お散歩シネマ 映画の世界へ出かけよう!!映画の数だけ、もっと世界は面白くなる! 

『インターステラー』 (2014/アメリカ)

   ↑  2015/10/14 (水)  カテゴリー: SF、宇宙、怪獣







インターステラー ブルーレイ&DVDセット


●原題:INTERSTELLAR
●監督、脚本:クリストファー・ノーラン
●出演:マシュー・マコノヒー、アン・ハサウェイ、ジェシカ・チャステイン、エレン・バースティン、マイケル・ケイン、マッケンジー・フォイ、ジョン・リスゴー、ウェス・ベントリー、ケイシー・アフレック、トファー・グレイス、マット・デイモン 他
●近未来の地球。環境は加速度的に悪化し、植物の激減と食糧難で人類滅亡の時は確実なものとして迫っていた。そこで人類は、居住可能な新たな惑星を求めて宇宙の彼方に調査隊を送り込むことに。この過酷なミッションに選ばれたのは、元テストパイロットのクーパーや生物学者のアメリアらわずかなクルーのみ。しかしシングルファーザーのクーパーには、15歳の息子トムとまだ幼い娘マーフがいた。このミッションに参加すれば、もはや再会は叶わないだろう。それでも、泣きじゃくるマーフに「必ず帰ってくる」と約束するクーパーだったが・・・。




メリカ映画(特にSF系)を観ていて、個人的に毎回躓きがちなのが、キリスト教社会の思想が自然と滲み出ている点。

いつもなら、八百万の神の国の出身の人間にとってはテンションだだ下がりになることが間違いナシ!なのですが、そこはノーラン監督、『インターステラー』では見事偏りませんでした。だから私は好きなんだ~

この映画を観ていると、まず"世界が終わる"という終末思想がそこにあり、人間の持つ原罪や罪の告白、神(一神教としましょう)との新たな関係構築や世界の復活といった宗教観が(主軸ではないものの)バックボーンとなってストーリーを支えていることに気がつきます。特に分りやすいのが、人類を救うためにワームホールを抜けて移住可能な星を探しに出るという【ラザロ計画】というネーミングかも。
 

罪と罰〈上〉 (岩波文庫)


"ラザロ"といえば、ドストエフスキーの『罪と罰』で出てくる【ラザロの復活】が一番に思い浮かびます。恐ろしい罪を重ねた主人公ラスコルニコフが「ヨハネによる福音書」11章(ラザロがキリストの愛で死から甦る)を娼婦ソーニャに読んでもらうことで魂の救済を願い、悔い改めようとするという圧倒的インパクトを残すエピソードですね。

「そうか、人類は自らの罪によって一度死んで、神の赦しの中で復活するのですね、はぁそうですか・・・」と、困ったときの神頼み程度の人間にとっては、やや遠い目になってはしまうものの、『インターステラー』では壮大な宇宙を舞台に、量子力学、宇宙工学、理論物理学などリアルさを徹底的に追求した上で、時空や時系列さえも飛び越えた家族間の愛おしいドラマを見せてくれました。









ころで、『インターステラー』における末期的な地球のイメージ 「凶作」「砂嵐」「避難民」「喘息患者」というのは、実は1930年代にアメリカ中西部で断続的に起きていた"ダストボウル(Dust Bowl)"という実際の砂嵐がモデルになっているんですね。

そう、これは架空のお話ではなくて、私たちが生きる現実世界で実際に起こっていたこと。そして、今現在も起こっていることなのです。



 ①第一次世界大戦開始によって穀物相場が高騰
→②もともと耕作に適さない多くの土地まで耕作
→③機械化によって農地拡大&収量増で生産過剰
→④穀物価格暴落
→⑤開墾によって草のなくなった土地では穀物が枯れて表土が砂となって飛び散る
→⑥砂嵐が空を覆い、350万人もの人々が農地を捨てて移住することに
→⑥大恐慌とダストボウルによってアメリカ経済は絶望的なダブルパンチ・・・



当時の映像を見たノーラン監督が、SF映画を上回るその異常な状況に驚き「"これは実際に起こり得る出来事なのだ"と強調したかった」と語っています(ドキュメンタリー:「サイエンス・オブ・インターステラー」より)

アメリカでは近年、アリゾナのフェニックスなど南西部で巨大砂嵐ハブーブ(هبوب =アラビア語で"強烈な風")が多発していて、気候変動の影響も加わり、過去と同じような状況が繰り返されています。この"人災"による干ばつが増えると、経済的圧力で再び農地が拡大され、更に砂嵐を増大させるという過去と同じ悲劇の道を辿ることに・・・・



劇中に触れられるクーパーの娘"マーフ"の名前の由来であり、マーフィーの法則「起こりうることは、起こる」。“Whatever can happen, will happen.”

捉え方によっては過去に起こった過ちを再び繰り返している人類への戒めでもあり、あるいはマーフやクーパーが人類を救う可能性があるかもしれないという、ポジティブにもネガティブにも捉えることのできる物事の表裏を示した父娘のやりとりが印象的でした。






てさて。
この『インターステラー』という映画は、「映像アドベンチャー」として心が震えるほど圧倒される一方で、その細部に見え隠れするエモーショナルな部分には胸を刺すような痛みのある物語も抱えていました。ハリウッド大作でありながら、こういう作家性が見え隠れするところがノーラン監督らしいですね。


例えば、マン博士が苦悩したという人間の"生存本能"。

広大な宇宙にただ一人、誰も助けには来てくれないかもしれないという孤独や焦燥感を伴う宇宙探査には人間は向いていない、ということ。



どれだけ視野を広く持っても、どれだけ偽善性を追い払おうとしても、人間にはエゴがあり、"無意識"という主観的な心からは逃れられないからですね。「客観的なデータ」が必要だといっても、それを手にする人間に完璧な客観性を求めることは困難なのでしょう。

コントロール不能な運命を目の前にした時、そこには剥き出しの人間性が現れます。孤独と死を恐れ、人類を存続させる目的を果たしたいマン博士の絶望と狂気。


そして、そんな感情に揺さぶられる人間とは対照的なのが、人工知能搭載ロボットの「TARS(ターズ)」と「CASE(ケース)」。


ただの立方体複合型の無機質な形状なのに、有能で忠誠心のある彼らの行動からは時にいじらしささえ感じられ、彼らの動きからはまるで身体から温かみを発するような人間らしさすら覚えるようになるのです。

これは鑑賞後にドキュメンタリーを観て分かったことなのですが、実はこのロボット、俳優でコメディアンのビル・アーウィンが黒子のように後方で操作し、それをデジタル処理して消すよう撮影されていたのです。この時代になんというアナログ方式!!感情を持たないはずのロボットから発せられる言葉の一つ一つが、まるで生命力につながる真の賢明さにも思えてくるのは、アーウィンが常に俳優たちと現場を共にして演技をしていたからなのかもしれません。

そして彼らに人間らしさを感じたもう一つの要因は、TARSの「ユーモア度」。

1人ではなく共に笑うという瞬間には、悲しみを癒したり感情を共有するという愛おしい時間が存在し、その二人の間にはポジティブストロークが繰り返されていきます。それが前進していける強さ。そう、ユーモアは、最大の人間らしさなのかもしれませんね。

TARSはクーパーの"相棒"として、どれだけ時間が過ぎようとも最後までずっとずっと同じ記憶を刻んでいくことでしょう。現在も過去も未来もなく、ループし続ける世界の中で、唯一無二の存在として。









「前へ進むためには、何かを後へ置いていかなければならない」
「親は子供の記憶の中で生きる、とママも言っていただろう」


宇宙はこれほどまでに大きく、人間の最高科学技術をもってしてもあまりにちっぽけな人間の存在。そのちっぽけな人間が親や子、恋人に「会いたい」と願って生き抜こうとする姿を、ただただ息を詰めて見守るしかなかった2時間49分でした。



この映画で使われたパイプオルガンの音色について語っていたハンス・ジマーの言葉が、物語の核心にも触れていたような気がしたので、ここに少し引用してみます。
低音の力強さをみぞおちで感じる。窓がガタガタ揺れ始める。空気が押し出されるからだ。原始的で不穏な空気を感じる。爆発寸前だ。人間くさい音色になるのは、楽器が呼吸をするからだ。音は楽器の息遣いだ。吐息が聞こえる。人間の存在を感じる。
ビハインド・ストーリー「宇宙の音色~ハンス・ジマーの世界~」より


教会のパイプオルガンが空気を吸い込み、まるで呼吸しているかのように音色を重ねていくその圧巻のスケール感は、まるで壮大な宇宙の中で忘れたくない記憶を必死に手繰り寄せる生身の人間の"生"を感じさせるかのよう。そのあまりにちっぽけな存在の人間が、時間や空間を潜り抜けてでも命がけで想いを伝えようとするその懸命さに、私はきっと惹かれたんだろうなと思います。

観終わった後1週間くらいは、新しい映画を観る気力もなくなるほど(5月の頃の話ですが)、久々に熱を帯びた作品に出会えて本当によかったです。心奪われる映画に1年に1作品でも出会えれば、それでじゅうぶん幸せですね。






後に、父親を演じたマシュー・マコノヒーのこと。

浅黒い肌と黒髪となり、野性味倍増の農夫&エンジニア役を演じた彼の強烈な存在感に気圧されました。あの何をやらかすのかわからない鬼気迫る感じが、これまでのただのヒーロー像とは違って、全く、全然、ほんの少しも安心感がないのがスゴイですね。これってトム・クルーズとは対極かも。

MUD -マッド-[DVD]

ダラス・バイヤーズクラブ [Blu-ray]


True Detective [Blu-ray] [Import]


この人が出た最近の出演作品は、どれもこれもどこか危険な感じが漂っていて(『MUD マッド』『ダラス・バイヤーズクラブ』『TRUE DETECTIVE』)、なんと言うか今にも卓袱台を引っくり返しそうな勢い、というか「ちゃぶだい」って今は言わないんだろうか、ともかく見ているだけで何だかわたしドキドキするんですけど、奥さんこれって何でしょう(笑)。

ワイルドで、情熱的で、知性(時に狂気も)を感じさせるマコノヒーの魅力には、ここ数年個人的に非常に注目しているところです。

・・・と下書きに書いていたら、次回作では遂に「ハゲデブ」に変貌していて、そのあまりの"クリスチャン・ベイル化"にヤッパリネ!と思うしかありませんでした。モウヤメテ~!!



関連記事

■この記事に関連する映画制作国、地域 : アメリカ映画 

FC2共有テーマ : 個人的な映画の感想 (ジャンル : 映画

  2015/10/14 | Comment (0) | Trackback (0) | HOME | ↑ ページ先頭へ ↑ | edit

Comment

コメントを投稿する 記事: 『インターステラー』 (2014/アメリカ)


  任意 : 後から修正や削除ができます。
  非公開コメントとして投稿する。(管理人にのみ公開)
 

Trackback