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『フロスト×ニクソン』 (2008/アメリカ)

   ↑  2012/05/03 (木)  カテゴリー: シリアス、社会派



フロスト×ニクソン [ マイケル・シーン ]


●原題:FROST/NIXON
●監督:ロン・ハワード
●出演:フランク・ランジェラ、マイケル・シーン、ケヴィン・ベーコン、レベッカ・ホール、トビー・ジョーンズ、マシュー・マクファディン、オリヴァー・プラット、サム・ロックウェル 他
●ウォーターゲート事件で辞任に追い込まれ、その後罪を認めることなく沈黙を守り通したニクソン元米国大統領。しかし辞任から3年後の77年、一人の英国人司会者デビッド・フロストが彼の単独TVインタビューを敢行する。本作は全米中が注視したこの伝説のTVインタビューをテーマに、その舞台裏で繰り広げられた両者のブレーンを巻き込んでの熾烈な駆け引きと緊迫のトーク・バトルの模様を、名匠ロン・ハワード監督がスリリングに描き出した実録ドラマ。原作は、本作の脚本も手掛けたピーター・モーガンの舞台劇。同舞台でそれぞれニクソンとフロストを演じたフランク・ランジェラとマイケル・シーンが映画版でもそのまま同じ役に起用された。





この映画の中で描かれている主人公デヴィッド・フロストは、政治にはさほど興味のない芸能バカでやや軽薄な男性として描かれています(ちょっと言い過ぎかもしれませんが)。

しかし実際のフロストという人間は、ケンブリッジ大学時代から学生新聞や文学雑誌を編集し、ケンブリッジの伝統的演劇手段「フットライツ」にも在籍するほど才能ある人物であり、若い頃はコメディアンとして、そして後にイギリスで流行する風刺的な疑似ニュース番組「That Was the Week That Was」の人気司会者として有名になりました。セレブゲストを招くトークショーでは、作家やミュージシャンといった幅広い分野の数多くの著名人から話を引き出し、1964年以降の英国の全首相(最後はブレア元首相)の単独インタビューなどを行うなど実力もある人物だったと思われます(参考:Sir David Frost - a profileDavid Frost)

ですが、映画『フロスト×ニクソン』では、そういったフロストの人間性、その重みがほとんど描かれていないように思います。なぜなのでしょう。

実は、この映画のもとである舞台劇を作り上げたピーター・モーガンは「知的なロッキー」を作るつもりだったと語っています(映画「フロストxニクソン」②フロストの経歴と評価)。百戦錬磨の政治家ニクソンを相手に誰もが聞きたかった彼の「本音」を引き出すこと、そこに辿り着くまでの心理戦こそがこの物語の最大の見せ場ですから、無理を承知でそこへ突撃していく相手が最初から"大物"ではカタルシスも生まれません。

そこで恐らくロン・ハワード監督は、単純化された軽量級のフロストを作り上げることで、この映画に昂揚感を与えようとしたのでしょう。"映画"としての、これは一つの戦略です。






しかしながら、どうもこの映画のフロストには"小物感"ばかりが漂うのが気になりました。

これが物語を進めるうえでの"戦略"であるならば、終盤にかけて「一気に形勢逆転!!」という盛り上がりが絶対的に必要なのですが、その肝心のエンジンがかかるのがあまりに遅すぎるように思うのです。フロストが自分の計画に自信満々で強引にインタビューを取り付けてくるので、これにはきっと物凄いアイディアがあるのか!?と期待していたら「何であの時、俺を無理にでも止めてくれなかったんだ!」と泣きごとを言う始末(笑)。どこかの国のかつての総理大臣ではありませんが「腹案」があるのかと思いましたよ。

フロストの手腕も奇跡のように冴え渡ったとも言えず、またニクソンの人間性を深く掘り下げたわけでもなく、またメディアが見せる一種のショー的存在感と政治との関係に鋭く切り込んだわけでもなく・・・。

どんなテーマでも意外に無難にこなしていくロン・ハワード監督×世紀のインタビュー対決物ということでかなり期待して観たのですが、個人的にはちょっと肩透かしを食らってしまいました。国家に忠誠を誓う軍人役には絶対必要なケヴィン・ベーコン。いつもイライラとした表情で真実を掴もうと奔走するジャンーナリストのサム・ロックウェル。セコンド役にあたる彼らの支えが素晴らしいだけに、この辺りももっと観たかったです。






インタビューの最大の山場である「隠蔽工作」に関わっていたことを認めた後「国民への気持ちは?」と聞かれ、急に人間としての戸惑いの表情を見せたニクソン。

「失望させた。裏切ってしまった・・・友人たちを、この国を。何より私はこの国の政治制度を裏切ってしまった。政治家を目指す多くの若者たちの夢を握りつぶしてしまったのだ。彼らは今、政界は終わりだ、腐りきっていると思っている。・・・私は国民を失望させた。この重荷は今後も背負い続けなければらない」


これは、実際に当時テレビ放映されたインタビュー映像――彼が"謝罪"した1シーンです。

思いがけずニクソンの本音を引き出したことから、その場で起きていることに対して声も出ず茫然とした表情のフロスト。政治家としての、そして一人の人間としての憂い、嘆き、諦め、悲しみが綯交ぜとなり、押し潰されそうな感情が滲み出ているニクソン元大統領。彼らの表情からは様々な感情が滲み出ています。

やはり役者よりも実際の政治家の顔の方がずっとずっと表情があり深みがあって、思わず惹き付けられるものがあるのだなぁと思いました。実在の人間、本物の"カオ"は、すべてを物語っているわけですから





【DVD】グッドナイト&グッドラック 【Blu-ray】ア・フュー・グッドメン
この映画を観ていてちょっと思い出したのは、実在のジャーナリストを描いたという点ではジョージ・クルーニーがメガホンを取った『グッドナイト&グッドラック』(2005/アメリカ)を、そしてトム・クルーズvs.ジャック・ニコルソンの法廷対決で手に汗握った『ア・フュー・グッドメン』(1992年/アメリカ)の二作品でした。

後者の場合、権力者側から本音を引き出す点や、国家・防衛・正義・民主主義と法・理想の政治といったテーマが見え隠れする点において共通する部分があります。国家を護り、そのシステムを維持していくこと。権力と正義。綺麗事ではすまされない世界の一面ですね。


ちなみにウォルター・ラフィーバー( Walter LaFeber)の著書「THE AMERICAN AGE(アメリカの時代―戦後史のなかのアメリカ政治と外交)には、以下のような一節があります。

当時すでにアメリカ国民は権力に対して猜疑心を抱くようになっていた。このことは1969年から73年にかけて『Z』『大統領の陰謀(ALL THE PRESIDENT'S MEN)』『コンドル(THREE DAYS OF THE CONDOR)』などの映画が国民の間で人気を博したことを見れば明らかである。これらの映画は、社会の最高権力を掌握した人間が、ウォーターゲート事件のような秘密の陰謀に関与して民主主義体制を崩壊に導くというストーリーであった。

ニクソンがインタビューで答えていたまさにその言葉通りです。
映画とは、人々が求める時代を映す鏡のようなものなのかもしれません。




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