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『鑑定士と顔のない依頼人』 (2013/イタリア) ※ネタバレにご注意を ラストに触れています

   ↑  2015/03/12 (木)  カテゴリー: サスペンス、ミステリー





鑑定士と顔のない依頼人【Blu-ray】


●原題:LA MIGLIORE OFFERTA / 英題:THE BEST OFFER
●監督:ジュゼッペ・トルナトーレ
●出演:ジェフリー・ラッシュ、シルヴィア・フークス、ジム・スタージェス、ドナルド・サザーランド、フィリップ・ジャクソン、ダーモット・クロウリー 他
●一流の美術鑑定士にして、カリスマ的オークショニアのヴァージル・オールドマン。ある日、資産家の両親が遺した美術品を査定してほしいという依頼を受ける。ところが依頼人は決して姿を現さず、不信感を抱くヴァージルだったが、屋敷の中で歴史的価値を持つ美術品の一部を見つけ、この依頼を引き受けずにはいられなくなる。そして屋敷に通ううち、次第に姿の見えない依頼人に少しずつ興味を抱き始めるのだったが・・・。




「デジタルには利点しかなかった!何年も熟考してきたが、ためらうことはなかった」と笑いを挟みつつも「毎日何フィートのフィルムを使ったかが進行状況の指標だったし、セットでフィルムが回る姿がないのは寂しい。でも、一つの時代が終わったんだな、と思う。
(2013年12月13日 朝日新聞「鑑定士と顔のない依頼人」トルナトーレ監督インタビューより)

これまで繰り返し映画フィルムへの愛情を表現してきたトルナトーレ監督が、遂にデジタル撮影へ移行したという点でも公開当時から注目の作品でした。結果として、数多くの美術品が出てくる本作品ではシャープでありながら豊かな色調が鮮烈な印象を残し、硬質で緊張感のあるシメントリーの構図が映される度に「彼ほどデジタルフィルムに適した監督さんはいないだろう!」というくらい、その映像美を堪能できる作品へ見事に仕上がったと思います。


「これは、私にとっての「今年の一作」とも言うべき作品だったかもしれない」
  (朝日新聞≪沢木耕太郎 銀の街から≫(2013.12.27)
「結末を知ると、物語の構図は一転する」
「トルナトーレが仕掛ける極上のミステリー」
 (日本公開当時のキャッチコピーより)


ここまで言われてしまいますとねぇ、「絶対に観るぞー!!・・・・でも観るまで絶対に関連記事には目を通さないぞー!」なんて公開当時に決意した私は、あちこちに溢れた監督インタビュー記事やレビューを見事に回避し、ラストのネタバレというものに触れることなく今日という鑑賞の日までヌクヌクと温め続けて参りました。「話題になっているし、ラストはドンデン返しがあるそうだし、なんだかスゴイことなってるんでしょ!?」と心躍らせて鑑賞させていただいたんです。


そうしたら・・・・まぁ!
「名探偵ポワロ」のジャップ警部(フィリップ・ジャクソン)がサラ~っと出てきたり、もともとエキセントリックで偏屈なキャラクターがお似合いのジェフリー・ラッシュが恋に身を焦がしてヒートアップしていくお姿など、色々な意味でビックリさせられた映画でした。

て、自分の中で何とか消化してみたところ、結局は

「映像も音楽も逸品で堪能できますし、物語には一定の理解も納得も出来ましたが、好きか!?と言われたら"おじさまに御同情申し上げます"」

・・・というお話だったな、と落ち着いた次第です。この物語に心震えたオジサマ方、本当に申し訳ございません。あ、でもでも、トルナトーレ監督と言えばエンニオ・モリコーネ節ということで、彼独特の深く美しい旋律も相まって見応えのある映画なんですよ、と庇ってみたり。



※それでは以下は、『鑑定士と顔のない依頼人』のネタバレ・内容に深く関わります。
未見の方やこれからこの映画を観よう!と思われる方はお控えいただくことを強くオススメいたします。


    ↓ ネタバレ注意 ↓





    ↓ ネタバレ注意 ↓



“There’s always something authentic concealed in every forgery.”


 「どんな贋作の中にも真実はある」
そう言いつつ、偽の愛を見抜けなかったヴァージル。それでも、"クレア"はきっと本物の愛の痕跡も残したのだと、エンドロールを眺めながら私はこのセリフを思い返しました。


"クレア"が行方不明になった時、カフェへ行方を聞きにいったヴァージルに"本物のクレア"は「231」と答えていたのに。自分だけの世界に籠り、他人のことなど顧みることもなかったヴァージル。もっと人の話に耳を傾けていれば、彼の人生は違ったものになっていたかもしれません。

その代り、ヴァージルから大切な物を根こそぎ奪いつくし、自分が芸術家になれなかった恨み辛みを突き付けて去って行った相棒ビリーの復讐劇は、皮肉にもヴァージルにたった一つだけの"本物の愛"を残していく結果となりました。彼なりに心を許し信じてきた人々に裏切られ、奪われ、積み上げてきた人生さえも根底から覆されるというあまりにも大きな代償を払うことになるわけですが・・・・







初見時、観終えた後の、あの何とも言えない喪失感。遣り切れなさ。
不安感を煽るモリコーネの恐怖すら感じる繊細なスコアの中を、宇宙飛行士の訓練マシンみたいなものでグルグルと回るヴァージルは、彼の全てが崩壊し、まるで悪夢の中にいるかのようにも見えました。あぁ、もしかしたら彼は、頭の中で狂気の内に走っていったのかもしれない・・・とも。

それが一度観終えて、再度この物語を辿ってきた時には全く違った印象を受けるのです。この映画の宣伝は本物でした。そして、きっとこの映画を観た人の数と同じぶんだけの"解釈"がそこに生まれるかもしれません。


※因みに、あのぐるぐると回っていた【Spacecurl】というマシン、実は体幹筋機能の協調性を向上させ、姿勢不安定性、神経疾患や関節疾患などに効果があるという世界でも大変高価な科学的トレーニングマシンなのだそう。ヴァージルのリハビリへの熱意・・・・人生をこの手に取り戻そうという情熱は生半可なものではなかったのです。






真実が明かされるシーンでは絶望と哀しみ、復讐心すらも入り混じる嘆きのようなスコアが胸に突き刺さり、その不安定なメロディラインは観る者の心まで固く凍らせるようでした。が、彼が"愛"を思い返し、プラハのカフェ「Night&Day」に辿り着いてからは一転、深い慈しみの音楽へと包まれていきます。


このラストシーンを目にしたとき、私は『鑑定士と顔のない依頼人』という映画では劇中、料理店や食事でのテーブルシーンが幾度も繰り返されていたことに気がづきました。

手袋をはめたまま独り高級料理をもくもくと口に運ぶことに何の疑問も持たず、そして誰にも寄りつかれなかったヴァージル。彼は今や、自分以外の誰かと共にテーブルを囲み、会話を楽しみ、互いの時を重ねていくという"本物の人生"を知ってしまったのです。カフェでは皆、互いのパートナーと向き合い、語らい、それぞれの時を刻む時計たちの下で人生を慈しんでいるのです。

そんな中たった一人、テーブルにつくヴァージル。

"クレア"は現れないのかもしれず、彼はこの先やはりずっと一人なのかもしれません。しかし、真の愛と人間性 ―喜びや哀しみ、安らぎ、孤独など― を手に入れ、感じることができるようになった幸福な人でもあるのです。いつかまた、歯車がかみ合う時への希望を持って、この映画を観終えてもいいのかもしれない・・・私はそんな風に思いました。





それでは最後に、トルナトーレ監督自身のこの映画への思いを。
「偽りのなかに真実がある」は(主人公のモデルとなった)鑑定士自身の言葉だ。どんなに優れた贋作も、どこかに“本物”の部分がある。さらに、どれほど優秀な贋作者でも、自分自身の存在をどこかに刻印するという。そこを見分けられれば、本物かどうかがわかる。それは鑑定士である彼自身の、職業上の哲学でもあった。
   (略)
本物なのか、嘘なのか。彼のなかには「本物は絶対にある」という信念があり、それが希望につながるのではないかと思う。
「偽りのなかに真実がある」:最新作に込められたジュゼッペ・トルナトーレ監督の思いとは?【WIRED JAPAN】


「わたし自身はポジティブな終わり方だと思っている。愛を信じる人たちには勝利だし、愛を信じない人には暗いエンディングに思えるのでは」
『ニュー・シネマ・パラダイス』のトルナトーレ監督、新作を引っ提げ来日!【第26回東京国際映画祭】




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