お散歩シネマ 映画の世界へ出かけよう!!映画の数だけ、もっと世界は面白くなる! 

『野いちご』 (1957/スウェーデン)

   ↑  2010/03/23 (火)  カテゴリー: ロマンス、ドラマ



野いちご [DVD]


●原題:SMULTRONSTÄLLET / WILD STRAWBERRIES
●監督:イングマール・ベルイマン
●出演:ヴィクトル・シェストレム、ビビ・アンデショーン、イングリッド・チューリン、グンナール・ビョルンストランド 他
●妻を亡くし、家政婦とともにストックホルムで孤独に生きる79歳の老教授が、名誉博士の称号を授与されることになった。式典の日の明け方、彼は恐ろしく不気味な夢を見たせいで飛行機で向かう予定をキャンセルし、息子の妻と一緒に車で式典に向かうことにする。途中、男女三人の若者たちや喧嘩の絶えない夫婦を乗せて道を進めて行くのだが・・・。



「他人と交わす会話の内容といえば、たいてい知人の噂話や悪口ばかりだ。私はそれが嫌で友を持たなかった。人との付き合いを絶った。年を取った今ではいささか孤独な日々だ。」

映画冒頭の78歳の老教授イーサクの独白。
このプロローグから映画がビシっとスタートし、かの有名な悪夢のシーン、そして車でのロードムービーが、それはもう流れるように進んでいくわけです。はぁ・・・、本当にこれは“見るべき映画”でした。実はベルイマン監督作品は「いつかは見なくては!」とずっとずっと気にしていたのですが、あまりに巨匠、あまりに重厚ということで腰が重く、長きに渡って食わず嫌いをしていました。よかったよかった間に合って。人生は短いものよ。

主演のヴィクトル・シェストレムは、【スウェーデン映画の父】と呼ばれた偉大な監督・俳優だった人です。サイレント映画の黄金期を築いた人物だけあって、オープニングすぐにある悪夢のシーンでは、台詞が一言もないにも関わらず正に無声映画を思い起こさせるその表情、表現力に圧倒されます。



さらに、イーサクを取り巻く人々の描写も興味深いものばかり。
本音を述べることを決して恐れず凛とした美しさと強さを持つ一方、その心の奥底に悲しみを秘めた義娘マリアン。まるで恐れのない若さをいっぱいに輝かせるサーラと彼女に恋する若者2人。互いの感情を押し付け合う喧嘩ばかりの夫婦。夢の中、過去に結ばれることのなかった美しい思い出のサーラ。心から打ち明ける言葉もかけない関係のまま亡くなった妻。そして両親の行き違いから家庭に対して心を閉ざすイーサクの息子。




物語が進むに連れて、気難しくもありながら表面的には知的で優しいポースを装い続けてきたイーサクが、実は自分自身が傷つくことをひどく恐れてこれらの人々を遠ざけて生きてきたことが次第にわかってくるんですね。それは彼自身が作り上げてきた孤独という牢であり、周囲の人々や或いは過去の人間たちや思い出と思いがけず旅の中で向き合うことによって解放されるものだということも。

話としてはとてもわかり易いのだけれど、この映画は、それを言葉多くして語らずに会話や映像で胸の奥底に響かせる"何か"がある気がするんです。映画に"何か"があるのか、はたまた今の私に共鳴するものがあるのか。いずれにせよ、ラストの風景とイーサクの表情を見届けることができて、私もこの上ない幸福感に包まれました。そう、人は自分自身と深く関わっていればこそ決して孤独ではないのです。

しかしベルイマン監督、この時まだ39歳とは!とても興味深く思いました。自伝が出ているようなので、これはいつか是非読んでみたいな。




■ベルイマン作品の関連記事
 『ある結婚の風景』 (1974/スウェーデン)
 『サラバンド』 (2003/スウェーデン)


関連記事

■この記事に関連する映画制作国、地域 : スウェーデン映画 北欧映画 

FC2共有テーマ : 心に残る映画 (ジャンル : 映画

  2010/03/23 | Comment (2) | Trackback (0) | HOME | ↑ ページ先頭へ ↑ | edit

Comment


どっちでも同じ

このお爺さん、若い頃、恋人に逃げられて、その辛い想いをずっと忘れられずにいる.相手の女の子は別の男と幸せになったみたいだけど.
更には、妻も浮気をしたけど、知らない素振りで耐えていたらしい.彼は辛いことに耐えるのが当然と考えて生きてきたのでしょうか.

で、その辛い想いを息子にも、息子夫婦にも押し付けてしまっていた.息子は親から借りた学費の返済で生活は精一杯.子供を作ることもままならない生活をしていて、夫婦仲も上手く行っていなかった.

針のない時計は時を刻まない.つまり死んでいるのと同じ.
昔の想い出に囚われ続けて、辛い想いを我慢するだけの生き方は、死んでいるのと同じこと.
今を、もっと楽しく生きることが大切.

神を信じる神学生と、神を信じない医者の卵の学生の二人は、口論からつかみ合いの喧嘩になった.暴力をふるった二人とも悪いやつ.
つまり、神様を信じていても信じなくても同じこと.

あのお手伝いさん、妻とどう違うのか?.妻同様の暮らしをしてきたお手伝いさんと、彼は一緒になることにした.

で、息子が親に借金を返しても返さなくても同じことが解ると思うけど.....

rumichan |  2016/04/22 (金) 11:25 No.425


はなまるこより

rumichan様、こちらにもコメント残していただきありがとうございました。

家族というのは最も近い存在だけに、似ているとぶつかり合い、異なると理解しあえないという思いが余計に増すという、やっかいな存在でもありますね。

>針のない時計は時を刻まない.つまり死んでいるのと同じ.
>昔の想い出に囚われ続けて、辛い想いを我慢するだけの生き方は、死んでいるのと同じこと.

時を刻まずにただ生きている・・・生ける屍のようですね。映像という技術的なことでもそうでしたが、悪夢そのもののようなインパクトの強い怖いシーンでした。

主人公の名前を「イサク」としたのは、彼が氷(スウェーデン語で"イス")のように冷たい心を持っていることにも由来する、とベルイマンが過去に語っていましたが、このイサク老人はベルイマンの牧師の父をモデルにしているそうなんですね。

ベルイマンは父への憎しみやキリスト教への懐疑心などをずっと引きずっており、彼の作品は宗教思想が濃いものが多いため慣れない私には難解に思えて敬遠しがちでしたが、『野いちご』はそんな私でもスッと心に入ってきた物語でした。それはきっと、この映画の最後で主人公イサクが過去と折り合いをつけ、幸福な時を思い、心穏やかな表情でエンディングを迎えるからだと思います。ベルイマンの愛情を見ることが出来るからだと思います。

rumichan様★ |  2016/05/02 (月) 09:18 [ 編集 ] No.428

コメントを投稿する 記事: 『野いちご』 (1957/スウェーデン)


  任意 : 後から修正や削除ができます。
  非公開コメントとして投稿する。(管理人にのみ公開)
 

Trackback