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『サラバンド』 (2003/スウェーデン)

   ↑  2011/09/16 (金)  カテゴリー: シリアス、社会派







サラバンド [DVD]


●原題:SARABAND
●監督:イングマール・ベルイマン
●出演:リヴ・ウルマン、エルランド・ヨセフソン、ボリエ・アールステット、ユーリア・ダフヴェニウス、グンネル・フレッド 他
●巨匠イングマール・ベルイマン監督が1974年に制作したTVドラマ「ある結婚の風景」の続編。弁護士のマリアンは30年以上前に別れた元夫のヨハンを訪ねる。ヨハンは田舎に隠棲していたが、彼とそりの合わない息子のヘンリックとヘンリックの娘カーリンが数ヶ月前から近くのコテージに滞在していた。二年前に妻アンナを癌でなくして以来、ヘンリックはカーリンを妻の代わりに愛情で縛り付け、彼女をチェロのソリストとして育てようとしていた。一方カーリンは、父の押し付けがましい愛情に反発しつつも音楽家として自立することや父を置き去りにしていくことへの不安を抱いていた。そんな彼らの葛藤や愛憎が、マリアンの前で繰り広げられていくのだった。

シネフィルイマジカによる公式サイトはこちらから




『ある結婚の風景』 (1974/スウェーデン)から19年。
笑顔がまったく変わらないマリアンがカメラに向かって話し掛けるプロローグ。若かりし頃の"元夫婦"の写真が山のように見え、あのドラマの紆余曲折を知っている視聴者なら思わず惹き込まれる滑り出しです。

ベルイマン作品で見かける"個人的な打ち明け話"を画面越しに語りかけてくるこの親密さは、まるで懐かしい知り合いに言葉をかけられたかのよう。マリアンは63歳。ヨハンは86歳。実際に過ぎ去ったその実物大の年月の流れが、物語の時間を自然に感じさせてくれます。



この画像、ドラマ版をご覧になった方なら何か見覚えありませんか?

『ある結婚の風景』最終話で、心を許して本音で語り合えるようになった二人の背後に掛かっていたオブジェです。実は、これとソックリの代物が『サラバンド』にも登場するのです。ヨハンの息子ヘンリックの娘(つまりヨハンの孫)カーリンとマリアンが、女同士意気投合してお酒を飲みながら語り合うシーンに、一瞬ですが見ることが出来ます。ちょっとした遊び心なのでしょうか。打ち解けあう二人の人物の後ろで、また目にすることが出来ました。





この物語は、4人の登場人物のうち"2人"による会話で進められていくシンプルな構成をとっています。が、限られた空間内で限られた人物に起こる出来事なだけに、その密度の濃さは圧迫感となり観る者までもを追い詰めていきます。

 

 
"家族"という近い間柄が、狭過ぎる人間関係の中で息苦しいほどの束縛を生み、次第に異常性を加速させていく様は下手なホラー映画よりもずっと恐ろしいものです。飛び立とうとする娘を前に絶望する父ヘンリック。彼とその父ヨハンとの壮絶な愛憎劇が重なることにより、彼の精神状態が次第に崩れ落ちていく辺りから物語の緊張感は危うさを増し、限界点を迎えます。イングマール・ベルイマンは容赦のない描写で人間の凶暴性、悪魔性をじりじりと炙り出していくのです。



そのような中、気になったのは写真でしか登場しないヘンリックの亡き妻「アンナ」の存在でした。彼女の存在感こそが『サラバンド』をベルイマン作品として非常に特徴的、象徴的なものにしていると感じるのです。

アンナは「不在」という強固な存在感によって、ある意味生き残っている家族を抜き差しならない関係に陥らせています。生前の彼女は夫の精神的支えとなり、娘を愛し、義父ヨハンとのバランスも維持してきましたが、彼女の存在が欠けることを皆が危惧したように、アンナ自身も"それ"を恐れていました。実際その通りになった時、彼らは生きているにも関わらず、死者の存在に対して癒しや救いを得ようと未だ求め続けているのです。

それはまるで、牧師の子でありながらベルイマンが生涯自問し続けた「神の不在」のように。

宗教に対してまったく拘りのない私からすれば、救いや癒し、導きとなるはずの"宗教"がどうして罪悪感に苛まされる存在となってしまうのか?どうして自分自身を苦しめるもととなってしまうのか?それはもう私には到底理解できるはずもないのですが、ベルイマンのこの苦しみは常に彼の映画に付きまとう影のようなものでした。答えはもうそこにはないのに「"不在"の存在」にすがろうとする人たちのように・・・・。






一対一の距離感しか持たない男性2人とは異なり、マリアンは神と向き合い、恐怖と孤独を抱え赦しを求めていたヨハンを救い、そして最後には自分の娘と心を触れ合わせることを果たします。

ベルイマン作品は、彼の宗教観や社会観が「芸術」として強く打ち出される強烈で独特なものが多く、生きる苦しみや信仰や神に対する畏れなど重いテーマを掲げてきたものが多くありましたが、この『サラバンド』は、それまでの(やや自伝的な)苦悩から一歩解き放たれた安堵感や赦しを最終的に見てとることが出来る作品となりました。

この映画は、日常的な「家族」「結婚」などをテーマとしたドラマ版をモチーフとし、更にこれまでの映画と共通する壮絶な人間関係の中に生まれる希望や幸福、絶望や失意といった人生観や精神論を凄味のある描写で展開していくことに変わりはありません。しかし、数々の女性遍歴を持つベルイマンの公私に渡るパートナーとして長きに渡り共に映画制作を行ってきた女優リヴ・ウルマンの言葉で始まり、彼女演じるマリアンの目を通して語られる作品であること・・・つまり、ウルマンの口から語られた物語だからこそ、この作品には意味がもたらされたのだと思うのです。

リヴ・ウルマンは『秋のソナタ』を「あれは男性の視点で描かれている作品なのよ。母親の罪の意識を男性が脚本にして映画にしたものよ」とさらりと言ってのけた女優(『想い出のイングリッド・バーグマン』より)なのです。彼女は、ベルイマン監督が作り出す作品をまるごと受け止めていました。『サラバンド』で彼女がヨハンを受け止めたことは、ベルイマン自身を抱き締めたことと同じなのでしょう。ベルイマン監督が妻イングリッドへと捧げ「遺作」として発表したこの作品には、神の沈黙がもたらす苦しみとともに、彼を安らぎへと導いているものも垣間見える気がしてなりませんでした。この作品は、ベルイマンが作るべく完成した"最終到達点"だったのでしょう。






■追記
【レビューを書けないままの映画・・・(テオ・アンゲロプロス監督)】という記事を前回書いたのですが、この映画もまた『ある結婚の風景』(TV放映版)を今年の1月に観て以来ずっと書くことができず、今回やっと言葉に出して完成したレビューとなりました。

ベルイマン [ 小松弘 ]


以前からイングマール・ベルイマン監督について知りたいと思っており、2月に上記の書籍「ベルイマン」や、『秋のソナタ』で主演したイングリッド・バーグマンの自伝などを読んだりしていたのですが、3月11日の大震災によりそんな映画寄りの気持ちも吹き飛んでしまいました。

が、少しずつですが生活にリズムが戻ってきたこと、そして、どうやら来年は記事を更新できる時間がグッと減る可能性が大きくなりそうなので、今後は出来る限りこのブログでやり残していることを片づけてしまおう!と思っています。まだまだ観たい映画、書いてみたい映画作品が数多くあって、本当に時間って足りないものだなぁとこんなところで痛感しております。まいったなー!


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  2011/09/16 | Comment (2) | Trackback (0) | HOME | ↑ ページ先頭へ ↑ | edit

Comment


こんにちは!
そうなんですよね~、実際に経過した年月が物語の重みを増していたと思います。演技力や特殊メイクだけでは表せないものがありました…。
父と息子、父と娘の関係だけでも重苦しいのに、それにベルイマン監督の想いを重ねると、本当に息苦しいくらいの作品ですね。
わたしは監督の事はそこまで詳しくなかったので、はなまるこさんより気楽に観ていたかも?
ヨハンに自分を投影しているのはなんとなく気付きましたが。
マリアンを演じる女優さんは凄い方だったんですね!
正直、再見したくなるような作品ではなかったけど、一度観たらストーリーはともかく、あの重苦しい雰囲気は忘れられないものがあります…。

あと、ニコラス・ケイジ作品はホント、似たようなのが多いですよね(笑)
彼の出演作で「ウィッカーマン(2006)」というホラー映画があるんですが、なんか後味が悪いようで観るのを躊躇してます。「キック・アス」も合わなかったしなぁ…。「赤ちゃん泥棒」の彼が一番好きかな?

宵乃 |  2013/07/21 (日) 14:01 [ 編集 ] No.137


はなまるこより

宵乃さん、いつもご訪問いただき、コメントまで残してくださって本当にありがとうございます!

この映画は、鑑賞してから記事にするまで、とてもとても時間のかかった作品でした。
(それでもまだ『秋のソナタ』のレビューは出来上がっていないままだったりしますi-229)
もう言葉にするなんてムリ!再見するものムリっす!!と思うくらい、重苦しさに満ちた映画でしたよね^^;ほんと参りましたi-201精神的にズーンとくる内容で、私にはほとんどホラー映画のようでした。。。

海外の映画を観る時、文化的背景や宗教観の違いが大きな隔たりになることが多くて(この映画は特にそうでした!)、観ていて分からないことや理解不能な部分を何とか埋めたいなーと思うことが多いんです。なので、ベルイマン監督作品を多く見たこの年は、彼や『秋のソナタ』で主演したバーグマン関連の書籍やビデオなどを見続けた頃でもありました。←でもほとんどお手上げでしたi-229ベルイマン監督の人生における苦悩は、八百万の神の国でノホホンと生活する私からは最も遠い存在だとハッキリ分かりました(笑)。

ニコラス・ケイジ映画の件まで、ありがとうございます(笑)!
『ウィッカーマン』観てないんです~。・・・評判悪いのはよく聞きますねi-229
『赤ちゃん泥棒』の時は強気のホリー・ハンターとのコンビがとても好きでした♪
そう!この頃のように、ちょっとトボけた感じや胡散臭い笑顔が彼の持ち味だったのに、
いつの間にか(一応)正統派のヒーロー気取りになってしまった点がザンネンです。
こんな私のグチに付き合ってくださって、宵乃さん、ありがとうございました~i-237

宵乃さんへ★ |  2013/07/21 (日) 22:07 [ 編集 ] No.138

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