『TIME CRIMES タイム クライムス』 (2007/スペイン)
●原題:LOS CRONOCRIMENES / TIMECRIMES
●脚本、監督、出演:ナチョ・ビガロンド(イグナシオ・ヴィガロンド)
●出演:カラ・エレハルデ、カンデラ・フェルナンデス、バルバラ・ゴエナガ、フアン・インシアルテ
●森の中の一軒家に引っ越してきたエクトルは、ある日気を失っている裸の少女を見つける。その時、突如現れた謎の男に襲われた彼はある施設に辿り着くが、そこで“1時間前の世界”にタイムトラベルしてしまう。人類初のタイムトラベラーとなった現在の“エクトル2”が生き残るためには、タイムトラベル前の“エクトル1”との干渉を避けながら、その行動を正しく補完しなければならない。だがその一連の行動が、稀代の殺人事件を巻き起こすことに・・・。
登場人物はたったの4人。(ま、厳密に言えば演じているのは総勢5人。)そして、そのうち研究員の役には監督自ら出演!(↑画像右側)
内容はタイムパラドックスを扱ったSFもの、でも撮影は森の近くの邸宅二つだけ・・・という、いかにも「アイディアがあれば面白い映画を撮れるんだ!!」というアツイ思いがジンジン伝わってくる、なんだかちょっと映画好きの人間にとっては見過ごせない作品でした。この監督、タダモノじゃないかも。
ま、色々気になる点は多いんですよ。
主人公の行動はおバカすぎだし、流れも不自然過ぎるし、なにしろ包帯も巻きすぎだし(笑)!
「おっさん、もうちょっと落ち着いてくれよ~」とか「なんでわざわざ怪しすぎるようなコートを着込むんだよー」とか「え、一目散に走って逃げるのかー!」とか (←未見の方には意味不明で申し訳ないデス)
よく言えば、バンバン伏線を回収していく大胆で勇気ある構成力。都合よくガンガン進んでいくスピード感のある力技。これらがこの映画の魅力なのかもしれません。
スケベなおっさんの無駄にエネルギッシュな行動力というのがこの映画の悲劇の発端であり、原動力でもあるんですが、この笑っていいのか真面目なのかよく分からないホラー&サスペンスのテイストを熟知なさった監督のセンス、素晴らしいと思います(ま、ラストはやや憂鬱にはなるんですけどね・・・)。
因みにナチョ・ビガロンド監督はもともと幼少期からSF愛好家で、これまでずっとSF映画を作ることが夢だったのだそう。しかしスペインではまだまだSF分野の歴史が浅く、ドラマやコメディを制作する方が簡単なこともあって、業界の人々を説得することも難しかった・・・・のですが、2003年にビガロンド監督が制作した『7:35 in the Morning(7:35 de la Mañana)』というショートフィルムが、なんと2004年度の【アカデミー短編映画賞】にノミネートされたことによってスペインでも知名度がアップ!
そこで「将来長編映画を撮るチャンスが出来たら絶対SF映画を作ろう!!」と決意し、そこから出来上がったのがこの『TIME CRIMES タイム クライムス』だったというわけです。
スペインのインタビューではこの作品について「SF、ホラー、スリラー、いくつかのコメディとエロティックのジャンルを交差させ、観客を驚かせるため88分間それらを持続させているんだ」と答えていました。お気に入りはダリオ・アルジェントであったり、或いはブライアン・デ・パルマ監督の『ボディ・ダブル』やヒッチコック作品だとか。
ものすごーく筋が通っていますね。わかりやすい!
そして最も興味深かったのが、敬愛するというデヴィッド・フィンチャー監督の『セブン』からの影響について。
『セブン』は、確かに"90年代の映画"としてよく知られているけれど、あの映画の戦略は、例えば『フレンチ・コネクション』のような70年代の映画のようにも見せていたことだった。『Timecrimes』は、特定の年代を感じさせるようには作らなかったんだ。50年後に誰かがこの映画を見たとして、観る人に「これは一体いつの時代の映画なんだろう?」と混乱してもらいたい。この映画では現代的な要素もあるし、同時に70年代や80年代の「ドクター・フー」のようにも感じる部分もある。『セブン』での不穏な要素には現代的な感じがしないでしょう。
そうそう!確かに私も「あのマシーンのレトロさは何なんだろう!?」と思いましたもん。そうか、狙いどおりだったわけなんですね。
それはもう、いろいろと突っ込みながら楽しく鑑賞させていただきました。
ハリウッドでのリメイクのお話もまだ立ち消えにはなっていない様子。ハリウッドに渡ったら、あのスケベなおっさんのアグレッシブさがどのように演じられるのか!?ラストの後味の悪さは感動ものに変わるのか!?はたまた彼は凄いヒーローになってしまうのか!?・・・うーん、これはなかなか興味深いです。
これからもビガロンド監督の名前、要チェックですね!