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『グッドナイト&グッドラック』 (2005/アメリカ)

   ↑  2011/08/23 (火)  カテゴリー: シリアス、社会派



グッドナイト&グッドラック 豪華版 [ ジョージ・クルーニー ]


●原題:GOOD NIGHT, AND GOOD LUCK
●監督:ジョージ・クルーニー
●出演:デヴィッド・ストラザーン、ジョージ・クルーニー、ロバート・ダウニー・Jr、パトリシア・クラークソン、レイ・ワイズ、フランク・ランジェラ、ジェフ・ダニエルズ、テイト・ドノヴァン 他
●1953年アメリカで、国民の、そして報道の自由が死のうとしていた。マッカーシー上院議員が先導する「赤狩り」が全米を恐怖に陥れていた。報復を恐れるマスコミが見て見ぬふりをする中、人気キャスターエド・マローは言葉だけを武器に立ち向かう・・・。ヴェネチア国際映画祭3部門受賞を始め数々の賞を受賞したジョージ・クルーニー監督第2作目、本格社会派ドラマ。





シンプルだけれど作り手の熱い思いが伝わってくる映画でした。

硬めのモノクロ映像は、あざとさを感じさせることなく、1950年代のアメリカに吹き荒れたマッカーシズムの脅威とそれに対する闘いを当時の緊張感そのままにうまく表していたと思います。TV報道の舞台裏からジャーナリズムの在り方を厳しく問うた作品なのかもしれませんが、権力と闘う人々の姿を複雑にし過ぎることなく、終始抑制の効いた冷静なタッチで描かれていたことにとても好感を覚えました。

故にそのシンプルさは、仲間内でも疑心暗鬼になるような排他性と閉塞感の時代の中でも信念ある報道姿勢を貫き通したエドワード・R・マローという人間の強さをクッキリと浮き彫りにし、非常にストレートで強いインパクトを生み出しているように感じました。マローを演じたデヴィッド・ストラザーンの、鋭く冴えわたる燻銀の演技にはとにかく圧倒されました。オープニングのスピーチの何とパンチの効いていることでしょうか。





「父親と妹が共産主義者だという内部告発があった」というだけでミシガン州空軍予備役のマイロ・ラドゥロヴィッチ中尉が除隊勧告を受け、それに対して中尉が異議を申し立てた―――この事件をマローたちが担当するCBSの番組「See it Now」で取り上げるところから『グッドナイト&グッドラック』は走り始めます。

彼らはその後、30分間の特別番組「A Report on Senator Joseph McCarthy(ジョセフ・マッカーシー上院議員についてのレポート)」を放送し、次いでマッカーシー上院議員自らが反論できる番組も設けますが、ここでマッカーシーはそれまでの手法と同様に虚偽の情報でマローに対し不当な個人攻撃を仕掛けてきました。

これに対するマローの反論は、冷静でシンプル、そして揺るぎないものでした。

以下の動画は実際に「See it Now」で放送されたのものであり、右側は映画で使用されたこれとまったく同じ(0:35から)シーンです。余計なものを最小限にまで削ぎ落としたこの映画の中にあっても、更に存在感の際立つ力強いシーンです。

 
日本語意訳:「議会の各委員会が有用なのは否定しません。法制化前の調査は必要です。しかし、調査と告発は全く違うものです。議員はこの違いを無視している。愛国者でも異議は述べます。疑われた者は有罪とは限らず、人を裁く時には証拠と裁判が必要なのです。我々は人からの脅かしや、理由のない恐怖から解放された歴史を持っています。我々は臆病者の子孫ではありません。祖先は書くことや発言することを恐れず、不人気な主張も擁護してきました。議員への反対派も賛成派も沈黙を守るべきではありません。歴史は否定できても、結果への責任は残るのです。我々は自分たちを"世界の自由を守る者"だと公言していますが、内で自由を放棄して外の自由は守れはしません。議員の行動は同盟国に不安感を与え、敵国を安心させているのです。誰のせいか?議員ではありません。彼は恐怖を生んではいません。うまくつけ込んだだけです。カシアスは言いいました――"ブルータスよ、過ちは運命ではなく我々の中にある"と。GOOD NIGHT, AND GOOD LUCK」


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一般人はもちろん、映画関係者や学者、報道関係者に至るまで密告や裏切りなどから赤狩りの"犠牲者"として人々の面前に引きずり出され、そのほとんどがいわれのない理由によっていつ巻き込まれるかも解らない恐怖が蔓延る中、マローのこのマッカーシー批判は多くの視聴者の心を掴み、ここから「反マッカーシズム」の風が吹いたとも言われています。

時代に風穴を開け、凍り付いた人々の心を動かしたのは、感情を露わにした熱狂的なものなどではなく、理知的でスマートでありながら強い使命感と信念、情熱を内に秘めたマローの言葉だったのです。



常にシャープなストラザーンに比べ、彼と対立しやすい人々との間で緩衝役となり、また彼とともに歩んでいくディレクター役のジョージ・クルーニー。そして、その大きな瞳で時代を見つめ、前述二人よりは一スタッフとして報道の影響や重さを実感し、心揺れ動く普通の人を演じたロバート・ダウニー・Jr。完全に脇に徹した二人の存在が、社会的背景や報道を取り巻く舞台裏などをさり気なく見せていてとても良かったです。





余談ですが・・・
この映画ではまた、当時のCMを映し出す場面や所構わずモクモクと吹かされるタバコのを煙などを目にします。これらを見て、私は米国ドラマ『マッドメン』(原題:MAD MEN)を思い出してしまいました。

【海外ドラマ「マッドメン」公式サイト】
『マッドメン』は1960年代を舞台としているので、この映画よりも時代設定としては少し後なのですが、この「米国時代劇ドラマ」でも当時の社会情勢がうまく組み込まれ題材とされています。

例えばシーズン2の最終話では、1962年にキューバでのソ連ミサイル基地建設を巡って米ソが硬直状態で睨み合った「キューバ危機」の2週間が描かれていますが、私はこのドラマを見るまで「キューバ危機」を歴史上の事件としては知ってはいたものの、人々が死を意識し社会全体がここまでパニック状態であったことを知りませんでした。

これは『グッドナイト&グッドラック』についても同じことで、彼らがいかに"権力側"と闘ったのかを「マッカーシズム=歴史上の事件」としてではなくグッと目線を下げて見ることができたからでした。

1950年代のアメリカで、TV報道の在り方や大衆化していくメディアの存在意義などへの鋭い疑問を投げかけたエドワード・R・マローでしたが、彼の主張は21世紀に入った現在でも十分に通用するものであり、ジョージ・クルーニーがこの映画を制作した思いは強く響いてきます。言ってみれば、不幸にも当時から何も変わっていないということなのでしょう。日本でも今、正にこの問題が問われており、半世紀も前の出来事がタイムリーな題材になってしまうとは・・・なんだか情けないことだなぁと思ってしまいます。マローの忠告は合っていたのでしょう。テレビは今、最も進歩のないメディアへと成り下がってしまったようです。






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それと・・・CBSニュースキャスターのドン・ホレンベックを演じたレイ・ワイズですが、あの『ツインピークス』のローラの父ちゃんが笑顔を張り付けて出てきた時点で別の意味で凍りますね(笑)。ツインピークスのトラウマがあると、そこだけでも別な緊張感が走るのです。私はあれ以来、どの映画やドラマを観てもレイ・ワイズが出てくるとコワイです。

そんなワイズが演じたドン・ホレンベックですが、彼はメディアによる攻撃を受けた者として描かれています。映画の中では小さなプロットかもしれませんが、ジョージ・クルーニーの主張は、このようなところからも見て取ることができます。



映画『グッドナイト&グッドラック』からDianne Reeves「I've Got My Eyes On You」

一見、当時の再現をしただけのような平坦な映画に見えるかもしれませんが、このような細やかな演出や随所に挟まれるダイアン・リーヴスの歌のシーンなど、クルーニーの手腕が冴えた作品として、私にとっては完璧に近いのではないかと思うほどとても好きな映画でした。年に数本でいいので、こういったトーンの映画に少しでも出会いたいなぁと切に思います。



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