲み出る主人公ミラーの愚かしさ。

もともとギア様の演技からは、金融界トップというカリスマ的存在感などほとんど感じられないんだけれど、ギア様の持つボンボン的な甘く空っぽな感じが(褒めているんです)見事にミラーの空虚感とマッチしたんだろうなぁと思います(いや褒めてるんです)。ま、きっとミラーは"偽善"だなんて思ってもおらず、その場その場は彼なりに全力で本気なんだろうけれど。




「逃げ切れるんだろうか、いや、これは逃げ切れないのかも・・・」なんて、途中までは【クライム・サスペンス系】だと思って見ていたのだけれど、「黒人青年ジミーはなぜ偽証までしてくれるんだろう?」とか「娘は事実を知ってどう動くんだろうか」とか、或いはミラーが「こんなこと理不尽だ!!」と大泣きなんかする姿を目にするうちに、誰がどんな基準でどんな行動を選択するんだろうか??を追う【心理ドラマ】へと印象が変わっていきました。

「自分が正しいと思うことをしなさい」というスーザン・サランドンや、同じセリフを口にしながらも金持ちを毛嫌いして手段を選ばず、己の正義を振りかざしてミラーを追い込んでいくブライヤー刑事(ティム・ロス)の行動も強烈。互いのイヤラしさ全開で繰り広げられる二人の尋問シーンは見ものです。







ミラーには完全に寄り添えないけれど、彼を知ることのできるセリフが2つ。
なぜジミーなんかにファミリーの命運を託したんだ?の問いに対する「彼は我々とは違うからだ」。持ちつ持たれつの損得ばかりの"金の関係"とは違う何か・・・・ジミーとの間だけには、血の通った人間としてのミラーの姿が見え隠れします。「お金を受け取ったら何て言われるかな」("If I take this, then what does that say about me?")と躊躇したジミーが印象的でした。

そしてもうひとつは、二重帳簿を指摘された時に娘ブルックに放った“You're not my partner, you work for me”。絶体絶命の窮地に陥った際、(出来の悪い息子は完全スルーで)味方にならない者は出来の良い娘であっても彼の人生の歯車の一つにしてしまう、そんな彼の持つ"無関心さ"が怖いなと思いました。

ちなみに、この「お前は部下だ!!」発言はギア様のアドリブで出てきたものだったそう。続けて“That's right! You work for me. Everybody works for me”とドヤ顔で念押しちゃうところがちょっとツボでしたが。そういえば、父ミラーとは対照的にホワイト系の衣装ばかりを着る彼女の無垢なイメージは、このシーンで最も際立っていましたねぇ。







ジャレッキ監督自身の両親がトレーダーだったこともあり「この世界のこういったタイプの人たちを知っている」と答えているだけあって、家族が皆絶望的に偽善の仮面を纏って出席する、この華々しい慈善パーティーの虚しさと言ったらもう・・・。寒々しく哀れにも見えるミラーのラストシーン、彼が何をスピーチするつもりなのか、観る者にその後の彼の運命を委ねる手法は強い余韻を残します。

※余談ですが・・・・この悪徳を背負った背中を追う"ルック"の素晴らしさ!←撮影監督は、ヨリック・ル・ソー。フランソワ・オゾンやジム・ジャームッシュ、ホウ・シャオシェンといった各国の映画監督や、日本の作家吉田修一らと共に素晴らしい映像美で物語に惹き込んでくれるシネマトグラファーさんの功績です。

このブツっと切れるこのエンディング、私はすごく好きでした。・・・きっと、私たちが思わず期待したくなるようなドラマチックなことは何一つ起きないだろうけれど。この映画、ある意味ブラックでシニカルな大人のコメディとでも言えるかもしれませんね。

あ、それと最後に!酷すぎる邦題の件ですが、私は何も言いますまい。ホント酷すぎるんで!!





■追記
映画冒頭のインタビューでミラーが答えていた"悪いことは必ず起きる"というセリフは、映画的にはもちろんミラーの人生を象徴するものでもあるんだけれど、『泳ぐひと』で見た50年代以降のアメリカの経済の一端である"すべてを失うことへの恐れ"を人々が抱え、心のどこかで一瞬ですべて失った大不況という一世代前の記憶が刷り込まれていたのかもしれない、という側面にピタリと繋がるようで興味深かったです。

 『泳ぐひと』 (1968/アメリカ)
『泳ぐひと』 (1968/アメリカ)




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  2013/11/14 | Comment (2) | Trackback (1) | HOME | ↑ ページ先頭へ ↑ | edit

【エリック・ロメール映画】1本目 『飛行士の妻』 (1980/フランス)

   ↑  2013/11/05 (火)  カテゴリー: ロマンス、ドラマ
私には「お、これぞフランスの街並み!愛の言葉!」と感じる自分なりの【フランス映画】に対する"原風景"のようなものがあります。あ、もっとも私はフランスに行ったこともないので、かなり偏りのある"イメージ"ということなんですが。

思えばその"原体験"は、アラン・ドロンアやカトリーヌ・ドヌーヴ、ジャンヌ・モローやジャン・ギャバンといったフランスを代表するような名優たちからではなく、どこか素人のような雰囲気を持つ役者たちを使ったエリック・ロメール監督作品から醸し出される、独特の"空気感"から生まれたものだったように思います。

特に私が好きなのは"お散歩系"の2作品『飛行士の妻』と『パリのランデブー』。飾り気のない日常生活の一部をそのまま切り取ったかのような素朴さを持ちつつも、チクっとするような意地悪さや毒気も漂っていたりして。ほんと、何ということのない物語なのに、まるで自分がフランスの街中をぶらぶらと散歩して見かけてきたようなお話だわ!と錯覚してしまいそうな不思議な余韻を残すのです。

六つの本心の話


で、先日図書館で探し物をしていた時、なぜか膨大な数の背表紙の中に「ロメール」の文字が見えた気がして思わず二度見して「六つの本心の話」が置いてあるのを偶然発見してしまいました。"無意識"という素晴らしい脳の働きに感謝!結局、目的の本そっちのけで読んでしまった・・・。といわけで、今日は久々に観た私の好きな懐かしきロメール作品のひとつを書き残しておこうと思います。自分だけのロメール繋がりだ~




『飛行士の妻』 (1980/フランス)

飛行士の妻 (エリック・ロメール コレクション) [DVD]



●原題:La femme de l'aviateur / 英題:The Aviator's Wife
●脚本、監督:エリック・ロメール
●出演:フィリップ・マルロー、マリー・リヴィエール、アンヌ・ロール・ムーリー、マチュー・カリエール、ファブリス・ルキーニ 他
●法律を勉強している20歳の学生フランソワには、秘書の仕事をしている25歳の恋人アンヌがいる。だが、アンヌは不倫相手だったパイロットのクリスチャンに未練があり、しつこいフランソワにはうんざり気味。一方フランソワも、リシューという年下の女の子に出会うのだが・・・。エリック・ロメール監督の「喜劇と格言劇」シリーズ6作の第1作。自然体に映るパリの街角や街並みの風景は、オールロケ&同時録音による撮影によるもの。16ミリから35ミリへのブローアップ。『パリは私を魅了した』を歌うのはアリエル・ドンバル。



15年くらい前でしょうか「シネフィル・イマジカ」時代にエリック・ロメール特集があって、その他の作品と一緒に放映されたんですけれど、この映画だけが一番身近に感じられた覚えがあるんです。ロメールらしく恋する者の身勝手さばかりが、本当に何ということもなく描かれているんだけれど、一見我が儘勝手に人を振り回すようなアンヌには、泣きたくなるほどの彼女なりの"ポリシー"が強烈に感じられて、多分当時の私としてはそんな彼女の気持ちから目を離せなくなったんだろうなぁ。


パリの街角の風景と恋する普通の男女の会話をそのまま切り取ってきた、まるでスケッチ画のような小さな物語。たった1日の話。人生、愛、奇跡、孤独。何が解決されるというわけではなく。ほとんどずっと喋り通しの痴話喧嘩に付き合わされたようなもの。未練たらたら男に、不倫破れた情緒不安定な不機嫌女。「構うな」と怒ったり「一緒にいてちょうだい」とお願いしてみたり。惚れた弱みなんでしょうが、ほんと勝手にやってくれ~!と言いたくなるような会話劇が終盤に繰り広げられます。・・・正直私にはどうでもいい話なんですが(笑)。

なにしろ神経質そうで不機嫌で、いちいち突っかかってくるアンヌを見ていると、人を罵倒しながら泣くくらいなら1人で勝手に泣いて立ち直れ~、パンツでウロウロ歩くんじゃありませーん!と常識的な私は思ってしまうわけです。ですが、ですが。一方で、飛行士のクリスチャン、アンヌ、フランソワ、リュシー、と幾重にも重なった"愛"の形はそれぞれに自由で、束縛はされず、不器用に迷いながらも人の愛し方は自分で選びたい、というフランス流の恋愛模様が浮き上がってくるものだから、次はどんな主張をされんるんだ!?と怖いもの見たさ状態に。自由な割に、みんな辛そうだとは思うけど。恋人たちよ、まずは睡眠をしっかりとろう。話はそれからだ!

20歳の学生フランソワと15歳(フランスの女子学生って大人っぽいのね・・・)のリュシーの尾行ごっこや謎解きごっこ、それにアンヌのアパルトマンでの会話など、膨大なセリフの一つ一つをごく自然な会話として見せてしまうロメール独特の技法に強ーく惹き付けられる映画でもあります。劇的なことは何も起こらないし、万事解決、人生順調!のような映画ではないけれど、ラストのフランソワ君を見ていると「人生いろいろあるけれど、まぁ、頑張っていこうじゃないかね!君!」と声をかけてあげたくなってしまう、どこか不思議な温かさを感じてしまう映画です。これがクセになるんだよなぁ~



↑今やフランス映画界で独特の存在感を放つベテラン俳優となった、ロメール作品常連のファブリス・ルキーニ。ほんの数秒、オイオイ何てこと言うんだ~と見事に女性を凹ませる「バカ男」なんて言われる役で出ています。こんな何気ない描写も、ちょっとリアルで面白い。




で、こんな風に今まで本当に何となく、雰囲気だけで観ていたようなロメール作品だったけれど、youtubeで『飛行士の妻』に関するロメール監督のインタビュー動画を見てみたら、新発見がたくさんあった!以下は要約の箇条書き(つまり、かなり大雑把!)。


Extracts from an interview to Claude-Jean Philippe for "The cinema of filmmakers" (Le cinéma des cinéastes) broadcasted on France Culture in March 22, 1981.

これはマルセル・カルネへのオマージュ的作品であること(ヌーヴェルヴァーグのカイエ・デュ・シネマ派はマルセル・カルネを嫌っていたけれど、彼の映画を見た時に彼がパリを愛していることがわかったから)。

自然を再構築し人工的に作るという試みをした公園【ビュット・ショーモン公園Parc des Buttes Chaumont】でロケをした理由。15年前にも撮った「Nadja à Paris(パリのナジャ)」という13分のドキュメンタリー映画(ベルグラード生まれでアメリカ国籍を持つナジャは、パリの国際大学都市に住む。パリの様々な界隈を散歩しながら、この街の印象を語っていく)で、この場所における映画的価値を発見したこと。

予定外に雨に降られ、公園を出てから弁護士事務所の入るビルやカフェを決めたこと。

クローズアップが好きではないこと(もし撮るとしたら役者に動きがない時)。アンヌ役のマリー・リヴィエールはフォトジェニックな顔立ちで美しい瞳を持っているけれど、彼女がベッドの上で枕やシーツ、金魚などとどう関わり合うのかを見たい。セットと人物の関係を壊すのが嫌いなこと。

雨や雪などの天候を自然のままに受け入れ、また一方では、撮影前には路上でも構わず何度もリハーサルを行う・・・そんな"リアルさ"と"計算された綿密さ"が同居するロメールワールド。ますます好きになってしまいました。いつか【エリック・ロメール映画】2本目として、3話構成のオムニバス形式でこれまた恋愛の風景を描いた1994年の『パリのランデブー』を書いておきたいなぁ。


■追記(2014年9月)
【エリック・ロメール映画】久々の2本目 『パリのランデブー』 (1994/フランス)
というわけで、やっと『パリのランデブー』を再見してみました!
【エリック・ロメール映画】久々の2本目 『パリのランデブー』 (1994/フランス)


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  2013/11/05 | Comment (0) | Trackback (0) | HOME | ↑ ページ先頭へ ↑ | edit