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『幸せパズル』 (2010/アルゼンチン、フランス) ※ネタバレにご注意を ラストに触れています

   ↑  2013/06/18 (火)  カテゴリー: ロマンス、ドラマ




幸せパズル [ マリア・オネット ]


●原題:ROMPECABEZAS 英題:THE PUZZLE
●監督、脚本:ナタリア・スミルノフ
●出演:マリア・オネット、ガブリエル・ゴイティ、アルトゥーロ・ゴッツ、エニー・トライレス、フェリペ・ビリャヌエバ、フリアン・ドレヘル、ノラ・ジンスキー、マルセラ・ゲルティ、メルセデス・フライレ 他
●ブエノスアイレスで暮らす専業主婦のマリアは、夫と息子の幸せだけを生きがいにする平凡な女性だった。しかし、50歳の誕生日にジグソーパズルをプレゼントされたことで、彼女の人生は一変する。彼女にはそれまで気づかなかったパズルの才能があったのだ。ある日“パズル大会のパートナー募集”という張り紙を見た彼女は、家族に内緒で大富豪の独身紳士ロベルトのもとを訪ね、一緒にパズルの世界選手権を目指すこととなるが・・・。



スペイン語の原題「ROMPECABEZAS」は「ジグソーパズル」という意味ですが、語源から辿るとこのジグソーパズルとは【romper:壊す】+【cabezas:頭(cabezaの複数形)】で【頭破壊ゲーム】という直訳がコワイ単語でもあり(笑)、アタマをぶっ壊すほどの謎、だとか困難な問題といったイメージを持つ言葉でもあります。で、そこから転じて「人を熱狂させるような人物または物を指す言葉」という意味でも使われます。英語の場合の「PUZZLE」における"当惑"だとか"悩ます"というよりも、もっと強い感じ。

時々、映画制作本国のポスターデザインや原題を見ると、そこから伝わるものが日本のそれとだいぶ違うことがあります。この映画もこれに該当するのかも。誰も「幸せパズル♪」だなんて言ってない(笑)。この邦題って日本人が好みそうだなー。本当はビターなのに『マルタのやさしい刺繍』とか『しあわせの雨傘』だとか。



だから、この映画に関しても「家庭にしか居場所がなかった主婦が自分の好きなことを見つけて新しい世界に踏み出していく!」といった高揚感を全面に出した物語でもないし、彼女が纏う雰囲気も、いわゆる主婦の"悲壮感"とはだいぶ違う気がしました。

確かに、家族にも言いたい事を飲み込んでしまうほど控えめな主婦の立ち振舞いや行動には思わず「がんばれ!」と言いたくなってしまうけれど、でも実は、彼女は最後まで家族にも嘘を突き通したし、夫とのベッドでも時に積極的な表情を見せ、パズルのパートナーであるロベルトと寝ることも受け入れるという、ある意味一種の図太さやガッツ、官能への情熱や正直さも持ち合わせていたわけで。日本のポスターやジャケットデザインが「二人で幸せ♪」のように映しているけれど、オリジナルでは彼女一人で堂々と映っている意味も分かる気がします。

そう、だから私は決してマリアを不幸だとは思いませんでした。家事に明け暮れ、家族にこき使われているように描いてはいるけれど、彼女は"主婦"として家族に手の込んだ料理を出し、家事をこなし、夫と息子たちの世話をして家を守るということに不満を抱いてはいません。むしろプライドを持って"当然"のように思っている。だから、彼女の品のある姿勢や眼差しからは"不幸"なんて滲み出てはいませんでした。ただ、人生の中で何かが物足りず、理解されず、そして労われずに疲れていたのでしょう。マリアがパズルに向かう時だけに流れるオリエンタル調の音楽は、彼女だけに流れる時間。まるでマリアの人生のように、足りないピースを埋めていく繊細な指先の動きと一緒でとても印象的でした。





家族やお客様は皆ワイワイ勝手に楽しんでいて、自分はまるで給仕のようにテーブルとキッチンを行き来しては後片付けをするという・・・、これをほとんど当たり前的にやり過ごしている主婦の姿だけでも目を離せなくなるのですが、さらにこれから起こる「パズルの才能」をさり気なく重ねるというシークエンスの出来の良さ・・・さらにしかもそのパーティーの主役は奥さん、あなたじゃないですか(笑)!という、物凄く好きな滑り出し。巧いですよねぇ。

パンやチキン、チョコレートケーキといった料理のシーンからスタートするこの映画。食事のシーンが多い(食器を並べる、お皿に取り分ける、果物を切る、お茶を淹れるetc)映画というのは、たとえそこが行ったこともない見知らぬ外国のお話でも、食べ物を介することによって生活感が身近に感じられ、不思議と物語も近くに感じられてくるので大好きです。さらにその主人公が主婦であれば、自分にとってはなおさらだったかも。




そして、カタルシスとは程遠い、あくまでも現実的なラスト。
だけれど、このエンドロールの映像にはちょっと驚かされてしまいました。

それまでは、映画酔いしそうなほど揺れに揺れたカメラワーク&赤味がかったソフトな映像を重ね、マリアの外出のたびに流れるような外の風景や空のショットをわざわざ挟み込んではいたものの、『幸せパズル』という映画の中では空の色はすべて雲がかかって霞んだり、逆光で滲んだり、カーテン越しだったりしてよく見えなかったのです。そう、当たり前のようにある【青空】というものが、まるで、一度も出てこなかった!それがエンドロールでは一転、まるでマリアのこれまでの閉塞感が一気に解き放たれたような、眩しい世界が固定カメラでドンと据え置かれているんです。まるで薄曇りが吹っ切れた彼女の新世界を見た気がして、この空と雲と緑の美しさが急に目に沁みました。

夢中になれる大好きなこと、束の間の解放感、面倒だけれど愛しい家族、それに"思い出"。チャンピオンとなった今では自宅の片隅にパズル部屋まで作ったマリア。きっとこれからは大好きな絵をじっくり見ながらゆっくりとパズルの世界と向き合っていくんだろうなぁ。爽快感などとはちょっと違うけれど、遠い国のパズルマニアなる世界観&南米主婦の小さな大冒険を見せてくれたこの映画は、ちょっと新鮮でした。イマジカBSに感謝!





■追記:
ネフェルティティの胸像【wikipedia】マリアが魅了されていたパズルの絵柄は「ネフェルティティ」。ネフェルティティについては、その詳細はほとんど分かっておらず謎も多いのだけれど、「美しい人の訪れ」を意味するその名前のとおり、女性美の象徴としてもっとも有名な古代の女性のひとりと言われています。それを思うと、マリアがこの絵柄をまるで吸い込まれるようにじっと見つめているシーンはとても印象的です。



■追記:
アルゼンチンにおける「マチスモ(男性優位主義の思想に基づく行動および思考)」は、歴史的に旧植民地本国スペインによる女性観が根強く残っているとのこと。
その一つは女性に対する男性の肉体的優位と、男性に対する女性の恭順を是とする男尊女卑の思想マチスモ、そしてもう一つはカトリックの聖母マリアを理想像とし、その母性ゆえに女性が男性に対して精神的優位性をもつとする思想マリアニスモである。
この二つの女性観が継承される中、女性は男性より劣った存在で、男性に服従、奉仕するものとして処遇される社会構造がつくり出され、それと同時に、家庭においては、自己犠牲もいとわず家庭を守り慈しむ無私の母性愛を高く評価する価値観が定着していったのである。
『ラテンアメリカ 新しい社会と女性』国本伊代・編(新評論、2000年)

↑こうやって社会的な背景が少しわかるだけで、新しい角度からの発見があっていつも面白いなぁと思います。あ、まったく自分用メモなんですけれど(笑)。






■さらに追記:
マリアたちが郊外に持っている土地の名前、日本語字幕では「チャコモス」となっていて耳でもそう聞こえたのだけれど、ブエノスアイレス郊外にある地名および湖の名前では「Chascomús」しか見当たらなかった・・・。ここなんだろうか。

この辺りは、大都市から離れると湖がたくさんあって自然が豊かなんだなぁと思いながら観ていました。同じアルゼンチン映画でも、土地が異なるとまったく風景も違ってくるし、国内の経済格差の違いなどから垣間見える物語も違ったりしていてちょっと面白いです。

  『ボンボン』 (2004/アルゼンチン)
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  2013/06/18 | Comment (2) | Trackback (0) | HOME | ↑ ページ先頭へ ↑ | edit

Comment


わたしも観ました!
冒頭が素晴らしかったですよね~。本当にさりげなくパズルの要素も入れて、その上、自分の誕生日かよ!という驚き。
静かなのにインパクトありました。

でもやっぱり
>図太さやガッツ、官能への情熱や正直さも持ち合わせていた
の部分がちょっと共感できなかったです。結局…してしまうし。酒を煽ったのは、やっぱり関係を持つつもりでいたという事ですよね?
そして、はなまるこさんも指摘してらっしゃる、晴れやかなエンドロール…恐ろしい女性です!

原題の解説に唸らされました。(良質な)タイトルって作品の一番のテーマが隠されている部分ですよね~。作品への理解が深まりました。
にしても、邦題が酷いです(笑)

宵乃 |  2013/06/18 (火) 10:59 [ 編集 ] No.127


はなまるこより

宵乃さん、こんにちは♪
おぉ、またまた宵乃さんと同じ映画を観られて嬉しいです~^^
コメントありがとうございまいしたi-179

そうそう、この映画は「共感できるか!?」となると、そうは思えないんですよねー!
なんというか・・・・宵乃さんもズバリ仰ってますが、やっぱりロベルトと寝てしまいますしね。
私もアルコールをがぁ~っと煽った時には(というか帰らないわーと電話した時点で)
道を外してしまう気でいたんだろうなぁ、と思いましたi-201
あぁなんだ、結局そうなっちゃうのか~i-195と。

ただそういった点で、南米映画ってスゴイなぁと思ったのがですね・・・
超ゴージャス美女とかではない、まったく普通の50歳の主婦のお話なのに
夫婦のベッドシーンだとか、寝る・寝ないの男女関係が出てくるということに
カルチャーショックを受けました。ラテンのオンナってすごい生き物だなと(笑)。

>にしても、邦題が酷いです(笑)
ほんとです~!!これ、本当に映画を観てから付けたんでしょうかねぇi-6
どちらかと言うと「一家大混乱パズル」という感じでしたネ(笑)

宵乃さんへ★ |  2013/06/18 (火) 20:27 [ 編集 ] No.128

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