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『ニュースの天才』 (2003/アメリカ)

   ↑  2016/06/06 (月)  カテゴリー: サスペンス、ミステリー







●原題:SHATTERED GLASS
●監督:ビリー・レイ
●出演:ヘイデン・クリステンセン、ピーター・サースガード、クロエ・セヴィニー、スティーヴ・ザーン 他
●アメリカ大統領専用機エアフォースワンに唯一設置され、アメリカ国内で最も権威ある政治雑誌と評される「THE NEW REPUBLIC」のスタッフ・ライター、スティーブン・グラス。彼は同誌でスクープ記事を連発、かつ同僚たちからも人望の厚い若きライターだった。ところがある事件がきっかけとなり、なんと彼が書いた記事が"捏造"ではないかとの疑いが出始めるのだった・・・。製作総指揮にトム・クルーズを据え、アメリカのマスコミ界に衝撃を与えた人気ジャーナリストによる記事捏造事件をもとに映画化された話題作。






実際に起こった事件という衝撃性と、「天才」という邦題からして一体どんな風に人々を欺いたのか!?とワクワクして観たのですが・・・

鑑賞前の期待はあっさりとかわされました(良い意味で)。
もうワクワク感なんて木っ端微塵。それより何より、主人公のあまりにアンバランスな精神性に私の心は氷漬けですよ。

主人公Steven Glassの名前からとったであろう 原題:SHATTERED GLASSが確かにこの映画の核心を物語っているんですね。通常の意味としては「粉々に壊れたガラス」ですが、"Glass"にはもともと「輝く」という原義があるところがまた泣かせます。







スティーブンという人は、真っ黒な腹があって意図的に情報や周囲の人々をコントロールして騙していくタイプではありません。自信満々な「嘘」を貫いていくというよりも、無意識に作り出す「空事」の中に自分自身さえも埋没させてしまう人物として描かれています。

だから観終わった後、ゾッとするような寒々しさが胸の奥に落ちていくんだと思います。

邦題で「天才」とか言ってる場合じゃないですよ。
だってこの映画は、おそらく「ニュースやメディアが言っていることは常に正しいとは限らないんだ!(by トム・クルーズ)」ってことを言いたかったのかもしれませんが、“メディア界に衝撃を与えた事件”というよりも現実から乖離している人間の精神のアンバランスさの方が怖かった。こんなの怖いに決まってるわ。




周囲の人々への気配りを忘れず、安心感を与え、常に謙虚で礼儀正しく誰の目にも魅力的に映る人物が、自分で作り出す妄想や虚言を信じ込む異常さ。泣いて同情を求め、哀れを止めることに迷いのない愚かさ・・・・。彼を拍手で迎え、憧れのまなざしで見つめる母校の生徒たちや恩師の“温かな姿”の恐ろしさといったら、もう。

すごく可哀想な顔をして "Are you mad at me?"(ぼくのこと怒ってる?)なんて、もー!

彼の精神がそのようになってしまった下地は、恐らくそう特別なものでもないのかもしれません。この現実世界において、そういった傾向の人間に当たってしまうこともままありますもんね・・・。見抜けるか、絡めとられるか。それが私には怖かった。






他方、「記事が捏造だった!これは問題だね!衝撃だー!!」というこの作品の側面については、別に衝撃でもなかったです。これだけ情報の溢れている現代、情報操作があることも偽装があることも皆知ってますって。もう驚くことでもないでしょう。ソースや記事自体の正確性や信憑性、公平性なんかのレベルについては、それを取り扱う各メディアで十分検討・検証・確認してくれっていうだけの話ですもんね。


つまりこの映画は「仕事をする時には、上司や同僚に【報告、連絡、相談のホウレンソウ】を大事にしようね!」っていう話です(笑)。

ともあれ、なかなか考えさせられる作品でした。
脇を固める個性派俳優たちの共演も見応えがあり、欲を言えば、メディアの裏側というよりもスティーブン・グラスの人間性の方にぐいぐいフォーカスを当てていってもらえた方が個人的にはもっと面白かったかな?と思います。




『ニュースの天才』のその後・・・も、結構スゴイことに。


『ニュースの天才』という映画に関してインターネット上の日本語の記事を辿っていくと「その後、グラス氏はロースクールに通っている」というところで映画も終わっているせいか「彼は弁護士になった」というものばかりが出てきますが、実はそれって誤りなんです

映画の話ではないですが、ネタもとはきちんと確認しなくてはいけませんね。


Glass.jpg
Serial liar Glass can't be a lawyer 2014年1月24日 CNNより 
↑韻を踏んだすごくいいタイトルだと思う(笑)

スティーヴン・グラス氏は、確かにロースクールを卒業して学位は取得したものの、ニューヨーク州の司法試験(Bar Exam)では審査委員会から過去の捏造事件の数々を理由に道徳的な適性がないとして審査を拒否され、2006年にはカリフォルニア州の司法試験にもパスしましたが、弁護士としての資質がないとみなされました。

その後ずっと再審請求をし続けたグラス氏に対し、2014年カリフォルニア州最高裁は「司法につく人間としての適性なし」という厳しい判決を下しました。つまり、グラス氏は弁護士としての開業はできないのです。
California Denies Scorned Journalist Stephen Glass Right to Practice Law【The New York Times】
Court denies Stephen Glass admission to the California bar【Washington Post】


で、現在は?といいますと・・・
ビバリーヒルズにある「カーペンター、ザッカーマン&ローリー法律事務所」という事務所で"Trial Team Coordinator"としてお仕事されていらっしゃいます。数々の証拠をでっち上げた人が、証拠を扱う仕事をするなんて!なんという皮肉なんでしょうねぇ。ま、もともと優秀な方ではありますし、事務所的には話題にもなるんでしょうが。







一方、当時「THE NEW REPUBLIC」で彼の記事の不自然さに気づき、真実を追求しようとしたことから編集部内で孤立してしまったチャールズ・レイン氏。彼は現在、ワシントン・ポストやFOXのニュースチャンネル等でジャーナリストとして精力的に活躍中。
Charles Lane / Opinion writer【Washington Post】

ジャーナリストとして力強い人生ですね。




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  2016/06/06 | Comment (2) | Trackback (0) | HOME | ↑ ページ先頭へ ↑ | edit

Comment


教室で話している姿が印象に

残ってます!
ずいぶん前に観た切りでしたが、実話を基にした作品だったんですね。ホント、うすら寒くなる話でした。
私が実際に対面しても、絶対異常だと気付けないと思います。

しかし、その後の顛末も興味深いです。うっかりデマを流してしまった人たちもたくさんいたようで…。今の時代、誰でも情報を発信できるようになったおかげで、この映画の時代よりややこしいことになってるかも(汗)
チャールズ・レイン氏のような観察眼を培わねば!

宵乃 |  2016/06/07 (火) 07:42 [ 編集 ] No.434


はなまるこより

おぉ、宵乃さんもご覧になっていたのですね!
・・・と思って宵乃さんの記事を探してみたのですが、ザンネン!レビューはなかったのですねi-201きっと宵乃さんが描かれるとしたら、"あの"母校での教室シーンなんでしょうか・・・コワイ。。。

>私が実際に対面しても、絶対異常だと気付けないと思います。
わー、私もこれ気付けない自信あります!(笑)
たぶんこういう方って、一見すごく魅力的なんでしょうね。親切だったり気遣い屋さんだったり。
こういう人間の闇の部分を覗いてしまう怖さって、日常にある"ホラー"ですねi-238

>今の時代、誰でも情報を発信できるようになったおかげで、この映画の時代よりややこしいことになってるかも(汗)
本当ですねぇ。10年一昔とか言いますけれど、もう今の時代2,3年もあれば世界はガラっと変わってしまっていますもんね!

ネットの場合、簡単にコピペ→コピペ、リツイート→リツイートで信じられないくらい拡散してしまうので怖いですね。私もこんな片隅でチマチマと書いているだけですが、映画のもとが実話だった時などは特に何度も何度もそのソースの正確性なんかを確認してからupするようにしています。が、そのうち段々自分は一体何の作業をしているのか分からなくなることもi-229
でも、そのおかげで今回もまた良い経験をさせていただきました!(笑)

>チャールズ・レイン氏のような観察眼を培わねば!
宵乃さんは大丈夫ですよーi-190独自の視点をガシ!っとお持ちですもんi-192ウンウン!!

宵乃さんへ★ |  2016/06/07 (火) 22:01 [ 編集 ] No.435

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