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『追想』 (1956/アメリカ)

   ↑  2011/03/09 (水)  カテゴリー: ロマンス、ドラマ

追想 [ イングリッド・バーグマン ]


●原題:ANASTASIA
●監督:アナトール・リトヴァク
●出演:ユル・ブリンナー、イングリッド・バーグマン、ヘレン・ヘイズ、エイキム・タミロフ、マーティタ・ハント、フェリックス・アイルマー 他
●ロシア皇帝ニコライ2世の元侍従武官のセルゲイ・ボーニン将軍。彼は、英国に預けられたロマノフ王朝の財産の詐取を図っていた。ある日、自殺未遂した女性を手に入れ、ロシア革命で殺されたはずの皇女・アナスタシアであると宣することにするのだったが・・・。「アナスタシア生存説」を基に壮大な愛と陰謀を描いたロマン大作。ハリウッドから遠ざかっていたイングリッド・バーグマンが7年ぶりに復帰、その端麗な容姿だけでなく、名優としての貫禄も見せつけた記念すべき作品。



ロシア革命から逃げ延びたとされる、皇帝の娘アナスタシアを巡る壮大煌びやかなミステリー・・・がベースなのだけれど、『追想』というこの映画の中心は不器用な大人の恋物語。元銀行家のボリスや皇太后に使える男爵夫人などのコミカルな役回りとは対照的に、主演のユル・ブリンナーとイングリット・バーグマンの二大俳優は終始シリアスな演技に撤しました。


次第に品格のある皇女らしく振舞うようになっていくアンナ

莫大な遺産相続を目当てにアンナを利用し「皇女アナスタシア」として仕立て上げようとするボーニンは、彼女の弱さに付け込み、威圧的な態度で容赦なく彼女を利用しようとする冷徹な男です。
が、ストイックなまでに感情をあらわにすることのない彼が、ある日、彼との言い争いの後に逆らえず折れたアンナに対して、思わずそっと手を差し伸べて握り、無言のままその甲にキスするというシーンがありました。

「アナスタシア」として人々に認めてもらうために立ち振る舞いから音楽、ダンスなどの訓練のため過ごしていた二人の距離は、いつの間にか近づいていたのでしょう。ハッとするアンナの表情を捉えて映画は次の場面へと移ってしまうのですが、これまでに見せたことのない顔とは違ったボーニンの感情がふいに現れたようで、それがさり気なく描かれている分だけドキリとするほど濃密な印象を残すものでした。


しかし、アイデンティティを失い苦悩するアンナと共に過ごしながらも、遺産を巡る計画は着々と進められていきます。ボーニンは、想定外だったその"狭間"で「アナスタシア」の元婚約者であるポール公に対して嫉妬のような感情をも抱くようになっていくのです。





こんな印象深いシーンが、もう一つありました。

夜景が見える窓辺のカーテンだけが風に揺れ、明かりの落ちた広間を中央にしてカメラは固定されています。広間を挟んだそれぞれの寝室から発せられる二人の会話以外は、窓の外から漏れ聞こえる音楽だけ・・・。ポールとの食事からお酒もまわって機嫌よく帰ってきたアンナ。子どものように無邪気に「こっちに来る?」と呼ぶ彼女に「もう寝るんだ」と向かいの部屋から告げるボーニン。「あなたも言って。告白したいことがあるの・・・」

上着を脱いだボーニンが、広間を横切って彼女の部屋へ入っていきます。すると、そこには既にベッドへと倒れ込んで眠ってしまった無防備なアンナの姿が。床に乱れ落ちた彼女の衣服を拾い上げ、灯りを1つ、1つ消し、そしてそっと扉を閉めて出ていくボーニン。





広がりのある壮大な風景を活かすシネスコープ画面が、会話だけを拾ってこのような二人の距離を見せることができるなんて、この息を呑むような"男の色気"を表すには本当にピッタリだなと感じ入りました。

情熱を剥き出しにすることのない二人の関係を、この映画は最後の最後まで表立って見せることはありません。ピンとくるような描写が抑えられているからかもしれません。そのため、相手を射抜くような鋭い眼差しをしたユル・ブリンナーと、暗い表情のままのイングリッド・バーグマンが、どのようにして互いの心を見つめるようになっていったのかも、あまりハッキリとしないのです。

しかしラスト間際になって、暫く離れ離れだった二人が「長い間あなたに会わなかったわ」「会いたかったか?」「ええ」「会うなと言われたのか」「この方がいいと私が決めたの」と、互いの心の内を探るように言葉を交わすのを見て、その思いがどれほどまでに深くなっていったのか、私には解るような気がしたのです。


一般的にこの映画の見どころは、孤独に閉じこもって人を拒絶して生きる(ヘレン・ヘイズ演じる)皇太后に、アナスタシアとして拝謁するバーグマンとの"一騎打ち"のシーンだと言われています。しかし私は、この皇太后の深く温かな計らいで二人が姿を見せることなく幕が閉じていくという、控えめなエンディングも忘れがたいものとなりました。「緑の間」から"二人"が消えたという報告を満足気に聞く皇太后。「この後どんなロマンスが二人には待っているのだろう」と想像する余韻がこんなに素敵なものだとは!

心を許した会話、ほんの一瞬見せる微笑み、他が見えなくなるほどに注がれる視線・・・大袈裟な抱擁やラブシーンなどはなくとも、強い男の中に垣間見える、こぼれ落ちるような愛情の形に暫く心奪われてしまいました。そして、二度三度と観直してみて初めて気がついたのです。冷酷非情に見えていたボーニンが、どれほどアンナのことを愛おしく見つめていたのかが。



tapelinepink.jpg

■追記(2012年7月)
『追想』のアナトール・リトヴァク監督は、この5年後、再度イングリッド・バーグマンを主演に『さよならをもう一度』を撮りました。その際ちょっとした洒落っ気で、ある俳優をエキストラ出演させています。さぁ、その俳優とは・・・・・!?
   『さよならをもう一度』 (1961/アメリカ)
『さよならをもう一度』のレビューはコチラから



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  2011/03/09 | Comment (2) | Trackback (0) | HOME | ↑ ページ先頭へ ↑ | edit

Comment


こんにちは、コメントありがとうございました♪
はなまるこさんの記事を読んで、記憶が薄らいでいた二人の繊細な感情の高まりがよみがえってきました。
うっかり皇太后の事ばかりに目が行っていたけど、やはりロマンスがメインなんですよね~。

>思わずそっと手を差し伸べて握り、無言のままその甲にキスする
>大袈裟な抱擁やラブシーンなどはなくとも、強い男の中に垣間見える、こぼれ落ちるような愛情の形

もう文章だけでもロマンティック…。控えめな表現が余計に切ない気持ちを盛り上げます。
これは再見する必要があるかも!

宵乃 |  2015/02/17 (火) 16:47 [ 編集 ] No.347


はなまるこより

宵乃さん、こんばんは!
お返事が遅くなってしまってごめんなさいi-201

「久々にチョットだけ再見してみようかなー」と思ったら、いつの間にかこの二人の世界に入り込んで結局最後まで観てしまいました(笑)。宵乃さんの記事を探しに行ってヨカッタです♪

>記憶が薄らいでいた二人の繊細な感情の高まりがよみがえってきました。
>うっかり皇太后の事ばかりに目が行っていたけど、やはりロマンスがメインなんですよね~。

そうそう、有名俳優の共演というだけにそれだけでも見応えはあるのですが、実は二人の恋愛模様というのはすごーく繊細なんですよねぇ・・・i-178
そして、宵乃さんが仰っていた皇太后のシーン!最後にほんのちょっと登場するだけなのに、やっぱりあの二人のシーンには釘付けになりますよねe-317これって本当に凄いことだと思います。

で、今回もう一つ感じたのは、この映画のDVDジャケットを改めて見かえして、思わず「王様と私?」と勘違いした私ですが、もっとポスター版のようなロマンティック路線のデザインの方が素敵なのになーなんて思いました^^;

宵乃さんへ★ |  2015/02/18 (水) 20:59 [ 編集 ] No.349

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