お散歩シネマ 映画の世界へ出かけよう!!映画の数だけ、もっと世界は面白くなる! 

『ザ・ホークス ~ハワード・ヒューズを売った男』 (2006/アメリカ)

   ↑  2011/04/27 (水)  カテゴリー: サスペンス、ミステリー





ザ・ホークス ハワード・ヒューズを売った男 [ リチャード・ギア ]


●原題:THE HOAX
●監督:ラッセ・ハルストレム
●出演:リチャード・ギア、アルフレッド・モリナ、マーシャ・ゲイ・ハーデン、ホープ・デイヴィス、ジュリー・デルピー、スタンリー・トゥッチ 他
●映画監督にして伝説の大富豪ハワード・ヒューズの自伝を捏造し、出版社を手玉に取った世紀の詐欺事件を巡る驚きの顛末を、事件の張本人であるクリフォード・アーヴィング(Clifford Irving)の回顧録を基に映画化。嘘がバレぬよう様々な手口で危機を切り抜けながらも、綱渡りの連続の末追いつめられていく彼の姿と、その嘘が予想を遥かに超えて大きな影響をもたらしていく様をスリリングに描き出す。





今回も【オンライン試写会】にて鑑賞です。Gyaoさん、いつもありがとう!!]

・・・でもこの映画、今週末から日本公開なのですが、なんとアメリカでは2006年制作、2007年公開だった!!今までDVDスルーにもならずよくここまで温めたものですねー。






一般人を慌ただしくビルからを追い出し、床からゴミを除去してカーペットを敷き、電話やテーブルの消毒に追われる社員たち・・・。このオープニングは、まさしく「潔癖症」で「変人」とまで言われたハワード・ヒューズの登場を期待させるシーンそのもの!

ビル上空に現れるヘリコプターを仰ぎ見るこの滑り出しは、「クリフォード・アーヴィング(リチャード・ギア)は、一体何をやらかしてくれたのだろう!?」と、この映画への期待を大いに膨らませてくれるものです。



原題の【Hoax】とは「でっちあげ、インチキ、悪ふざけ」といった意味

原作者であり、この事件の首謀者であるクリフォード・アーヴィングという人物は、超が100個くらい付くような大物の、しかもまだ生きている人間の伝記を勝手にでっち上げて出版を目論むような「THE」インチキ人間ではあるのですが・・・。

ラッセ・ハルストレム監督は、このアーヴィングの虚構に満ちた人生を炙り出す人間ドラマに併せ、1970年代アメリカの【黒歴史】を思い起こさせる政治的・社会的背景を巧みに絡めるという面白い切り口で『ザ・ホークス ~ハワード・ヒューズを売った男』を作り上げてくれました。






この【インチキ人間】アーヴィングのように、人を騙す手腕に長けている人物というのは、周りからは非常に魅力的に映るものです。人を惹き付ける会話や表情、気遣いがあったりするからです。

大概常識のある人は【常識の壁】を乗り越えられないものなので、アーヴィングのような突飛な行動も「まさかそんな事はしないだろう」という壁に守られて、真実を見抜くことが出来ません。

『ザ・ホークス』の中でも、アーヴィングがライフ・マガジン社で「プルーンの話」を披露するシークエンスがありますが、これは思わず前のめりになって、その場で彼の話に聴き入っているような錯覚を起こすほど。抜群のストーリーテラーなんですね。

ですからこの映画の前半は、彼が出版社の人間を欺く時、公文書を盗み撮りする時、ペンタゴンに侵入して書類を盗み出す時など、ノリの良い音楽に合わせてテンポよく物語が進んでいくため、こちらも思わず「うまくいきますように!」なんて、手に汗握って一緒に見入ってしまったりするのです。






しかし、次第に嘘が綻び始めて危機が何度も何度も訪れる後半からは、だんだんと彼の中の闇の部分も現れ始めてきます。

アーヴィングは、大切にしている妻へ「自分の浮気」についてウソをつくことは「嘘をつくと頭痛がする」と言って頭を抱えて悩むのですが、ハワード・ヒューズの伝記をでっち上げることについては、最初から何の罪の意識もありませんでした(頭痛を起こすどころか、逆に生き生きとしていた)。

ところが「ハワード・ヒューズという人物」と「ハワード・ヒューズに成り替わっている自分」との境界が曖昧になっていくことから、彼の中に混乱が生じてきます。ヒューズのスタイルや口真似から始まって、「自分の言葉はヒューズの言葉だ」とまで言い出すようになり、それを自身でも信じ込み自分にパワーがあるかのように振舞い出すアーヴィング・・・。


事実を繋ぎあわせて虚構を生み出す嘘に、彼の精神状態は次第に耐え切れなくなっていきます。長年の友人を繋ぎ止めるやり方も、人間の後ろ暗い部分を見せつけられるような冷たい感触がして悲しいもの。彼はどうなってしまうのでしょうか・・・!?






更にこの映画は、アーヴィングの詐欺行為に併せて、もう一つの面白い視点をプラスすることで多重的な面白さを見せてくれます。それは、アメリカ政治の舞台裏を歴史と並行させて巧みに物語に絡めている点。

私は原作を読んでいないので、クリフォード・アーヴィングという人物がどこまでを「原作」とし、そしてハルストレム監督はどこからを映画の「脚色」によるものにしたのか?興味津々でした。そこでそのあたりの情報をNewsweekから少し引用させていただきます(和訳は日本版より)。

ウィリアム・ウィーラーによる巧妙な脚本は、複数の詐欺容疑で服役したアービングが出所後に出版した大胆な回顧録に基づいている。アービングの回顧録を忠実に映画化しただけでも極上のサスペンスになっただろうが、ハルストレムとウィーラーは、信用度ゼロの詐欺男が明かした「事実」に頼るだけでは満足できなかった。彼らはヒューズとニクソン政権の関係を調べるとともに、事実にいくつかの脚色を加えて、挑発的でブラックユーモアに満ちた物語を作り上げた。スクリーンでのアービングは、自らでっち上げた虚構のストーリーよりもずっと壮大で複雑な陰謀に翻弄されていく。


そうなんです!

この映画の中でアーヴィングが書いた「偽」の伝記が当時のリチャード・ニクソン政権の「何か」を揺さぶり、「何か」を仕掛けてしまうことになる(つまりウォーターゲート事件ですね)・・・という運びや、ハワード・ヒューズからニクソンへの違法献金の金を資金洗浄した人物として「ビーブ・レボゾ」の名前を出してくるなど・・・この映画ですら虚実綯い交ぜの状態なのです!これが私にはとても面白かった。

一体何が真実なのか。そんなことをあれこれ想像しながら鑑賞するのも、この映画の楽しみ方の一つかもしれませんね。






ハヤカワ文庫 【ザ・ホークス(上)世界を騙した世紀の詐欺事件】 クリフォード・アーヴィング 著 / 三角和代 訳 (早川書房) ハヤカワ文庫 【ザ・ホークス(上)世界を騙した世紀の詐欺事件】 クリフォード・アーヴィング 著 / 三角和代 訳 (早川書房)
■ハヤカワ文庫【ザ・ホークス(上・下)世界を騙した世紀の詐欺事件】
 クリフォード・アーヴィング 著 / 三角和代 訳 (早川書房)



ちょうとこの時代のアメリカというのは、ベトナム戦争泥沼化へとまっしぐらに突き進んでいました。ベトナムにおけるアメリカの勝利(コントロール)は見えておらず、国内での反戦運動も激化。保守共和党ニクソン政権は、人種差別問題や失業、治安、公民権運動などの不安定な要素を山のように抱えており、アメリカ国内は一触即発の状態でした。ものの価値観や政治的情勢も、右に左に大きく揺れ動いて対立する時代。

そんな風の中でアーヴィングは、大胆奇抜な行動が可能だったのかもしれません。

彼の行動に合わせて劇中でかかる音楽 ――クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル(略してCCR)の「Up Around the Bend」「Down On The Corner」をはじめ、デイヴ・メイスンの「Only You Know and I Know」、ビートルズ(というかジョージ・ハリスン)の「Here Comes The Sun」(のアレンジ)―― などなど、【ザ・70年代音楽】が時代の空気とマッチして、とても心地よかったりもしました。

何といってもハルストレム監督は、ABBAの映画を作った人でもありますしね!







この映画が迎えるラストは「事実」そのものです。

諦めや寂しさと、ほんの少しの安堵感が漂う一方で、やはりタダでは起きないアーヴィングのしぶとさには、私も思わず笑ってしまいました。

よく考えてみるとこの映画の冒頭、アーヴィングが出版社にて原稿を売り込み、二人の編集者が「私は衝撃的で怖かったわ」「いや、俺は怖いどころか面白くて笑えたよ」と感想を述べているシーンがありました。このセリフこそが、この映画への、そしてクリフォード・アーヴィングという人物への私の感想そのものかもしれません。


そうそう、この映画、映画館でご覧になる方はどうか最後まで席を立ちませんように!エンドロールの最後の最後にかかる歌がスゴイのです(笑)。笑いました!!どうぞお楽しみに。

※2011年4月30日(土)より、シアターN渋谷ほか全国順次公開!!



関連記事

■この記事に関連する映画制作国、地域 : アメリカ映画 

FC2共有テーマ : 個人的な映画の感想 (ジャンル : 映画

  2011/04/27 | Comment (1) | Trackback (0) | HOME | ↑ ページ先頭へ ↑ | edit

Comment


管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

 |  2011/05/05 (木) 19:16 No.88

コメントを投稿する 記事: 『ザ・ホークス ~ハワード・ヒューズを売った男』 (2006/アメリカ)


  任意 : 後から修正や削除ができます。
  非公開コメントとして投稿する。(管理人にのみ公開)
 

Trackback