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『シチリア!シチリア!』 (2009/イタリア、フランス) ジュゼッペ・トルナトーレ監督についてあれこれ②

   ↑  2011/09/27 (火)  カテゴリー: ロマンス、ドラマ




シチリア!シチリア!スペシャル・エディション [ フランチェスコ・シャンナ ]


●原題:Baarìa
●監督、脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ
●出演:フランチェスコ・シャンナ、マルガレット・マデ、リナ・サストリ、アンヘラ・モリーナ、サルヴォ・フィカッラ、ヴァレンティノ・ピコーネ 他
●1930年代、イタリア。シチリアの田舎町バーリアに牛飼いの息子として生まれたペッピーノ。やがて成長した彼は政治に目覚め、共産党の活動に参加。運命の女性、美しいマンニーナと出会い恋に落ちるが、政治活動のせいで彼女の家族には拒絶されてしまう。それでも愛し合うふたりは逆境を乗り越え、自分たちの夢に向かって歩き出す・・・。





映画の冒頭、ピエトロという男の子がコマを回して遊んでいます。
カードゲームに熱中している大人たちの使いでタバコを買いに行くのですが、なんと必死に走る彼の姿は、あっという間に空を飛んでしまうのです。

「・・・こんなベタな描写って」と思っているうちに、物語は次々とエピソードを見せてはフェイドアウトを繰り返すため、なんて雑な編集なのだろうと私はしばらく訝しんで観ていました。が、この"ぶつ切りのフェイドアウト"が紡ぐ各エピソードは、時間が経つにつれて、まるで夢の断片のように流れ去っていく「時」を表しているかのように思えてくるのです。


Wikipedia in italiano【Bagheria】 Wikipedia in italiano【Bagheria】
Wikipedia in italiano【Bagheria】より
「Baaria(バーリア)」とは「Bagheria(バゲリーア)」のシチリア語発音です。

シチリアは、アフリカ大陸やギリシャの影響を深く受けた侵略・支配の歴史や、社会の根幹に教会・政治家・マフィアたちが絡む深い闇を抱く点などが北イタリアとは大きく異なり、荒々しくも美しい土地の表情を持ちながらも土着の"生"の生々しさを見せる場所。パレルモの東、コンカ・ドーロ盆地の中央に位置するバーリア(バゲリーア)は、17世紀半ば頃、ブテラの君主によって建てられたヴィラから発生した街であり、この映画の中でも幾度となく現れては強烈な存在感を放つVilla dei Mostori(怪獣のヴィラ)と呼ばれる「Villa Palagonia」が大変有名です。

地域によって様々な顔を見せるイタリアという国の中でも強い異文化の香りを放つシチリア、バーリアですが『シチリア!シチリア!』の中では、三世代に渡る主人公たちの物語に近代イタリア史がうまく組み込まれており、彼らの生活にそれらを見て取ることができます。イタリア国内では『シチリア!シチリア!』は「我々の国の歴史を網羅するフレスコ画だ」とも評価されていました。劇中で確認できる大まかな歴史的事件やエピソードは、以下の通りです。

1930年代: ムッソリーニのファシスト党によるファシズム政権の時代
1940年 : イタリア、第二次世界大戦に参戦
1943年 : 7月10日 連合軍によるシチリア島上陸「ハスキー作戦」開始
     (ファシスト政権に反感を持つシチリアマフィアが米軍と内応し、同軍を支援した)
1946年 : 王政廃止に関するイタリアの国民投票
1947年 : 5月1日 ポルテッラ・デッラ・ジネストラの虐殺事件
1950年代: イタリア南部開発政策による農業改革
1954年 : テレビ放送の開始(RAI)
1960年 : タンブローニ内閣に対する武力衝突が各都市で起こる
1962年 : アルベルト・ラトゥアーダ監督によるマフィア映画『Mafioso』の撮影
      シドニー・ルメット監督作品『橋からの眺め』公開
1968年 : 年金改革に対する労働運動、学生運動激化 
1972年 : 5月7日 イタリア国会議員総選挙
1981年 : 画家レナート・グットゥーゾ
      フランチェスコ・ロージ監督の『三人の兄弟(Tre fratelli)』がナストロ・ダルジェント監督賞受賞
Wikipedia in italiano【Baarìa】の年表をもとに作成







例えばこの映画では画家レナート・グットゥーゾ(Renato Guttuso)詩人イニャツィオ・ブッティッタ(Ignazio Buttitta)がたびたび登場します。シチリアの血を濃く持つ彼らが、労働者のために権力と戦ったり戦後イタリア社会に現れたネオレアリズモ潮流の代表格となっていったのは当然の流れであり、そのような歴史を身近に感じられるエピソードの一つとも捉えられるのですが、逆に言えば日本で誰もが知るアーティストとも言えないため、イタリア文化に馴染みがないとその辺りの感想は難しいかもしれません。1956年にソ連共産党のフルシチョフが行った「スターリン批判」前後の時期においても同様で、主人公であるペッピーノが何故それまで傾けていた政治への情熱から幻滅し落胆した様子を見せていたのかも、ドラマ的にはあまり詳しくは描写されずアッサリとしたものでした。

そういった点から見れば、明らかにこの映画は万人受けするタイプの作品ではなく、イタリアや近代史に興味のない人、ヒューマンドラマや温かな感動を求めたい人などにとってはただの長々しい不親切で政治色の強い大河ドラマに見えてしまうかもしれません。



しかし、私がこの映画に強く惹かれたのは元々イタリアに興味を持っていたからということ以上に、トルナトーレ監督のこの映画への情熱に対して抗し難い魅力があったからです。

その一つは「言葉」でした。繰り返し聞こえてくる人々のシチリアの言葉、年老いた人々のしわがれた叫び声、イタリア国内では標準語の字幕をつけなければ理解できないほどの強い方言。これらがシチリアの人々の強靭な生命力を心に響かせ、有無を言わせぬほどの説得力を持ち、物語性を高めているように思われました。

今回、ジュゼッペ・トルナトーレ監督は、過去に描いてきた"シチリア"よりもかなり独創的な表現方法でずっと奥まで踏み込んだ"自身の物語"を紡ぎ出しているのですが、そこにあるのは確固たる信念だけで、迷いを感じさせるものは微塵もありません。それはきっと、この作品が監督の人生の大きな転機から生まれたものだったからなのでしょう。

2007年にローマで暴漢に襲われ、生死の境をさまようという事件に見舞われ晴れて回復したのち、あらためて生きる喜びを実感したトルナトーレ監督は、現在や過去、未来といった時間の行き来すらも飛び越えた自身のルーツを見つめ直す必要性を強く感じたのかもしれません。『シチリア!シチリア!』はこれまで彼が生み出してきた過去の作品の、いわば「心臓部分」であり、過去の作品の焼き直しなどでもなく(確かにリンクは感じられるものの)それまでとは全く違った方向を向いたものに感じられます。



映画では「巨岩の裏に宝がある」という言い伝えが出てきます。
一つの石で3つの岩に当てることができれば、黄金の詰まった洞窟の口が開くというもの。ペッピーノは折々にこの場所へやってきては石を投げるのですが、一度も成功することはありませんでした。しかし・・・

映画をご覧になった方は、言い伝えのような「奇跡」が起こったと思われたでしょうか?
トルナトーレ監督はこの場面で、唐突とも思えるほど映画的でもあり現実的でもあるシンボリックな演出を施していました。バーリアのことを「よかったこと、悪かったこと、全て。愛することもできるし、憎むこともできる」とインタビューで述べているように、マフィアによる野蛮で陰惨な暴力の影が漂う日常や汚職・賄賂の横行など古く悪い慣習を否定も克服もできない現実への思いを、トルナトーレ監督はそこに滲ませているように思われたのです。例えば都市計画のモデルの上を這わせる盲目の議員の手は、まるで地を這う黒いヘビのようだと・・・私はそんな風に感じました。



そして、エンドロール。
流れゆくクレジットの中で、私たちはバーリアで育った芸術家たち――レナート・グットゥーゾやイニャーツィオ・ブティッタ、ダチア・マライーニ(Dacia Maraini)、フェルナンド・シアナ(Ferdinando Scianna)など、漂うように流れては消えていく彼らの声を耳にすることができます。これら、人々の怒号や家畜の鳴き声、通りの人々などバーリアの生の生活感を映し出したのは、ほんの10歳だったトルナトーレ監督でした。8ミリで撮ったホームビデオには彼の故郷への思いが詰まっているのです。

そしてこの最後に・・・私たちはトルナトーレ監督自身の声――1979年にPCL(イタリア共産党)市会議員として最年少で任命された時代の「共和国と地方、市の利益、調和のために良心と分別を持って義務を果たすことを誓います」という宣誓の言葉を聴くことができます。

7:10 "Quantu stradi e paisi, eccitati carusi, e quantu trenu, a scinniri ed acchianari"
7:23 "Peppuccio, stacchicci 'u coddu, ca a pasta s'arrifriddò"
7:31 Renato Guttuso: "un artista parla solo delle cose che conosce delle cose che sa....delle cose con le quali ha vissuto una comunione profonda da sempre....da quando non era neppure cosciente"
7:57 Dacia Maraini: "ci sdraiavamo sulla terrazza di Villa Valguarnera....e parlavamo dell'universo..
io ero piccola, avevo dieci anni"
8:15 "..peri tri, peri quattru, peri cincu, peri sei, peri setti, peri ottu, tippete, tappete.... pani, vinu e biscotti"
8:21 "a' giustizia, a' disoccupazioni nun c'avissi statu cchiu'.......tutti i vecchi anziani strarrammati di Paraddisu, tutti i fimmini cchiu' lindi"
8:34 "..vinieva mischinu ogni sera tutte le sere, mischinu, un cristianu bonu, s'assittava.."
8:45 "caro Paolo, hai concluso la tua giornata, illuminata da un ideale che oggi.. accomuna centinaia e centinaia di milioni di lavoratori in tutto il mondo"
9:09 "un lungo funerale nero di formiche segue la salma di una zanzara....eroicamente caduta"
9:33 "perchè se vado a fare un reportage di guerra, o la fame in Africa....la faccio perchè poi devo tirare fuori cinque foto per il giornale.. che sono, eh"
9:44 "all'una scinnevunu da canaletta 'nna carina....."
9:57 "io nella mia coscienza mi sono sentito per trent'anni un confinato....da trent'anni manco da Bagheria"
10:05 "nel nome del Padre, del Figlio e dello Spirito Santo"
10:16 "e allora ci vuole sempre l'uomo, sempre è inutile....mancando l'uomo, il mondo è finito"
10:27 "Cola trasi, ..astrizzati, 'ca sta biniennu ta' patri!"
10:31 Giuseppe Tornatore: "giuro di adempiere le mie funzioni con scrupolo e coscienza....nell'interesse del Comune, in armonia agli interessi....della Repubblica e della Regione"








割れる卵、未来を予知する老婆、奇妙な彫刻など。土着の風習を表しながらも、普遍的な人生のほろ苦さや厳しさ、命の美しさなどを詩的に描いた『シチリア!シチリア!』は、日本公開時の宣伝文句「人生は、どこを切っても美しい。」どころか、どこを切ってもトルナトーレ監督自身の血が流れているのです。

商業性や大衆性を期待されながらも「作家性」と言うにはあまりに濃すぎる自分自身の血を、トルナトーレ監督は無視することが出来ないのかもしれません。良いことも悪いことも愛し憎み、それでも慈しむように故郷を見つめるジュゼッペ・トルナトーレ監督の温かく強い眼差しに、私は心打たれました。甘い郷愁や綺麗事だけを並べての魅力に頼ることない正直な力強さが、この映画の魅力でした。

次回作・・・これまで一度もトルナトーレ作品を心待ちにしたことがなかった私ですが、今後作られる映画を早く観てみたくなってしまいました(・・・人は変われば変わるものなのです笑)!そして、ここまで辿り着くきっかけを作ってくれたブロガーさんに大感謝です。こうなると『海の上のピアニスト』のティム・ロスにも感謝しないといけないかもしれませんね(笑)。

今回わかったことは、映画監督も生きている人間なので作風も人生観も変わるかもしれない。存命中はむやみやたらに「好きだ、苦手だ!」と思わずにジャンジャン作品を観にいってみよう、チャレンジしてみよう!ということでした←これだけか(笑)!







映画『シチリア!シチリア!』番外編
ここからは、この映画で私的に面白かったなぁ~ということをメモしておこうと思います!

■その1:Villa Palagoniaについて

このレビューの冒頭でも少し書いたのですが、Bagheria(バゲリーア)のこの不思議な存在感を放つvillaの彫刻が『シチリア!シチリア!』の中でもかなりインパクトを持って登場します。アルベルト・ラトゥアーダ監督によるマフィア映画『Mafioso』の撮影シーンで「奇妙さが映画に似合う。唯一無二だ」とも語られている通り、同じイタリア人から見てもかなり異彩を放つものなのでしょう。シチリアに行くチャンスがあれば、パレルモから足を延ばして是非とも訪れてみたいものです。
※ヴィラ・パラゴーニアのHPはこちら:Villa Palagonia - Homepage


■その2:イタリア映画界を代表する俳優たちの友情出演
この映画で何にビックリさせられたかと言えば、イタリア映画界で活躍する俳優たちがほんの小さな役で顔を出していることなんですね。特にルイジ・ロ・カーショが「嫁さんはキレイ!」で登場した時は、驚きのあまり引っ繰り返りそうになりました。モニカ・ベルッチもなぜあんな役で脱いだんだ!?凄すぎる(笑)!他にも、ローマからの記者役で『トスカーナの休日』や『向かいの窓』のラウル・ボヴァ、街中の商売人にベッペ・フィオレッロ(Beppe Fiorello)など。

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奇しくもルイジ・ロ・カーショは『ペッピーノの百歩』という作品で、やはりシチリアの小さな町を舞台にマフィアとのかかわりを絶とうとして暗殺された実在の青年ペッピーノ(『シチリア!シチリア!』の主人公と同名)の役を演じていました(おまけに『輝ける青春』(2003/イタリア)で私が初めて言葉を交わすことのできた思い出の俳優さんでもあります)。これだけ俳優が集まるというのも、やはりトルナトーレ監督の人徳のなせる業なのでしょう。


■その3:映画フィルムを見ると時代の流れが見える

まるで『ニュー・シネマ・パラダイス』の1シーンかと錯覚するような、フィルムの切れ端をコレクションするペッピーノの息子ピエトロ。彼が大事そうに見つめるフィルムの1コマ1コマから、時代が変化していく様子を見ることができます。

・父ペッピーノと一緒に観に行ったのは『橋からの眺め』(1962/イタリア、フランス)
・『アルゴ探検隊の大冒険』(1963/イギリス)
・『国境は燃えている』(1965/イタリア)
・『シシリーの黒い霧(SALVATORE GIULIANO)』(1962/イタリア)
・『奇跡の丘』(1964/イタリア、フランス)
・『続・夕陽のガンマン』(1966/イタリア)
・『天使の詩』(1966/イタリア)
・『ヴァージニア・ウルフなんか怖くない』(1966/アメリカ)


■バーリアは多くの芸術家の生んだ土地
今回『シチリア!シチリア!』を観て思ったのですが、この地にある独特の文化・政治・宗教・コミュニティといった形態がユニークな人々を育てる土壌となり、数多くのアーティストがここから輩出されているんですね。勉強になりました。このレビューを書くにあたって参考にしたサイト、資料などを残しておこうと思います。

【Bagheria News】:バゲリーアのニュース、スポーツ、イベントなどなどローカルな情報が満載のサイト。もちろんトルナトーレ監督の特集もあります(ここではシチリアでの呼び名であるのPeppuccio Tornatoreと記載されています)。

10代の頃、この映画でピエトロがしていたのと同じように結婚式やパーティなどでの写真撮影サービスなどを行っていたというトルナトーレ監督が、10歳の時から撮りためたモノクロ写真集『ジュゼッペ・トルナトーレ写真集 シチリア1966-1979』
「ジュゼッペ・トルナトーレ写真集―シチリア1966‐1979」出版社:トレヴィル
―10才の時から写真を撮り始めてそれ以後の10年間に、自分では遊んでいるものとばかり思い込みながら、気付かない内に映画への取り組み方の基本を学んでいたに違いない。なぜなら素朴なこれらの写真のおかげで今日、私が映画の登場人物達を創造し、生かすことができるのだから―
ジュゼッペ・トルナトーレ






・・・・というわけで。
「映画」と「イタリア」という大好きなジャンルだっただけに、ついつい山盛りで好きなことばかりを書いてしまいました。来年はあまりブログを更新できそうにないので、今後しばらくは気軽な気持ちでレビューを書いていけたらと思います。取りあえず(一人で勝手に)やり切ったので、トルナトーレ監督に対して思い残すことはもうないな!(笑)



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  2011/09/27 | Comment (0) | Trackback (0) | HOME | ↑ ページ先頭へ ↑ | edit

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