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『M』 (1931/ドイツ)

   ↑  2010/12/28 (火)  カテゴリー: サスペンス、ミステリー




フリッツ・ラング コレクション::M [ ローレ ペーター ]


●原題:M
●監督:フリッツ・ラング
●出演:ペーター・ローレ、オットー・ベルニッケ、グスタフ・グリュントゲンス、エレン・ウィドマン、インゲ・ランドグット、フリッツ・グノス 他
●1920年代、ドイツを震撼させた連続殺人鬼“デュッセルドルフの吸血鬼”ことペーター・キュルテンに材を採ったF・ラング初のトーキー作品。幼い少女が次々と惨殺される事件が発生。警察当局の懸命な捜査にも関わらず犯人の見当は全くつかず、やがて暗黒街にまで捜査の輪は広げられる。これを機に暗黒街の面々は独自で犯人探しを開始、浮浪者や娼婦まで動員し憎き少女殺しを追い求める。やがて盲目の老人の証言が有力な手掛かりとなっていくのだが・・・。



むかし、偶然にも同時期に観た『未来世紀ブラジル』(1985/英・米)とフリッツ・ラング監督の『メトロポリス』(1926/独)。あれ以来、私はずーっと「映画」というものを夢中になって追い続けて気がします。そして、いつか観たい観たいと思っていたラング作品を、今日やっと「淀川さん解説DVD」で観ることができました。やった~

今日はその中から、サスペンス映画『M』を。





帰りの遅い子ども。不気味な口笛(劇音楽『ペール・ギュント』から「山の魔王の宮殿にて」)。母親の悲痛な呼び声をバックに、無限に続くかのような階段、人影のない物干場、娘が昼食をとるはずだったテーブル、力なく地面に転がるボール、ゆらゆらと電線に引っ掛かるバルーン・・・

開始からものの10分程度で、簡潔かつ印象的に事件を捌いて見せる数々の驚くようなカメラワークやショットは、映画について学んだことも専門知識もない私のような人間から観ても、まさしく映画の教科書のよう。父親が建築家であり、またラング本人も美術学校や科学技術学校で建築と絵画を学んだというその資質が、映画の構成をより確かなものにしているのだと思います。

しかも、これら古典的映像美が、今見てもスタイリッシュだと感心させられるのと同じように、扱われているテーマも製作時の1930年という時代性なんていう言葉を軽々と飛び越えて、今日この日本でも問われている他人事ではすまない普遍的な問題ばかり。

1世紀近い年月が経つというのに、人は同じことを繰り返し、答えを求め続けているのかもしれません。


幼い少女ばかりを狙った誘拐殺人事件の犯人を捕えるため、三つ巴(警察、規制された街に苛立つ暗黒街の面々、逃げる犯人)の戦いが繰り広げられるというプロットは、きっと今のハリウッド映画が手がけたなら一大クライム・アクション映画やコメディ映画にさえなりそうなもの。それがフリッツ・ラングの手に掛かると、そんな生易しい娯楽映画には落ち着かないのですねぇ。

この映画製作時は、正にヒトラー政権が成立する直前。ユダヤ人であるラングは1934年にドイツからフランスへ亡命しているのですが、ここにこの映画が作られたことの意味が成されているようです。

犯人と間違えられた男が民衆に囲まれ袋叩きのように非難されるシーンも、街を牛耳る悪党たちが会議を開いて「我々と犯人は明確に線引きされなくては!哀れみなどいらず化け物は殺すべきた!」と演説するシーンも鬼気迫るものがあり、この後実際に台頭してくるナチスドイツの姿を思い浮かべずにはいられません。この映画には、集団ヒステリーに立ち合ったような、ヒヤリとした冷たく嫌な感触があちこちに感じられます。

単に「犯人」を追って捕まえるという犯罪映画で終わるのではなく、その焦点は「何処にでも潜んでいるであろう犯罪者」と「それを裁くという行為」について視点が移っているような気がするのです。強い力で圧され突き進んでいるような、そのような時代の空気を、この映画は確かに纏って生まれたのでしょう。




因みにこの映画の製作国(ドイツ)における代替タイトルは『Eine Stadt sucht einen Mörder(街が殺人者を追う)』、暫定タイトルは『Mörder unter uns(殺人者は我らのうちに)』。フランス語タイトルは『M le maudit(M 呪われし者)』とのこと(「映画タイトルの修辞学II」東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所 小田 淳一氏の論文より)。確かに両国、両方の視点・解釈も納得のいくものですが、ドイツで付けられたタイトルにはこの映画から聞こえる真の思いが込められているような気がしてなりません。





・・・ふと思ったのですが、この後フリッツ・ラング監督(1890~1976)は渡米後、ハリウッドの量産システムに埋もれがちになり、私の好きなエルンスト・ルビッチ監督(1892~1947)は55歳で急逝してしまいました。しかし、それに比べて同時代出身のアルフレッド・ヒッチコック監督(1899~1980)は、なんと長生きで多くの人気作品を生み出していったことか!

長生きといえば、この少し後に位置するビリー・ワイルダー監督(1906~2002)もいらっしゃいますが、そう、挙げていったら全くきりがないのですが、考えてみたら私はこの時代の監督作品が大好きなのでした。ハリウッド黄金期!まだまだ観たい古典映画もたくさんあるのですが・・・今日はこのへんで。



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