お散歩シネマ 映画の世界へ出かけよう!!映画の数だけ、もっと世界は面白くなる! 

『パンドラの箱』 (2008/トルコ、フランス、ドイツ、ベルギー)

   ↑  2010/12/08 (水)  カテゴリー: シリアス、社会派
PANDORA'S BOX 【wikipedia】
●原題:Pandora'nin Kutusu/PANDORA'S BOX(英)
●監督: イェシム・ウスタオウル
●出演:ツィラ・シェルトン、ダリヤ・アラボラ、オヌル・ウンサル 他
●イスタンブールで暮らす3人の姉弟。長女は息子との関係がこじれていることに悩み、次女は先の見えない恋人との関係に苦しむ。弟は芸術家を名乗り、荒れた生活をしている。都会に出てきてもう長い年月が経ち、3人は互いに親しく会うこともなくなっていた。そこへ、黒海沿岸の故郷の村で暮らしていた母が行方不明との知らせが入る。言い争いを繰り返しながらも村へ向かった3人は、山の中で見つかった母をイスタンブールに連れ帰るのだったが、年老いた母は奇抜な行動をとるようになっていた。病院で診断された病名は認知症だった・・・。「NHKアジア・フィルム・フェスティバル」第9回(2008年)上映。2008年「サン・セバスチャン映画祭」最優秀作品賞、最優秀女優賞(ツィラ・シェルトン)受賞作品。




昨年の放映に続き、今年もまた母と時間をとって一緒に観た作品です。とても静かでセリフが少なく、それがとても印象的で、この作品の最初から最後までの一切をこの1年間ほとんど忘れたことのないとも言い切れるくらい、ずっとずっと忘れられなかった映画でした。また観られて本当によかった!





登場人物たちの瞳や、じっと佇む後姿、肩を並べて座る二人、ものを食べる姿や沈黙の時間などが(恐らく言語を理解できなくても何の問題もないほど)語られる言葉をギリギリに排除した分だけ、観る側に直に染み込むように伝わってくるんですね。また、この映画で映し出される現代社会において様々な問題を抱える人々の姿というのも、どの国でもどの文化でも恐らく共感できるだろう部分なので、まったく違和感なく入り込むことができる。「映画」の特性を活かし切った、とても良質で優れた作品だと思います。


ギリシャ神話において、プロメテウスが「天上の火」を盗んで人間に与えたことを怒ったゼウスが人類に災いをもたらすためにパンドラという「女性」を作り上げ、彼女に持たせた「あらゆる災い」が詰まった箱(壺)というのがパンドラの箱と言われているものです。彼女は開けてはいけないと言われていたものの、その好奇心から箱を開けてしまい、あらゆる災いが地上に飛び出してしまったため「パンドラの箱」という言葉は「開けてはいけないもの」「災いをもたらすために触れてはいけないもの」を意味するようになりました。

しかしこれには続きがあって、諸説解釈はあるのですが、パンドラが急いでその箱の蓋をしたので希望だけが残った、ともいわれています。





地方での暮らしや生い立ちから逃れるため、都会へ出て過去を忘れようとする姉弟たち。そんな中、山で独り暮らしていた母親の認知症の問題。開いてこぼれ落ちた「パンドラの箱」のように、あらゆる問題に直面せざるを得なくなる人間の姿を、この映画はただじっと見つめていくだけです。が、その中に、確かにわずかではあるものの「希望」の兆しは確かに見え隠れしているような気がしてなりませんでした。

ふとした瞬間に正気を取り戻したような言葉で長女を戒める母親の思い。
愛されなかったと思い続けた次女の生き方。
生きることに投げやりになっていた孫が祖母に「生きて」もらいたいがために決意する究極の選択。

どれも辛い現実であり映画としてもやや暗く哀しいトーンになるのですが、しかしそこには心掻き乱されるような不穏さを感じることはありません。山へ帰ろうとするおばあちゃんの強い思い。それは、しっかりと地に足をつけて生き抜いてきたのは他の誰でもなく、おばあちゃんただ一人だということ。そして、それでも「誰も何も間違ってはいないのだ」と心を強くして見届けてあげることができる静かな思いが、胸の奥に広がるのです。また一年、もう一年、そうやってずっと心に残っていく作品なのだろうと、私は信じています。





余談なのですが。
主演のおばあちゃんを演じるツィラ・シェルトン(1918年生まれの92歳!)は、なんとフランス人の女優さんだったのです。いやー、私今回観るまでまったく知らずにいました。この映画のためにトルコ語をマスターしたとのこと。本当にビックリです。私はてっきりトルコのおばあちゃん女優さんだとばかり思っていました。
映画界は本当に広い!そして素晴らしいものです。



関連記事

■この記事に関連する映画制作国、地域 : トルコ映画 アラブ・中東映画 

FC2共有テーマ : 映画を見て、思ったこと (ジャンル : 映画

  2010/12/08 | Comment (0) | Trackback (0) | HOME | ↑ ページ先頭へ ↑ | edit

Comment

コメントを投稿する 記事: 『パンドラの箱』 (2008/トルコ、フランス、ドイツ、ベルギー)


  任意 : 後から修正や削除ができます。
  非公開コメントとして投稿する。(管理人にのみ公開)
 

Trackback