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『イラク-狼の谷-』 (2006/トルコ)

   ↑  2010/04/03 (土)  カテゴリー: シリアス、社会派




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●原題:Kurtlar vadisi - Irak / Valley of the Wolves: Iraq
●監督:セルダル・アカル
●ネジャーティ・シャシュマズ、ビリー・ゼイン、ゲイリー・ビジー、ハッサン・マスード他
●アメリカによるイラク戦争で高まったイスラム圏での反米感情を背景に、本国トルコで人気のドラマを映画化して大ヒットを記録した。イラク北部のクルド人自治地区を舞台に、イラク駐留アメリカ軍の傍若無人に怒りの鉄槌を下す一人の元トルコ諜報員の活躍を描く。



先月書いた『バンテージ・ポイント』(2008/アメリカ)と対にしてupです。




この映画のテーマは「アメリカ、敗北」
予告編の作りが非常にうまいです。普段見慣れているハリウッド映画の「敵味方ポジション」を逆に置き換えてみれば、すごくわかりやすい。

全体的な作りはハリウッド作品のような“洗練さ”には遠く及ばぬものの、独特のコテコテ風味と「アメリカ、トルコ、クルド」の三つ巴ベースが頭にあれば、日本人でもポリティカルアクションとして楽しめるかもしれません。私のトルコ人の知り合いは、興奮気味に「コレが悪いヤツ!こっちが味方!!」と唾を飛ばして説明してくれます(笑)・・・が、上映当時のアメリカでは、そんな余裕はなかったようです。



まず、トルコ人が大興奮しアメリカ人が唖然としたもの・・・それは、極悪人として出てくる「アメリカ人」「ユダヤ人」の配役でしょう。ビリー・ゼインとゲイリー・ビジーが、もう言い訳のできないほど完璧なステレオタイプの超極悪アメリカ人として描かれています。なぜ出たんだ!?というくらい。

ハリウッドの比較的リベラルな俳優たちでさえ、イラクの民間人を虐殺する野蛮人として米国軍を描くトルコのフィルムに、アメリカ人俳優が参加したことにさすがにショックを受けたようです。自由の国アメリカですら、上映禁止&軍関係者は上映している映画館に近づくことも許されなかったというわけですから、その衝撃度は想像の遥か上をいくもの。



「トルコ人がヒーロー」という知識くらいは事前に持っていたのですが、観終わってみると、流石にここまでの描かれ方でよくビリー・ゼイン(私は『ツイン・ピークス』の彼が好きだった・・・)はオファーを受けたもんだなーと思い、彼のインタビューを色々探してみたんです。そのなかの1つ【ニューヨークタイムズ】のレポートによれば
「この映画の【反米】のトーンは苦ではなかった。戦争の惨禍は、世の中に知られるべきだ」「私は平和主義者なので、この映画によって行動を起こした」「私はあらゆる類の戦争に反対しています」と、テレビでのインタビューで彼が答えていた
とのこと。当時のブッシュ政権の対中東政策に猛反発の意を示したということなのでしょう。(NYタイムズ紙といえば、当時イラクの大量破壊兵器問題で誤った記事を載せたことを後になって訂正したり、政府との情報操作問題など後々色々あったところでしたねぇ・・・)




「ビリー・ゼインとゲイリー・ビジー キャリアを大虐殺」(!!)とまでアメリカ国内で非難された一方、『ランボー』シリーズなどの所謂「米国アクション映画」などとこの作品を比較して、「自国が正義!なんていう映画はよくあるじゃないのよ」と擁護する人も勿論いたようです。・・・がしかし、この映画にはもう少し根深い問題があったんですね。

というのも、「トルコはアメリカの同盟国じゃないか!アメリカが昔作った「対ソ連」ものの映画の時とはワケが違うんだぞ!」という点。ここはもう、筋金入りで保守共和党ブッシュ寄りの【ワシントンタイムズ】がきっちり言い放っているんです。
反米主義の波に乗ったこの新しいフィルムは、トルコで記録的な聴衆を引き付けていてエルドアン首相の妻からも承認されている。この映画の中で、ガムをクチャクチャ噛んだ米国軍人は結婚式でイラク人を冷酷に撃ち殺し、他のシーンではアブグレイブ刑務所での事件を連想させる。さらに、ユダヤ人医師はイラク人の囚人の臓器をイスラエルや西欧諸国に売り捌くのである

確かに作品公開当時、トルコの首相夫人は「私はこの映画をとても誇りに思います」と発表しているんですよねぇ。おまけに外務大臣やトルコの議会の議長までもが、この映画のリアリズムを称賛したそうなんです。それはもう、アメリカからしてみれば「いくらなんでもアメリカ大統領夫人や議長までもが、乱暴で人種差別主義の映画を褒めちぎったことなんか一度もないぞ!」といったところなんでしょう。盟国から言われてしまいましたしね。





アラブ・イスラーム世界では異質な存在であり、尚且つ親米寄り立場のトルコが、自国を守るヒーロー映画を作って大ヒットしたのは、素直に国民感情を見事に掬い上げたからです。これまでアメリカが、映画という娯楽の中で見ていた「正義」と「悪」の立ち位置を単純に(といってもその関係は複雑ではありますが)引っ繰り返されただけで、今まで自分たちが平気でやっていたのと同じことされて、上映拒否までしてしまうという大国アメリカの悲しさよ。

誰でも自分のアイデンティティーやコミュニティーを否定される扱いは辛いものです。ちょうど今、日本では『ザ・コーヴ』の問題もありますね。が、それに対してただやたらに感情的に猛反発して拒否するのではなく、他者からの視線が一体どこから発信されているのかを確認してみるのも悪くないのではないのかなぁ、と思うのです。実際それが自分に向けられると意外と難しいものなのですが、でもそれができない限り、突き上げた拳の向かう先を間違えたまま私たちは生きていくことになるのではないかと感じるのです。ここにきてちょうどよい、時代を映し出すリトマス試験紙のような映画だと思います。





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