『グレイテスト・ショーマン』 (2017/アメリカ) ※試写会後の感想です(ほんの少しネタバレ)

はなまるこ

はなまるこ











グレイテスト・ショーマン(サントラ)


●原題:THE GREATEST SHOWMAN
●監督:マイケル・グレイシー
●脚本:ジェニー・ビックス(兼原案) 、ビル・コンドン
●出演:ヒュー・ジャックマン、ザック・エフロン、ミシェル・ウィリアムズ、レベッカ・ファーガソン、ゼンデイヤ 他
●あらすじ:19世紀半ばのアメリカ。妻と二人の娘を幸せにすることを願うバーナムは、オンリーワンの個性を持つ人々にスポットライトを当てた、誰も観たことが無い華やかなショーを思いつく。世界中の観客を楽しませるためイギリスへ渡ったバーナムは、女王に謁見。そこで出会った奇跡の声を持つ美貌のオペラ歌手ジェニー・リンドと共にアメリカに戻り、全米を魅了するショーを繰り広げ、名士の仲間入りを果たす。だが、彼の行く手には、これまで築き上げてきたものすべてを失いかねない波乱が待ち受けていた・・・。






余裕綽々、ダイナミックでパワフル、キレのあるヒュー・ジャックマンのダンス(しかも色気あり!)に誘われ、まるで巨大なエネルギーどうしがぶつかり合ってスパークしたかのように燦然と耀く煌びやかなステージへ。そこでは「We Will Rock You」のごとく原始的なドラムの音が映画館いっぱいに響き渡り、ここから一気にエキサイティングなショーが幕開けする!

この弾けるような興奮が炸裂する『グレイテスト・ショーマン』のオープニングは「サーカスのステージにそのまま放り込まれたんじゃないか!?」と思わず錯覚してしまうほどの熱気に満ちていて、思わず「うわー!!」と拍手したくなってしまいました。体中の細胞一つ一つが沸き立つような感じ!これほどエネルギッシュなオープニングの映画は滅多にないんじゃないかな?

で、小心者の私は心配したのです。
・・・これだけハードルを上げてきて、このままラストまで駆け抜けられるのかな?大丈夫かな?







『グレイテスト・ショーマン』という映画は、メインとなるテーマが二つあるように感じられました。


一つは、ヒュー・ジャックマン演じる【フィニアス・T・バーナム】の波乱万丈の半生。もう一つは、アカデミー賞にもノミネートされゴールデングローブ賞で見事「最優秀歌曲賞」(主題歌賞)に輝いた「This is me」が表す差別やマイノリティの物語

独特のユーモアと正直さで大衆に非常に人気のあった興行師バーナムの物語は、実話からくる"面白エピソード"や名言集が数えきれぬほどあり、映画の中ではホラ話風に(あるいはファンタスティックに)描かれる楽しさがあります。一方「This is me」に関しては、ミュージカル映画らしさ満点のドラマティックな要素として物語を盛り上げてくれるため、彼らのパフォーマンスは映画鑑賞後も頭から消えることがないほど心揺さぶられるものがありました。

そして、これらそれぞれの良さと見所が『グレイテスト・ショーマン』の中に数多く散りばめられているのですが・・・・どうもこの"二本立て"の連携が少し弱かったのかなぁ、という印象を受けたのも正直な気持ちです。



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まず、その理由の一つとして考えられるのは、実在の人物である主人公バーナムのキャラクター像でしょう。

モデルとなった【P.T.バーナム】とはどんな人物だったのでしょうか?


18世紀後半,イギリスに誕生した近代サーカスは,19世紀半ばになるとアメリカにおいても盛んになってくる。その中心人物は,アメリカの歴史上最大の興行師といわれるP.T.バーナムである。しかし,舞踊史上最大の興行師であるディアギレフについて語られるのとはちがい,バーナムに対しては舞台芸術オーガナイザーとしてある種のリスペクトをもって語られることがない。
(中略)
バーナムが大成功するきっかけとなったのは,いわゆる「奇形」見世物なのである。つまりその時代に人体の「奇形」とされるものを見世物にするという,現在から見ればきわめて差別的な意図が根底にある。人権という意識が国際的にも広く流布している現在,この種の慣習はほとんど見ることができない。ただしこれは姿形を変えて「フリークショー」とかサイドショーと呼ばれるものとして数こそ少ないが残存している。1870年代バーナムはこのような「奇形」見世物と動物芸,それに加えて人間のアクロバットを統合し,他の小さなサーカス団吸収して自分のサーカスと合体させ,これが文字通りの「地上最大のショー」(The Greatest Show on Earth)に発展してゆく。

PDF資料石井達朗 慶應義塾大学名誉教授 (2010年) シンポジウム報告 サーカス ― 異種・異物陳列のスペクタクルを巡って ―, 舞踊學 第33号,17


"世界は騙されたがっている"
"世間の目を引くためなら質など問わない"
"批評が肯定的であれ否定的であれ、注目があれば成功できる"

といった信念を持っていたとされるバーナム。

Image from page 251 of
Image from page 251 of "The life of P.T. Barnum" (1855) / Internet Archive Book Images


人権とか差別とか配慮、動物愛護といった問題が噴出しやすい現代の感覚からすると、バーナムのような人物をメジャー映画の主人公に置くということ自体、違和感として苦いものが残るのも当然なのかもしれません。


というのも、映画の中でバーナムは「人と違うことをするのが大事」「皆違うから輝くんだ」など口当たりの良い言葉を並び立てながら、一方で好奇の目にさらされたサーカスのメンバーを「目立つから」という理由で社交界の場から締め出そうとする。一座の芸人たちを"見世物"として金儲けの手段とする姿も描かれているので、私が予告編を見て勝手に期待していた「みんなの居場所と希望を守るんだ!」的な熱いものとはちょっと違うバーナム像になっていたからなんですね。



「人々はユニークなもの、センセーショナルなものを求めるはず」と、それまで好奇の目に晒されることを恐れて隠れるように生きてきた身体的・人種的にハンディのある人たちを次々にスカウトしていきます。「君みたいなスターが必要なんだ」とか「皆に好かれるよ」とか「誰もが特別なんだ」なんて言いながら。


で、肥満人間にクッションを入れてもっと大きく見せるなど「嘘、大げさ、まぎらわしい」のJAROが泣いて出てきそうな誇大広告の数々で、人々の興味や好奇心をかき立て大儲けするバーナム氏。←アメリカン・ドリーム万歳!の図




記者のジェームズ・ゴードン・ベネット氏(ニューヨーク・ヘラルドの創設者です)「フェイクだ!」などと批評されても注目を浴びることで嬉々とし、「ペテン王子」(Prince of Humbug)という酷評ですら「いただきました!」とばかり冠のごとく頭に載せて堂々と話題にしてしまう。「悪行も宣伝だ」「セレブレーション・オブ・ヒューマニティだ」なんて言ってのけるバーナムの狡猾さを、映画は愉快に描いています。・・・私はどこぞの大統領を思い浮かべましたけどね。

ですから、そんな彼の姿を【いかがわしいペテン師の王者】と見るか、【想像力豊かなエンターテイナー】と見るかで、この映画への印象も変わってくるのだと思います。



・・・因みに。
映画の中でバーナムが象に乗ってやってくる!という、とてもファンタジックな場面がありますよね。

実際、バーナムは1882年にロンドン動物園から買い取った"Jumbo"(ジャンボ)という象を「高さ4mの巨大象!!」として大アピールし、数多くの人々がジャンボ見たさに集まったと言います。本当は3.25mだったのですが。しかし、ジャンボはカナダの鉄道構内で機関車に衝突されて死亡してしまいます。バーナムは僅か3年でドル箱スターを失ってしまうわけですが・・・・ただで転ぶような彼ではありません。「若い象を助けた」という美談に仕立て上げ、ジャンボの骨格はアメリカ自然史博物館に寄贈しつつ、皮は剥製にして巡業に連れて回り、入口に飾ることでまたそれを見たさに観客たちが押し寄せたと言います。

史実を思うと・・・・、この素敵なシーンにもちょっと苦い味が残ってしまうのです。




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一方、この映画のもう一つの大きなテーマ。


社会的に弱い立場にある者が差別や偏見と闘うという、現代で生きる私たちの世界と重なり合うものを感じずにはいられない「This is me」のシークエンス。

とにかくズバ抜けていました。
ただただ圧巻です

そして、なんということでしょう、この部分のメッセージ性があまりにも情熱的で胸を打つものなので、映画の中で完全に突出してしまい、物語の主軸さえも吹き飛ばしてしまった!ように思うのです。

身体的・人種的なハンディを持つが故に「あなたには価値がない」と不当に虐げられた者たちが立ち上がり、浴びせられる嘲罵の中、声を上げ、自分自身を鼓舞して前進していくこの力強さ。"異形のヒーロー"という意味では「X-MEN」ぽくもあり、ウルヴァリン・・・じゃなくてバーナムさんのお話が吹っ飛びそうなほどのスケール感でここにそびえ立ってしまったのです。



彼らが勇気をもって立ち上がる姿を見て思い浮かぶのは、セクハラ問題で【#MeToo】に続く【Time's Up】のムーヴメントや、人種問題などで揺れるアメリカ社会の現状。「自分の生き方は誰にも邪魔させない」「自分らしさを諦めない」という声が日毎に大きくなりつつある今日の世界です。ですから、どう考えてもこの映画のメッセージ性は「This is me」側に重きを置くべきだったと思うんですよね。どんな力にも屈しないで、あなたはあなたのままでいいんだよ、という。

そして、制作側も恐らくそれに気づいたのでしょう。これはきっと大きな共感を呼ぶに違いない!と。史実はどうであれ、映画の中で彼らは最後に「あなたは私たちに"居場所"を与えてくれた」「本当の"ファミリー"に出会えた」という感謝をバーナムに伝えるくらいなのですから。・・・ちょっとこのあたり「先生やめないで」って訴える生徒たちに囲まれた【3年B組金八先生】みたいでしたけど。


ただ、先述した通り、この映画の"バーナム像"というのは、仲間を守る!といったX-MENのプロフェッサーX的な存在ではないため、彼らが急に「ありがとう!」と言ってくれてもなぁ~という微妙な空気になってしまうのです。しかも、元々このフリークショーのアイディアは(娘の言葉から出たものとはいえ)、食べるものもなく絶望の淵にいた少年時代のバーナムを救ってくれた"リンゴの少女"を思い出すところにあったわけで・・・・。少年バーナム君は少女に"優しい心"を見たのではなく、彼女を"フリーク"として見ていたのか・・・と思うと私はちょっとショックでした。

この辺りに躓いてしまった私には、バーナムとサーカスメンバーたちとの関わり合いや盛り込み方がやや弱く思え、物語の主軸がブレた印象が残ったのでした。




ですからねぇ、逆に考えてみればですよ・・・
これはもう【家族愛】だとか【ハートフル】だとか【ヒューマニズム】なんかを完全に断ち切ってみる方法もあったかと。

誇大広告をバンバン打って、火のないところにマッチポンプでボウボウ燃やす炎上商法を使いまくって、"得体のしれない存在"に興味を惹かれてしまう人間の心を巧みに操る「THE GREATEST SHOWMAN」としての、商魂逞しい人生をとことん際どく描いてしまえば、それはそれで興味深い人物像に迫ることも出来て面白かったんじゃないかなぁ・・・・


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なーんて思っていたらやっぱり!でした。

”当初は、ショービスの誕生やマーケティングなど、バーナムが築いた今のエンターテイメントのオリジンを探ることがメインだったけれど、「This is me」がすべてを変えてしまった”・・・という記事を雑誌【SCREEN】のヒュー・ジャックマンへのインタビュー記事で発見したのです。(※詳しくは 2018年3月号でどうぞ!)

そうか~、やっぱりそうだったのかー。『グレイテスト・ショーマン』という映画は差別やマイノリティの物語へと方向転換していたのですね。「This is me」パワー、恐るべし。




そもそも、本作の企画が動き出したのは、2009年にさかのぼる。「ドリームガールズ」などを手がけたプロデューサー、ローレンス・マークは、ジャックマンが司会を務めたアカデミー賞授賞式の番組に共に取り組み、ジャックマンの仕事にかける情熱に心を動かされた。「“この人は地上最高のショーマンだ”と思ったとき、P・T・バーナムのことが浮かんだ。それで、彼に『バーナムのミュージカルを作るべきだ』と提案した」(マーク)。

「グレイテスト・ショーマン」レア映像入手!製作のゴーサインが出た決定的瞬間を公開【映画.com】


映画の構想段階から完成まで約8年も経っていますもんね。価値観や興味などが次々に変わっていく世界ですから、今求められているもの、人々が見たいと思っているものが、もしかしたら「This is me」の方へと大きく傾き、映画の構成や宣伝なども含めて軌道修正した痕跡を、私は"違和感"として覚えたのかもしれませんね。




そう考えると・・・・
宗教による道徳観の縛りがあった時代から、長きにわたって興味の移ろいやすい人々の心を掴み、アメリカの大衆文化を代表する娯楽にまで「サーカス」を発展させ、その文化を根付かせたP・T・バーナムという人は、真の【ザ・グレイテスト・ショウマン】だったのだなぁと思わずにはいられないじゃないですか!

実際、洗練された芸術様式とはかけ離れたあまりに世俗的なものだったので、バーナムの作り上げた世界は"不道徳"という批判もあったのでしょう。しかし、あらゆる階級・人種の人々が集うスペクタクルな空間が労働者階級の人々の娯楽の場となり、パワーとなり、さらに容姿や奇病などで自分自身を受け入れられなかった一座の芸人たちの"居場所"となった・・・それを敢えて現代風に解釈し、現代の物語として映画に置き換えたことがこの作品の魅力ではないかと感じるのです。

史実に基づいた歴史もの、というわけではないですもんね。

人間「もっと!もっと!」という欲が出るけれど大切なのは家族なのです、というお話にキレイに収まった映画『グレイテスト・ショーマン』でしたが(笑)、映画の後、エンドロールの間に映し出されるまるで夢のようなコンセプトアートが本当に素敵でした。どうぞこちらもお楽しみに!



第75回ゴールデングローブ賞で見事「最優秀歌曲賞」(主題歌賞、Best Original Song)に輝いた「This is me」。来月3月に行われる第90回アカデミー賞の「主題歌賞」にもノミネートされており、もうこれは絶対獲ってほしい!私なんて試写会が終わってこの二日間くらい「おーぅおーおーおーぅ!」ってずっと歌っています。憶えやすいんだもの。

グレイテスト・ショーマン(サウンドトラック)



『グレイテスト・ショーマン』
映画館のスクリーンで沢山の人と一緒に"体感"するのがオススメです






※『グレイテスト・ショーマン』に関連する参考文献はコチラ!
映画とは異なる"PTバーナム"という人物への興味がますます湧いて面白くなってきます






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