『しあわせの雨傘』 (2010/フランス)

はなまるこ

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しあわせの雨傘 スペシャル・プライス [Blu-ray]


●原題:POTICHE
●監督、脚本: フランソワ・オゾン
●原作:ピエール・バリエ、ジャン=ピエール・グレディ
●出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、ジェラール・ドパルデュー、ファブリス・ルキーニ、カリン・ヴィアール、ジュディット・ゴドレーシュ、ジェレミー・レニエ 他
●スザンヌ・プジョー(カトリーヌ・ドヌーヴ)は60歳。朝のジョギングを日課とする幸せなブルジョワ妻。亭主関白で雨傘工場を運営する夫ロバートが、ある日心臓発作で倒れてしまう。そこで、なんの経験もないままスザンヌが雨傘工場を切り盛りすることに・・・。涙あり笑いありの人生讃歌!




オンライン試写会よ、今宵も本当にありがとう!!!

というわけでフランソワ・オゾン監督の最新作です。
「映画」というものを観る楽しみをワンサカかき立ててくれる大好きな監督なので、予告編を見た時から絶対観たい!!と思っていました。で、私、この映画を制限時間の24時間で3回観たんです(試写会なのに3回も笑)。





一度目
70年代風のファッションや音楽、編集に到るまで、憎いほど素敵で洗練されたコメディ映画だと思いました。沈黙が一瞬たりともないほど、皆唾を飛ばしまくって喋る喋る!それに1970年代のベルボトムのパンツやピタピタのハイネック、女性の外巻きフワフワのヘアスタイルもとっても可愛い!カトリーヌ・ドヌーブが雨傘工場のブルジョワ奥様というのも、かつての『シェルブールの雨傘』を思い起こさせてくれるこの設定自体が素敵!・・・などなど。

しかし、鑑賞後どうもスッキリしなかったんですね。映画鑑賞においてこれはよくあることなのですが、理由はいつも大抵2通りあります。
 ①自分の知識や経験不足、文化に対する理解不足などで消化不良
 ②単に自分の感覚・趣味に合わない

今回は明らかに①だな、とこれはスグにわかりました。

まず、私はフランス語が解らない。フランス人の友達と1年近く一緒に居たのに、本当に本当に!フランス語の発音も聞き取れず発音もできず・・・お恥ずかしい限り。それに、フランス史も苦手。フランス映画自体、その感覚は面白く興味はあるのでいつも果敢に挑戦しているのですが・・・実はあまり解っていない・・・。それで、公式サイトの【プロダクションノート】を読んで、再チャレンジしてみました。







二度目
おかげで、この映画はブールバール劇というフランスの大衆向けの娯楽劇分野で大人気だった『ポティッシュ』というコメディが原作だということ、この映画の時代的背景(1970年代におけるブルジョワジーと共産主義の対立)や、劇中扱われている楽曲の歌詞や意味合い、などがよーく理解できましたので、一度目とは違った軽妙な味わいに思わず笑いが漏れました(←ここでちょっと余裕が出た)。

それとフランス在住の方の感想を読んでみたところ、登場人物たちのセリフには、サルコジ大統領をはじめ現在のフランスの政治家の暴言や迷言が織り込まれていることも判明。つまり、70年代を舞台としながら、現代の政治や社会的風潮に対する皮肉が効かせてあるわけなんですね。こういうスパイス、フランス人には面白いだろうなぁ。

しかし、ですね。まだシックリこないんです。
「理解」は出来たんですが何かオカシイ・・・・・
中盤に描かれるドヌーブによる雨傘工場の経営改善の様子!なんかを、オゾン流の捌き方でもうちょっと見たかったなぁ~、なんだか(私の中での)盛り上がり具合がイマイチ良くないなぁ~・・・と、何かもっと違う理由で腑に落ちない感覚が残りました。

それで、私はまた考えてみました(私はシツコイのです)。
そして思い当たる要因が1つだけありました。
以前、『マルタのやさしい刺繍』(2006/スイス)を観た時に感じた理由とまったく同じでした。そう、邦題とプロモーション方法に原因を見つけたのです。

カトリーヌ・ドヌーブ主演『しあわせの雨傘』
お飾りだった妻が、心臓発作で倒れた夫の代わりに雨傘工場を任されたことで意外な才覚を発揮し、自分の生きる道を得る!色とりどりの傘があれば、人生の雨もまた楽しい。

こんなPRやコピーから映画に対するイメージや期待がまず出来上がり、すっかりその気になってこの映画を観たのです。でもこれ、どうも様子が違うようなんです。確かに表面的な意味合いで見たら半分は合っているんです。でも実は、このあらすじは原作の演劇のものであって、今回の映画化にあたってオゾン監督は更にこの先(後半部分)を描き足して、ドヌーブ演じるスザンヌの人生の奥行をうーんと広げていたのです。

しかも、原題は『POTICHE』=「花瓶」
字幕では「飾り壺」と呼ばれていましたが、このポティッシュというのは、暖炉の上に飾られる贅沢で豪華なものの、実用性のない花瓶や壺のことであり、転じて、美しいけれど夫の陰に隠れて自分のアイデンティティを持たない女性に対して軽蔑的に用いられる言葉なのだそう。



つまり、この映画は「しあわせの雨傘がうんたらかんたら~」とか「幸せの雨傘工場でドヌーブがうんたらかんたら~」とか、もちろん幸せな雨傘が~(笑)とかいう話ではないのです。雨傘の話は第一段階。きっかけ。物語の過程。しかも、しあわせ♪ってほどの雨傘の話が出てくるワケではないんです。

ぶっちゃけて言ってしまうと、予告編にあるような雨傘工場でドヌーブが手腕を発揮する!というステキなお話はほんの一瞬ほどしか出てこないんです。以前私が感じた「マルタの刺繍の話はどこいったー!」という心の叫び、再来です(笑)。

それでも「ドヌーブだし!」「雨傘だし!」という"オマージュ"を思わず全面に出して鑑賞者の気を引きたかったのであろう日本の配給会社の思惑も分からなくはありません。が、それはちょっとした「隠し味」のまま、映画を観る時のほんのりとした楽しみにさせて欲しかったな、と思うのです。その設定に「あらまぁうふふふ」と映画心を心地よくくすぐられる程度に。だって何しろそのせいで、映画を観る前から(勝手に)主軸がズレてしまうのですから。ま、私が単純なだけなのかもしれませんが・・・

その代り、ストーリーは予想もつかない方向へと突き進み、観る側が思わず描いてしまうような安易な展開へはそう簡単には向かないのです。このあたりはさすが変幻自在なオゾン監督!ストーリーの転がり具合が絶妙で、いつも本当に「映画」を楽しませてくれますね!

そんなことを考え、そして楽しみながら、私は三回観たというわけです。





三度目
全くもって、本当に、とっても楽しかったです。終盤の予想もつかない新展開は、ただもう、一体どこからがドヌーブで、どこまでがスザンヌという役なのか全くわからなくなるほど。気が付けば夫もジェラール・ドパルデューも蹴散らかして、これはもう「女性万歳!」というよりはドヌーブ様万歳!映画と化していきます。

公開前なのでネタバレはしませんが、劇中、男性たちが勝手に想像していた「か弱きスザンヌ」が俺を裏切った!と一方的に思い込み、社会的権力で彼女を制しようとします。二度も。しかし、それに屈することなく、それどころか「我が道を得たり!」とばかりに突き進む逞しき いや美しきドヌーブよ。どっしり構えた腰まわり いや美しきフランスの母親よ!あぁ、やっぱりこれはオゾン監督による「ドヌーブ万歳映画」なのです。フランスが大好き!という方にとっては必見の映画でしょう。お見逃しなく!




■追記[2011.01.12]
YHOO!ブログで【猫と薔薇、演劇、旅ファン】という素敵なブログを書かれていらっしゃるhitomiさんが、この記事を素晴らしく生き返らせてくださいました♪ぜひご覧ください!
記事はコチラ→ 「傑作ドヌーブの「幸せの雨傘」♪」



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Posted byはなまるこ

Comment 2

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宵乃  

コメントありがとうございました!

24時間の間に同じ映画を3回もですか(笑)
はなまるこさんにとって、それだけ興味深い作品だったという事ですね~。

>つまり、70年代を舞台としながら、現代の政治や社会的風潮に対する皮肉が効かせてあるわけなんですね。

おぉ、そんな秘密があったとは。
フランスに詳しければもっと楽しめたのか~。フランス人が羨ましい!

>邦題とプロモーション方法に原因を見つけたのです。

冷静に原因を探っていく様子はまるで探偵のよう!
わたしは何か違和感があっても、まあいっかと流してしまう事が多くて、その分析力に頭が下がる思いです。
あと、原題の意味は記事を書いている時にパパッと検索して、検索結果ページだけをみて書いたんですが、もしやはなまるこさんのブログだったんですね…(汗)
参考にさせもらったのに気付かず申し訳ありません!!

>ストーリーは予想もつかない方向へと突き進み、
>一体どこからがドヌーブで、どこまでがスザンヌという役なのか全くわからなくなるほど。

わたしも「えぇ!?」とドヌーヴ様に振り回されっぱなしでした。
そして、それが心地よいと感じてしまうのは彼女の魅力ゆえでしょうか。作中の男性陣も、結局は彼女に振り回される幸せに目覚めていったんでしょうね。
最後はみんな彼女の息子と同じように見えました(笑)

2014/11/20 (Thu) 14:27 | EDIT | REPLY |   

宵乃さんへ★  

はなまるこより

宵乃さん、おはようございます。
こちらにコメントいただきまして本当にありがとうございます!

>フランスに詳しければもっと楽しめたのか~。フランス人が羨ましい!
フランス人て、エスプリの効いた政治ジョークとか好きそうですよね!
って、私の勝手なイメージですが(笑)。
でも本来なら軽く見られるコメディ映画系なんでしょうけれど、私はこの映画のおかげで
自分の知っている範囲だけじゃわからない面白さというのがあるんだなーと
(やっと)実感させられた思い出深い映画でしたi-237

>もしやはなまるこさんのブログだったんですね…(汗)
いやいや!もっともっと詳しい映画解説サイトはもういっぱいありますしi-201
私も確か、映画の公式サイトから引っ張ってきたかと思いますのでi-229

>それが心地よいと感じてしまうのは彼女の魅力ゆえでしょうか。作中の男性陣も、結局は彼女に振り回される幸せに目覚めていったんでしょうね。
あははは本当に!
この展開はドヌーブ様の映画だったからこそ成立した!といっても過言ではないですよね(笑)
肩ひじ張って人生をキリキリ頑張っているような、
世の沢山の男性にも是非見てもらいたいフランス映画でしたね♪

2014/11/21 (Fri) 08:13 | EDIT | REPLY |   

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