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『ボンボン』 (2004/アルゼンチン)

   ↑  2011/06/24 (金)  カテゴリー: ロマンス、ドラマ






【送料無料】ボンボン/フアン・ビジェガス[DVD]


●原題:El perro / BOMBÓN - EL PERRO / Bombon:The Dog(英題)
●監督、原案、脚本:カルロス・ソリン
●出演:ファン・ビジェガス、ワルテル・ドナード、ミコル・エステヴエス、キタ・カ、クラウディーナ・ファッツィーニ 他
●ビジェガスは長年勤めたガソリンスタンドをクビになってしまった。彼は手作りのナイフを売って何とか生計を立てようとするがうまくいかない。そんな時、車が壊れて対応上している女性を助けたお礼にと、半ば強引に大きな白い犬、ボンボンを貰うことになってしまった。このボンボンがきっかけとなり、出会いが出会いを生み、話は転がっていくことに・・・。




―― 人類がアフリカを出て、世界に拡散したその最果ての地が パタゴニアだ ――
 「嵐の大地パタゴニア」関野吉晴 著 (小峰書店)より


パタゴニアとは、南アメリカ大陸の南緯40度付近を流れるコロラド川以南の地域の総称で、アルゼンチンとチリにまたがるエリアのことを言います。アルゼンチン側はパンパ(大草原地帯)が広がり、年間を通して強い風が吹きつける気候が特徴です。

思えば・・・『母をたずねて三千里』は、マルコ少年がイタリアはジェノバの港から、出稼ぎに出た愛する母親を捜し求めてブエノス・アイレスへ旅する物語でした。そう、アルゼンチンは20世紀半ばまで世界有数の富裕国だったのです。

しかし、1960年代以降は政変やクーデターが頻発、1982年には英国との間にフォークランド(マルビーナス)紛争、1988年~89年にかけては歴史的なハイパーインフレを経験、2001年末には巨額の公的債務を抱え経済危機に陥り、各地で死者を出す暴動を起こすまでの事態となりました。経済的信用度を落としたアルゼンチンはその後、失業率の高さや貧困の問題を抱えながらも、現在では経済活動の復活・成長へと繋げ、徐々に持ち直してきているようです。

今回のアルゼンチン映画『ボンボン』は、こういった経済的背景を持ちながら、強い風に吹き付けられて遥か高くに真っ白な雲を浮かべる広大なパタゴニアの空の下、失業してしまった素朴で慎ましい主人公のおじさんと、偶然出会ったある一匹の犬とが織り成す静かで優しい物語です。


※この映画に登場する"Bombon"は、正式名称:ドゴ・アルヘンティーノ(Dogo Argentino)というアルゼンチン原産の猟犬です。とても珍しい犬種で日本には数十頭しかいないそうです。闘犬として存在したこともある強くてプライドの高い犬なので、本当はビジェガスおじさんのような"初心者"ではとても手に負えないはずなのですが・・・ココが少しポイントだったりします(笑)。






実はこの映画、ほとんどがプロの役者ではなく、演技などしたことのない素人の方を起用しているのだそうです(観終わってから知った!)。恥ずかしがり屋でどこかお人よし、素朴な表情がとてもとても印象的だった主人公のビジェガスは、普段はガレージで20年間まじめに働くごく普通のおじさんだったわけです。ボンボンの調教を買って出てくれる巨体で元気なワルテルも、なんと普段はアニマル・コーディネーターとのこと。←俳優としか思えないあの堂々たる演技は一体・・・!?(笑)

日本版公式ページが既に閉鎖されていたため、カルロス・ソリン監督のインタビュー記事をコチラで少し読んでみました(【Austin Film Society】BOMBÓN: EL PERRO -Program Notes)。

「リアリティは、フィクションの中に絶えず入り込んでくる」と言うソリン監督は、混沌としたものであってもそれ以上に予期せぬ素晴らしい瞬間を切り取ることが出来る!という確信を持って撮影されていたそうです。新たなロケーションが、たとえ本来のスクリプトから大きくかけ離れてしまったとしても、偶然思いがけないものを映画にもたらしてくれるのだと。



ビジェガスが不安そうな表情を見せたり、ホッとしたり、動揺して指先が少し震えたり、微笑みがこぼれたり・・・そういった「演技」は、確かに映画の中のお話ではあるけれども、それは20年間ガレージで働いてきた真面目なファン・ビジェガスさんというその人自身が、実際に目にした世界の中で体験したリアルな感情そのままだったということなのでしょう。これって、まるである種のドキュメンタリーのようでもありますよね!まさに映画の奇跡、です。





『ボンボン』は、いわゆる【動物映画】のような"イヌと人間の心の交流"のようなものを描いたものではありません。ワンちゃんのブサ可愛い表情を捉えてみせたり、小首をかしげる決めポーズを披露したり、人間と犬が抱き合って喜ぶ感動のシーンがあるわけでもありません。動物と人間の距離はあくまで淡々としたものであり、必要以上のベタベタとした擬人的感情表現をボンボンに求めた映画でもありません。ですので「犬の人との感動物語」を期待していると肩透かしを食らうこと必至でしょう!

過去において「経済的負け組」となってしまったアルゼンチンを舞台とし、更にそのような状況から生まれたビジェガスのように決して豊かではない一般的な人々を映し出すこと、また、そういった映画をアルゼンチンで作ることが、きっとこの映画にとって大切であったのだと、そんな風に私は感じました。

ソリン監督は先のインタビューでも「裕福で魅力的な家族を撮ることなどには一切の興味がない」と断言されています。世界から切り離されたような場所で貧困や失業に直面した人々はアイデンティティを失いがちであり、そういった心の荒廃は、経済的なものよりもずっと深刻なのだ、とも。


だからこそ・・・
たった一匹の犬との出会いによって、これまでに経験したことのない新しい世界が主人公の目の前に広がっていく解放感や、人生において「希望」を見出せることの喜び、人との出会いによって心が浮き立つほど軽やかになる幸福感――こういったもの全てがどんなに素晴らしいものか。この作品を【アルゼンチン映画】として観ることのできる最大の醍醐味なのかもしれません。強い風だけが吹き抜けていくパタゴニアの地で、特別でもない平凡な人生の中にも、こんなに素敵な出会いや喜び、笑顔が生まれるのだということを。

もちろん、ビジェガスが次々と人々に出会い、ボンボンとともに新世界に飛び込んでいくというストーリーは、アルゼンチンから遠く離れた日本人の私の心をも軽くしてくれました。ビュービューと強い風が吹き荒び、人の影が見当たらない真っ直ぐに伸びる道を車でひた走る映像からは、普段見ることのできない、感じることのできないものを私に運んできてくれました。

爽やかな音楽が心に沁みる(因みに音楽の担当はソリン監督の息子ニコラス・ソリン)「感動のラスト」はもうズレズレなのですが(笑)、それもこの後へと繋がる大きな「希望」でもあり、本当に映画映画していない実に現実的でいい作品だったなぁと、思わず一人で笑ってしまうものでした。





そして、もう一つ。

私はこの映画を観ている最中、初見であるにもかかわらず、何故かずっと既視感のようなものを覚えていました。どうしてかなどうしてかな・・・・と思っていたのですが、カルロス・ソリン監督のフィルモグラフィーを見た時に、やっと答えが分かりました。



『エバースマイル、ニュージャージー』(1989/アルゼンチン、イギリス) 原題:EVERSMILE NEW JERSEY

ずっと以前にたった一度だけ観た、ダニエル・デイ=ルイス主演の作品の風景でした。
果てしなく広がるパタゴニアの空の下、"天使"を乗せて疾走するバイクの後ろ姿・・・。
あぁ、やっぱり映画の風景って、ずっとずっと忘れないものなのですね。


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 |  2011/06/27 (月) 23:17 No.84

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