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『不思議惑星キン・ザ・ザ』 (1986/ソ連)

   ↑  2011/05/16 (月)  カテゴリー: SF、宇宙、怪獣
 【DVD】不思議惑星キン・ザ・ザ
●原題:Кин-дза-дза! / KIN-DZA-DZA!
●監督:ゲオルギー・ダネリア
●出演:スタニスラフ・リュブシン、エフゲニー・レオーノフ、ユーリー・ヤコヴレフ、レヴァン・ガブリアゼ 他
●時は冬のモスクワ。技師のマシコフは帰宅するなり、妻に買い物を頼まれ外出する。街頭で地方出らしいバイオリンを抱えた青年に「あそこに自分のことを異星人だと言う男がいる」と声を掛けられて、関わるのは面倒だから警察に連絡しようとするが、「裸足で寒そうだから」と言う青年に付き合って、結局その怪しい男と言葉を交してしまう。自称異星人はこの星の座標を尋ねるが、マシコフはそんな男の言葉は聞き入れず、手に持っていた“空間移動装置”を押してしまう。その瞬間、マシコフと青年は砂漠のド真ん中にワープしてしまった。しかたなく歩き出す2人のまえに釣鐘型の宇宙船が現れた・・・!ソ連全土で1520万人という驚異的な動員数を記録した感動のローテク脱力SF映画。




えぇぇぇぇぇー!というような展開が延々と続くため(135分ある)、まずは映画開始10分過ぎが最初の勝負所になります。ここで、ついていけないわ!と思った方は、気を確かにしてスッパリとご自分の人生を歩まれた方が宜しいかと思います。

が、ここで脱力笑いが漏れた方は、どうかどうか最後までお付き合いいただきたく思います。何といっても、この映画のラストは予想を超えた感動のドラマが待っており、私も思わず胸が熱くなって泣きそうになったほどでした。コレ二ハ ヤラレタナー!

旧ソ連時代。マシコフおじさんとバイオリン弾きのゲデバン君がテレポートで飛ばされた先のギンザザ星雲プリュク星。ここでの言葉は全て「クー!」。ゴメンネも「クー!」何でも「クー!」。でも「このバカタレ」とか「クソヤロー」などの罵倒語だけは「キューッ!!」。
どこがSF映画なのか分からないくらいユルユルにすっ呆けている感じが、どこまでも広がる不毛の大地―砂漠のよう。ここから長い長~い地球帰還までのお話が続いていきます。

「面白い映画だなー」なんて私もゆるゆるに観ていたのですが、後半、警察が出てくるあたりから「こ、これはもしかして・・・」という、ただならぬ雰囲気を感じ始めました。




そうなんです。【脱力系SFカルト映画】とも言われているようですが、実はゴルバチョフの登場とソ連崩壊直前の時代に作られたという点、これがこの映画に鋭いメッセージを強烈に残しており、ロシアで多くのファンを熱狂させたと言われる理由の1つとなっているようです。ただのウケ狙いのお遊び映画ではない、ということなんですね。

因みに社会主義時代のソ連の共和国であったジョージア(日本語での旧呼称:グルジア)が、この映画の製作国です。
監督は、やはりジョージア出身で、デビュー作『SERYOZHA』がカルロヴィ・ヴァリ国際映画祭でグランプリを受賞したという、ロシア映画界の大御所ゲオルギー・ダネリヤ。
とてもインテリジェンスな雰囲気の方で、2010年7月16日付のロシアの日刊新聞【Новые  Известия】の記事では「バラク・オバマが、『不思議惑星キンザザ』を繰り返し見ていたらしいよ(byオバマ大統領の異父妹の話)」なんていう面白いことも書いてありました。
(ただ、私は翻訳で見たので、ロシア語の知識に明るい方がいらっしゃいましたら今一度ご確認ください。)

全体的ににレトロな雰囲気でのんびりした感じが、やはり旧ソ連の共和国だったウズベキスタン映画、1992年の『UFO少年アブドラジャン』を、どことなく思わせます。





~厳しい検閲をすり抜けるための工夫があった~

ロシアの熱狂的な「キンザザ ファンサイト」なども幾つか覗いてみたのですが、やはりこの映画はロシア語やジョージア語とともに、ソ連時代の文化や社会的風潮などが分かっていれば、きっと面白さも100万倍だったな!!と強く感じました(劇中使用されるチャトル=パッツ語の言語由来は後述)。当時の厳しい検閲を通り抜けるための工夫があちらこちらに散りばめられているようなのです。

例えばですね『不思議惑星キン・ザ・ザ』の中では、ソ連時代の官僚主義による腐敗でどうしようもなかった警察批判なんかを堂々とやってのけています。上の画像のオジサンは、惑星プリュクの【エツィロップ】と呼ばれる警察官のような存在の人です。【Etsilopp】と発音表記しますが、実はこれは警察=【police】の逆さ文字なんですね。映画の中では、権力を振りかざす大威張りのエツィロップを、地球人である"マシコフおじさん"と"バイオリン弾きのゲデバン君"がコテンパンにやっつけるシーンが出てきます。まともな映画でしたら、検閲でアウト!でしょう。

この【エツィロップ】ですが、劇中、ゲデバン君が荷物に入れていた「酢」を取り上げて飲んでしまうというシーンがありました。実はここにもちょっと面白いエピソードがあるんです。

当初のシナリオでは、ゲデバン君が持っていたのは酢ではなくチャチャでした。「チャチャ」というのはジョージアでしか採れないブドウ品種サペラヴィ種やムツヴァネ種を使用したジョージア産ブランデーのこと。つまりお酒だったのですね。しかし、この映画のスクリプトが出来てから完成するまで5年は経っており、その間ロシアではブレジネフ→アンドロポフ→チェルネンコと書記長が変わり、遂にゴルバチョフの時代へと突入することになります。ゴルビーといえばペレストロイカ。ということで、1985年6月にゴルバチョフ書記長が「反アルコール・キャンペーン」の一環として節酒法を施行したため、映画の中で用いられていたチャチャの瓶も「酢」へ変更しなければならない事態となったわけです。

まさに、ソ連時代に作られた映画ならではの裏話ですね。





~現代社会や文明に対するパロディや風刺~

また、この映画では当時の社会や環境、資本主義世界に対する皮肉や風刺などが、"不条理ゆるゆるSFコメディ"の中にうまく組み込まれています。ここが面白い!

例えばこの惑星プリュクでは、ひどい人種差別がまかり通っています。彼らは一見したところ同じような人間に見えますが、【識別器】を当てることによって緑色だと【パッツ人】、オレンジ色だと【チャトル人】と区別されます。プリュクにおいて身分の低いパッツ人は【ツァーク】というチリンチリン鳴る鼻鈴を付けて、チャトル人を敬わなくてはなりません。マシコフおじさんたちも「お前ら何様だ!おまえたちはパッツだ!!」と勝手に決めつけられて無理やり鼻鈴を装着させられます。

また、この人種差別以外にも「ステテコの色」での厳しい階級制度があります。特に【赤ステテコ様】と【黄ステテコ様】はエライので「クー!」の挨拶も二度しなくてはなりません。この星の儀礼にこなれてきたおじさんたちが、ちゃちゃっと「クー!」が出来るようになるところなんか可笑しいやら悲しいやら・・・
※ロシアのwikiでは『不思議惑星ギンザザ』に関して面白いくらい項目が細分化されています。パンツの色の差別化という頁もあって、「カラー分化パンツ:比喩的な意味でカースト制度を表し、社会的地位の属性を強調するもの」という説明と共にパンツ分類表も記されています。ご興味ありましたら是非!!

他にも・・・
■階級が下の者は楽器を演奏する時にはカゴの中に入らなければならないという厳重な規則
■水は【ルツ】という燃料に変えるために掘り尽しており、枯渇して星全体が砂漠化している
■ソ連時代ではマッチ1箱60本入りが2カペイカという最も安い製品だったのに対して、この星では【カツェ】と呼ばれて超最高級品として扱われ、このカツェで物を買うことも出来るため皆欲しくて仕方がない・・・・・などなど

何となく観ていれば、本当におとぼけ演出でバカバカしいまでにおばか映像を繰り広げていく映画にしか見えないのですが、実はペレストロイカの波が来る、そして社会主義国ソ連が崩壊する直前だったという時期を考えると、まるで旧ソ連や資本主義国などを模倣した世界観を持たせたこの作品に対してちょっと鳥肌が立つような、恐ろしく時代に即した映画を作り出し、世に送り出すことが出来たものだなと思わず唸ってしまうものがあります。





~国家間の対立や民族問題をユーモアの中に包み込んだ『キン・ザ・ザ』~

ただこの映画は、これまで書いてきたような批判的側面だけで成り立っているわけではありません。どちらかといえば、未来への期待や展望、人間への希望といった温かくてユーモラスな視点が、この映画の愛される理由なのかもしれません。

マシコフおじさんとゲデバン君は、どんな危機が訪れようとも互いを決して見捨てることがありません。地球に戻ることのできる日まで、おじさんは勇猛誠実であり続け、ゲデバン君はおじさんを信じてどこまでも着いて行きます。行動を共にしていたパッツ人とチャトル人のオッサン宇宙人二人に対しても、彼らがどんなに信用できなくとも攻撃的になることなく、それどころか彼らを助けようと地球帰還へのチャンスをふいにしたりもするのです。

惑星プリュクを脱出して辿りつく【ハヌード星】は"目障りだから"という理由で攻撃され全滅してしまった過去があります。また【アルファ星】は、一見豊かで美しく全てを可能にしてくれる金髪碧眼たちが住む場所ですが、"目障りな他者"は不幸な存在だと威圧的な態度で断定し、"異世界の人間には去ってもらう"と神様気取りで排除していきます・・・

そうなんです。
実はこの辺りの設定も、ロシアとジョージアの歴史的対立や民族問題、さらにはアメリカを始めとする西側諸国との関係を象徴しているものなのですね。プリュク星における「チャトル人」は「パッツ人」への支配に手加減することはありません。彼らの関係はロシアとジョージアの対立構造とよく似ているのです。

ところが、「ロシア人」のマシコフおじさんと「ジョージア人」のゲデバン君は協力し合い、共に危機を乗り越えていきます。豊かなアルファ星に取り込まれることを拒否して自分たちで未来を切り開いていくことを決意した二人が行きつくラストは・・・彼らの【絆】を思い起こさせる、泣きたくなるほど愛おしいシーンでした。

人間には、まだ希望がある。献身的な心と思いやりがある。未来を諦めてはいけない。
あのラストシーンの二人を観ていると、この映画で描きたかったのはここなのではないかと思ってしまいます。・・・まぁ、確かに最後の最後までユルユルではあるんですけどね。ただ、作ろうと思って出来るユルさじゃないところが、本当にスゴイ映画です。





■↓この映画を観る時に便利な単語帳
【カツェ】     マッチ
【チャトル】    通貨。
【ツァーク】    低い身分であることを示す鼻に付ける小さな鈴。
【ペペラッツ】   宇宙船。釣鐘状をしておりプロペラのようなものを回して飛行する。
【グラビツァーパ】 ペペラッツを時空移動させるための加速器。モーター部品。
【ルツ】      ペペラッツに使われる燃料。水から作られる。
【エツィロップ】  権力者、警察官。
【エツィフ】    囚人を収容する小さな箱。
【キュー】     公言可能な罵声語。
【クー】      それ以外の全ての表現。
※「ペペラッツ(Pepelatz)」は、ジョージア語で"蝶"を意味する「პეპელა (pepela)」から。
※「エツィフ(Ecikh)」も、ジョージア語の"要塞"を意味する「ციხე (ts’ikhe)」に由来。
 (いずれも英語版wikipedia【Kin-dza-dza!】より抜粋)


■↓なぜか今風の音楽が付けられている新しいトレーラー。オリジナルのトボケタ雰囲気とほど遠いし・・・これじゃまるでカッコイイSF映画みたい(笑)



■このレビューを書くにあたって、ロシアのサイトを理解できる範囲で見たのですが「知恵袋」のような質問サイトでも「この映画のどこが面白いのですか?教えてください」という質問が本国でも出ていました(笑)。若い世代のロシア人には、やはり戸惑うような内容なのでしょうか。丁寧な解説付きの回答もある中「自分で考えろ!"キューッ"!」というマニアからの怒りの回答もあり、なかなか面白かったです。





というわけで。
最後までお付き合いいただいてありがとうございました。
それではまたお会いしましょう!

    クゥー!!

※注:釣鐘型の宇宙船に乗ってやって来るこのお二人、太めのウエフを演じたエヴゲニー・レオノフとのっぽのビー役のユーリー・ヤコヴレフは、70年代に【人民芸術家】として表彰されたロシア演劇界の重鎮なのですって。ロシア文化は、その国土の如くキャラクターの幅もとてつもなく広いものですねぇ・・・・・



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 2016/11/30