『グエムル -漢江の怪物-』 (2006/韓国)
●原題:괴물 / THE HOST(英題)
●監督:ポン・ジュノ
●出演:ソン・ガンホ、ピョン・ヒボン、パク・ヘイル、ペ・ドゥナ、コ・アソン 他
●ソウルの中心を南北に分けて流れる雄大な河、漢江(ハンガン)。休日を河岸でくつろいで過ごす人々が集まっていたある日、突然正体不明の巨大怪物(グエムル)が現れた。河川敷の売店で店番をしていたカンドゥの目の前で、次々と人が襲われていく。カンドゥの愛娘のヒョンソも、グエムルにさらわれてしまった。さらに、カンドゥの父、弟、妹のパク一家4人は「グエムルが保有するウィルスに感染している」と疑われて政府に隔離されてしまうことに。ところがカンドゥが携帯電話にヒョンソからの着信を受けたことから、家族一同は病院を脱出、漢江へと向かい、ヒョンソの救出へと向かうのだった・・・!
韓国映画は、このブログでは初登場となるわけですが、私がこれまでに観た韓国映画というのも、やはり僅かしかありません。
『シュリ』(1999)は公開当時「韓国映画がキタ!!!」というド派手な宣伝があり、迷わず映画館へ足を運んだ覚えが。それ以外はすべてDVD鑑賞ですが『JSA』(2000)、『殺人の追憶』(2003)、『シルミド』(2003)、『親切なクムジャさん』(2005)・・・あれ、本当にこれしかないです。韓国ドラマですと、NHKで『宮廷女官チャングムの誓い』を全話見て号泣していました。イ・ヨンエ率が高いのは偶然のようです。韓国体験、少ないなぁ。
韓国には【スクリーンクォータ制度】というのがあって、ハリウッド映画に圧されて国産の映画が廃れることのないよう、映画を「自国文化」として保護しようという考えが強い国なんですね(スペイン、ブラジル、ギリシャ、フランスなども同様)。因みに>【ブロードキャストクォータ】というものもフランスにはあって、他国のTV番組を全体の何%以上放送してはいけません、という制度が義務付けられていたりします。
規制か?自由競争か?どちらが「文化保護」に繋がるかは複雑な問題かもしれませんが、ただ、日本もBSで韓国ドラマばかり放映している現状、制作者側はきちんと考えなければならない問題だと思います。
あら。話が逸れましたが、今日はこの『グエムル』のレビューでした!
まず思ったのは、反米感情の勢いが溢れんばかりの映画だなぁということ。
これ、あまりに露骨な反米路線に、ポン・ジュノ監督へのメディア取材の中でアルジャジーラの記者が『あの怪物はアメリカを象徴しているのですよね?』としつこく意見を押しつけてきた(映画.comより)そうで、監督もちょっと苦笑いの様子でした。しかし、実際に非常に厳しい"反米視点"で作られたことは事実のようです。
この映画と同様の【在韓米軍による漢江毒物無断放流事件】というものが、2000年に韓国で実際に起こっていました。龍山(ヨンサン)米第8軍基地の霊安室で、毒性の発癌物質であるホルムアルデヒドを無断で漢江に放流したという事件でした。しかも、これ対する処罰が米軍側には実質的になされなかったため、韓国国民の反米感情を高めさせたといわれています。このような思いもあってか、『グエムル』ではアメリカに対する社会風刺の手を最後まで緩めることはありませんでした。厳しい視点です。
ただ、一方で監督自身が上記インタビュー記事の中でハッキリと仰っていたのは
「私が今回描きたかったのは、グエムルという怪獣そのものではなく、グエムルという怪獣が登場したことがきっかけとなって起こる、人々の反応だったのです。だから、グエムルが特定の何かを象徴しているということではないんです。」
ということなんですね。
なぜ怪物が現れたのか?や、怪物の正体は何なのか?といった辺りには全く言及せず、その代り怪物にさらわれた娘ヒョンソを必死に救おうとする一家の行動だけをフォーカスして描かれています。ヒーローなどではない"小市民"である普通の一家。しかも、ここぞ!という時にスっ転んだり、◯◯がなかったり、やること為すこと空回りでメチャクチャ情けない一家として描かれています。
そして、この映画事自体もそれを表すかのように物語の弾みを外しまくっていきます。
シリアスなのかと思いきやいきなりギャグを入れてきたり、ちゃりらりら~♪なんて気の抜けた音楽を入れてきたり、融通の利かない軍や警察もどうしようもなく無能だったり・・・。実際こんなトンデモ事件が発生したら人間このくらいのことしか出来ない非力な存在で、傍から冷静に見たら滑稽なものなのかもしれませんね・・・。そんな状況だからこそ、人間クサイ部分が一層浮き彫りにされるため家族の固い繋がりが強く感じられるのでしょう。ヒョンソの叔父、叔母らが命がけとなって救出に向かうことも、韓国での一族の結びつきの強さを感じさせる映画でした。
最後に、韓国のサイトで『グエムル -漢江の怪物-』に関する面白い裏話が載っていましたのでご紹介したいと思います。抜粋すると・・・
■怪物がヒョンソを尻尾に巻いて漢江に入るシーンでは、ヒョンソ役のコ・アソンは寒い10月の時期に尻尾に代わる線に巻かれ、実際に漢江の水に落ちながら撮影をした。しかも、もともとこのシーンはCG処理するだろうと言われていたため、実際の撮影1日前に急きょコ・アソンに連絡がいったとのこと。(彼女は監督を恨んでいるそうです笑)
■合同焼香所のシーンを撮った時は暑い夏だった。 さらに、撮影現場だった大学体育館内部の空調設備が故障していたため、撮影チームは「怪物」ではなく「暑さ」と死闘を繰り広げながら撮らなくてはならなかった。
■ヒョンソ役のコ・アソンが怪物と死闘を繰り広げるシーンは撮影所で撮られたのだが、あまりに汚い扮装をして歩く彼女を見て「放送局に奇妙な子供がいる」と通報が入ったこともあるという。
韓国人にとって、漢江とはどんな川なのか、家族という繋がりがどんなものなのか、政府への信頼感、在韓米軍への思いはどんなものなのか。こういった社会的背景や国民感情が掬い取れないと、外国映画はなかなか読み解きづらいものがあります。が、そこがかえって興味深かったりもしますよね。近くて遠い国、韓国。強烈で濃厚な作品も多いですが、また韓国映画も少しずつ観ていきたいなぁと思います。