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『ぼくの好きな先生』 (2002/フランス)

   ↑  2016/03/12 (土)  カテゴリー: ドキュメンタリー、アニメ





Etre et avoir ぼくの好きな先生 [DVD]


●原題:Être et avoir / TO BE AND TO HAVE
●監督:ニコラ・フィリベール 
●出演:ロペス先生と、3歳~11歳の13人の子供たち。
●フランスの田舎にある小さな小学校に勤める、退職を控えた1人の教師と、そこに通う13人の生徒との心温まる交流を捉えたドキュメンタリー。先生と生徒達の生活と対話を、詩情豊かな美しい映像で綴っていく作品。




3月は「卒業」や「別れ」の切ない季節ですねぇ・・・

友人の引っ越しが決まったり、仕事の引き継ぎがあったり、5年間とてもお世話になった子どもの習い事が終わったりと、何と言うことのない平凡だった日常が線を引いたようにプッツリなくなってしまう心細さで、不安や寂しい思いが日増しに大きくなっていくのを感じる日々です。

でもね、4月になったら新生活の波に乗った忙しさで、そんな気持ちもパーッと吹き飛んでしまうのが私のパターンなんですけどね。だってまだまだ守りの姿勢には入りたくないわ!(笑)





今日の映画『ぼくの好きな先生』は、こんな別れの季節にピッタリかも。
とあるフランスの小さな村の子供たちと、もうすぐ教職を引退する先生の日々を追ったドキュメンタリー映画です。



実は私も娘が生まれるまで、小さな教室で幼稚園生から中学生までのこどもたちに算数や英語などを教えていたことがありました。

ちょうどこの映画と同じくらいの年頃の子どもたちです。

突然鼻に指を突っ込んで鼻血を出したり(笑)、授業中に眠い眠いと泣いてしまったり、昨日できなかったことが今日急にできるようになったり。パワフルでオープンで、予測もつかない言動や伸び伸びとした素直な反応の数々に、私も笑ったり驚かされたり考えさせられたり。懐かしい日々です。



『ぼくの好きな先生』には、見ていて頬は緩むのに、なぜか涙ぐんでしまうような温かさが溢れています。

それは、教師として年を重ね、時に厳しく包み込むような優しい眼差しのロペス先生と、そんな先生が大好きなキラキラの宝石のような子供たちとが奏でるリアルな時間が丁寧に切り取られているからかも。ナレーションはなく、ただそこにあるのは優しくも厳しい自然の風景と、先生と子どもたちの姿だけです。







人の記憶って本当に不思議なもので、雨の匂いとか、夕焼けの空の色とか、反射する窓の向こうに見えた景色とか「あ、これはあの時に・・・」って普段思いもしなかったことが急に蘇ったりします。

記憶は薄れ、淘汰され、日常に紛れていく中で、誰かの心にほんの少しの間だけでも留まれるだけでも凄いことなのに、その中には確実に記憶に刻まれ、残っていくものがあります。この映画を観ていて「あぁロペス先生の仕事って、きっとこういうことなんだろうな」と思いました。



子供たち一人一人に向けるロペス先生の包み込むような優しい眼差し。先生の姿を追う小さな瞳。皆が帰った後の空っぽの教室。子供どうしの小さなケンカ。子供たちが去った後に残る、最後の先生の姿。




こんな些細な日常の風景でも、完全に忘れ去られるのではなくて、きっと心のどこかに一端しまわれる。そして、一度焼き付けられた言葉や風景はどこにも消えずに、ふとした瞬間に思いがけず現れて、いつかその意味を理解できる時がくる。きっと一生。ずっと。そうやって人は形作られていくのかも。

ここに出てくる子供たちの未来が、どうか幸せなものでありますように。
良い先生に巡り会えるということは、一生の財産ですからね。








・・・・なぁーんていう感動的なところで終わらせないのが、このブログでして。
なんとこの映画には、鑑賞後のほんわか気分も一気に吹き飛ぶ衝撃の後日談が!

なんとロペス先生、この映画製作会社に対して25万€を請求する訴訟を起こし、しかも敗訴→控訴→棄却されていたのでした。
 Defeat for teacher who sued over film profits 【The Guardian/29 September 2004】
 Film's fallen hero fights on for his class 【The Guardian/3 October 2004】

ロペス先生の主張は以下の通り。

授業風景で描かれていた指導方法は教師の"知的財産"であり、またこのドキュメンタリーが教育目的に使用されるものだと言われていたため、全国(さらには海外まで)の映画館で公開されたりDVDでリリースされるとは知らされておらず、生徒たちのその後の生活にも悪い影響が出てストレスにさらされたこと。この映画が得た報酬は、「俳優」として自分にも配分されるべきであり、「共著者」としてクレジットされるべき。そしてこれは決してお金のためではなく、映画会社とプロデューサーたちに対して自分の権利を認識させるためなのだ、ということも。


さらにですよ、この映画にまつわる訴訟が他にもあるというのがスゴイ!
事案は,この映画において,小学生向けのフランス語読解の教則本である「Gafi le fantôme(幽霊のガフィ)」の複数のイラストが複製され,幾度にもわたって上映されたというものである。
  (中略)
イラストの著作者と,彼が所属する権利者団体のSAIF(49)が,映画製作会社に対し,複製権・上演権侵害を理由に,損害賠償を求めて提訴した。原告らは,イラストに着色(子供たちによる塗り絵)をしたことによる改変と氏名不表示の両方に基づいて,著作者人格権侵害も主張している。
出典:フランスにおける不文の著作権制限としての付随理論について
 獨協大学 准教授 長塚 真琴【「パテント」2012年1月号|日本弁理士会】


この映画は、2002年カンヌ国際映画祭で特別上映され大きな話題となり、本国フランスでは「ドキュメンタリー映画」としては異例の規模(全国約220館)で公開が決定され、オープニング3日間で16万人、その後は200万人を動員するという大ヒット・ロングランとなった作品なんですね。

世界各国で数々の映画賞を受賞し、称賛され、莫大なお金が動いていく中で、この小さな村で撮影された小さな物語は、いつの間にか色々な人たちの様々な思惑に巻き込まれていってしまったのかもしれませんね・・・



最後に、映画のパンフレットに掲載されていたロペス先生のインタビューを。
Q.定年退職を迎えた気分は?
「辛いですね。自分の体の一部をもぎ取られたような気持ちさえします。この映画の最後のシーンを観たとき、まるで私の教師人生の終焉を告げられたように感じらました。でもやれることはやり尽くしたんだと、新しいことを始めるには55歳というのは良い区切りだと自分に言い聞かせながら新しい生活に慣れようとしています。この映画のプロモーションで観客やメディアの人々と出会うことが、私の人生の移行の助けになっています。これでやっと自分のための時間が持てるようになったことですしね」

なんだか色々な意味で切ない映画ですわ・・・・



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