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縦列駐車とシチューと 『しあわせへのまわり道』 (2014/アメリカ)

   ↑  2016/07/12 (火)  カテゴリー: コメディ






しあわせへのまわり道 [Blu-ray]


●原題:LEARNING TO DRIVE
●監督:イザベル・コイシェ
●出演:パトリシア・クラークソン、ベン・キングズレー、ジェイク・ウェバー、グレイス・ガマー、サリタ・チョウドリー 他
●マンハッタンに暮らす売れっ子書評家ウェンディ。順風満帆な人生を歩んでいた彼女だったが、ある日突然、21年連れ添った夫との結婚生活が破綻してしまう。すると、これまで夫に運転を任せきりで免許も持っていないウェンディは、離れて暮らす娘に会いに行くこともできないことに気づく。そこで、タクシー運転手をしながら副業で自動車教習の教官もしているインド人ダルワーンの個人レッスンを受けることに。夫への怒りと離婚のショックでなかなか運転に集中できないウェンディだったが・・・。





全力で逃げ出したくなるようなベタベタな邦題がつけられていますが、車の運転だけでなく人生も学んだというアラフィフ女性のお話ということで、髪を乾かしながらチラチラと観始めたはずが、いつの間にか体育座りになって見入ってしまった・・・・



アメリカ映画やドラマを観ていて薄々気が付いていたこと・・・そう、それは、米国で自動車運転免許を取るために"教習所"に通うシーンって見たことがない!

運転免許の取得方法や運転規則などは州によって多少異なるそうですが「筆記」→「仮免」取得の後は、路上で誰かと一緒に練習したり自動車学校のインストラクターにレッスンをお願いしたりして、最終テストには自分で車を用意して臨むんだそう。


そうか、アメリカって教習所内の練習ってないのね・・・・いきなり"路上"で走るだなんて、私なら確実に気絶している・・・・・・


いや、でも、本当に(笑)。



渋々車に乗り込んだ主人公が初めて運転席に座り、インド人インストラクターに言われるがまま「まずはシートベルト」「はい安全確認して」「左ウィンカー出して」(→ワイパー動く)、「ハンドルを左いっぱいにきって」「ギアを"D"に」「じゃアクセル踏んで」と言われ、生まれて初めて車を自分で動かすシーン。「・・・動いたわ」

で、いきなりブレーキ踏んで"I think I don't like this."って言っちゃうんです。だって怖いんですよ、自分が車を動かしたということが。そりゃもう解りすぎて、私も一緒に気が遠くなりましたもん。自分のことじゃないのにね(笑)。







離婚をきっかけに車の運転教習を受けるハメになった中年女性が、偶然出会ったインド人の教官(原作はフィリピン人インストラクター)との交流を通じて自らの人生を見つめ直していく姿を描いた、ちょっとビターなコメディドラマ。

この映画を観ていると、マンハッタンって、タクシーや地下鉄・バスなどが充実しているので、日常生活を送る上ではさほど車での移動って重要ではないのだろうなと思いました。

でもその"日常"をある日突然失ってしまった時、やっぱり困ってしまう。自分でやらなくちゃいけない!ということに気が付いて。


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正直に言うとね、この主人公ウェンディという女性にはあまり共感はできなかったんです。


夫の心が自分から離れていった理由がまったく理解できず、傷つけられた自分のことだけが可哀想で「私の何が悪かったの?」「どこがいけないの!?」と罵るだけ。苦虫を噛み潰したような表情で「夫は戻って来るわ」と過信できるほどのプライドの高さ。

しかも、路上教習中「考え事をしていた」とかで事故に遭いそうになること数回。

ちょっとね、ワタクシこの辺りでキレそうになりました。だってこれダメでしょ絶対!インド人インストラクター、ダルワーンの言葉じゃないですけれど「人生で何が起こっていようと、それを路上に持ちこんではダメだ」でしょう。






でも(だからこそ、かな?)、縦列駐車がうまくいかないウェンディに対して、ダルワーンがそれを"シチューの味付け"に例えてヒントを与えてくれた時。初めてウェンディが車の中で微笑んだシーンがとても印象的でした。


本当にさり気ないシークエンスなんだけれど、たぶんウェンディはこの時に自分の中で"カチ"っと当てはまる何かを見つけたんだろうなと思うんです。"言葉"を愛していたウェンディだからこそ、ダルワーンの言葉はちゃんと心に届いていたんでしょうね。


2人を取り巻く状況はそれぞれに切実ではあるものの、でもそれをことさらドラマチックにはせず、サラリと抑制を利かせて描いているところが好きでした。



そして、それは終幕にも・・・・



“Seatbelt first”
いつのときも繰り返し繰り返し耳にしていたダルワーンの言葉が、隣席から聞こえてくるようなラストシーン。車を運転する人なら、誰もが持っている瞬間なのかな。

ウェンディは一度"日常"を失って、そしてその失意の中から得た"日常"から再び離れることに。でも今度は、次の新しい一歩のために。

原作、監督、編集者が女性という作品ならではの繊細さと優しさがある一方で、どこかリアルなドライ感さえも感じさせる甘くはない物語。観終わった後は、これからやってくる夏の風を感じられるドライブに行きたくなるかも!




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因みに・・・
2002年7月22日にアメリカ「ザ・ニューヨーカー」誌に載せられたキャサ・ポリットのエッセイ『Learning to Drive ~A year of unexpected lessons.』が、この映画の原作となっています。

Learning to Drive ~A year of unexpected lessons. By Katha Pollitt【The New Yorker】

キャサが長年のパートナーと別れてから免許を取得するために車の運転を習ったこと、それが離別の痛手から回復する助けになったことなどの実体験が、軽妙なユーモアを交えて綴られています。因みに原作では"ビーフシチュー"が"味付け"になっています。


・・・ま、右左折のハンドル捌きで精いっぱいだった私からすると「全体をよく見て、予測して、観察が大事!それは人生と同じ!」とか言われても、ほほーぅそんな余裕なかったわい!とか思ってしまうんですけどね(笑)。



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最後に・・・
ベン・キングズレーの【エスニック・ルーツ】は、どの出演作でも最大限に活かされているのがわかりますね。彼のその幅の広い演技力には毎回脱帽です。


今回のインド人は勿論、アラブ人やフランス人、ロシア人や謎の外国人と何でもOK!キングズレーが登場すると画が引き締まります。今作は共演のパトリシア・クラークソンとの相乗効果で、品の良いオトナの映画に仕上がっていたと思います。



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