『シェイプ・オブ・ウォーター』 (2017/アメリカ)

はなまるこ

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●原題:THE SHAPE OF WATER
●原案、脚本、製作、監督:ギレルモ・デル・トロ
●出演:サリー・ホーキンス、マイケル・シャノン、リチャード・ジェンキンス、ダグ・ジョーンズ、マイケル・スタールバーグ、オクタヴィア・スペンサー 他
●口の利けない孤独な女性イライザは、政府の極秘研究所で掃除婦として働いていた。ある日彼女は、研究所の水槽に閉じ込められていた不思議な生きものと出会う。アマゾンの奥地で原住民に神と崇められていたという“彼”に心奪われ、人目を忍んで“彼”のもとへと通うようになる。やがて、ふたりが秘かに愛を育んでいく中、研究を主導する冷血で高圧的なエリート軍人ストリックランドは、ついに“彼”の生体解剖を実行に移そうとするのだったが・・・。





この映画の時代設定は、1962年のアメリカ。

旧ソ連との宇宙開発競争に遅れをとるも、初の地球周回飛行を成功させて米国が自信を取り戻した年でもあり、ハリウッドが生んだ永遠のセックスシンボル、マリリン・モンローが急死した1962年。キューバ危機による核戦争への恐怖。ベトナムへの本格的な軍事介入への道。保守的で排他的な空気と、過熱していく公民権運動。キング牧師による演説「I Have a Dream(私には夢がある)」のワシントン大行進と、ケネディ大統領暗殺事件の前年でもあり、世界はローリング・ストーンズやビートルズのデビューを目前にして、未来への期待と混沌の渦の中。

世間では人種間の緊張が高まり、豊かさを求め、強いものが争う・・・そんな時代なのに、この映画に登場するのは、発話障がいのある中年女性とアフリカ系女性の同僚、ゲイの隣人、虐げられるアマゾンの半漁人。そして、そんな彼らをまるで"古き良きアメリカの香り"で包み込むかのように流れるグレン・ミラーの甘美な音色「I Know Why」。映画館の上の部屋でテレビに映る夢のようなクラシック・ミュージカル映画の数々。


私、好きでしたねぇ。この映画・・・・・

なんだか体中にまわった毒がゆーっくりと効いてくるように、ファンタジックでダークな夢のようにも見えたり、無垢で慎ましいピュアな世界にも見えたりして・・・。ジャン=ピエール・ジュネ監督の『デリカテッセン』や、テリーギリアム監督作品から漂ってくるような、不快感寸前の生々しいユーモア!好きなんですよ。あぁ、なんだかちょっと懐かしいような気持ちで観てきました。


以前にデル・トロ氏が監督・製作・脚本を務めた『パンズ・ラビリンス』や製作総指揮をとった『スプライス』といった作品たちに較べると、作品・監督・作曲・美術部門でオスカーを獲ったこの『シェイプ・オブ・ウォーター』は、意外にも(良い意味で)捻り過ぎず、わかりやすく、ストレートで、映画愛に満ち満ちたチャーミングな物語になっていたなぁと感じました。



、だからと言ってですね、「オスカーを獲ったし、ロマンス要素ありだから初デートムービーにオッケー!」とか「怪獣系だからコドモ連れでオッケー!」なんて、もうそれだけは口が裂けても言えないですよ。だって、この映画間違っても「女性はふんわり良い香りがして、柔らかくてスウィートなもの」だと思い込んでいる方や、「主人公が"オバサン"というのがチョットね・・・・」という方々には完全不向きかと思われます。じゃないと「不謹慎ザマスー!!」なーんて不快に思う方もいるかもしれない。因みに私は大好きでしたけどね。ふっふっふ。





わたくし先ほど主人公を「オバサン」と書きましたけれど、これがもうトンデモナイ!と思いまして。

サリー・ホーキンスは確かに若くはなく、見た目は小柄で細身、肉体的な魅力からは程遠く、どちらかというと枯れた中年女性であり(ゴメンナサイ)、口元横のほうれい線もクッキリ。誰かに一目惚れされるような外見などではないんですよね(本当にゴメンナサイ)。


でも、映画を観ているうちに、全身から発せられる彼女の"美"に見とれてしまいました。すっと伸ばした背筋や、真っ直ぐで強い意思持った瞳。彼女のゆったりとした身のこなしは、たとえ掃除婦の姿をしていてもそれはそれは美しくて。ほっそりとした体のラインを見せる一糸纏わぬ姿なんて気品すら漂わせているのに、悪戯っ子のように微笑んでみせる表情は少女のよう。イライザはまるで、住む世界を間違えてしまった王女様のようでした。

そんな彼女が、ありのままの自分を受け入れてもらえること、相手をありのままに愛すること。"恋に落ちた理由"を怒涛の如くワーッと手話で説明するシーンがあるのですが、こことっても大事なところなのに、なんだか一方的に気圧されてしまって「お、おぅ・・・・」としか言えない状況になってしまった。半漁人さんとの心のやり取りをですね、もうちょっとだけじっくり見せてほしかったなぁと思います。見ようによっては餌付けしているようにしか見えなくも・・・・(省略)。




ただ、ラストは久々に"映画的"な夢を見せていただいて感激でした。

イライザは靴をたくさんたくさん持っていて、それをいつも幸せそうに丁寧に磨いていたこと。隣人で友人のジャイルズと並び、軽やかなステップで踏んで笑っていたこと。一人でそっと床を蹴って、タップダンスの真似事をして密かに楽しんでいたこと。彼女が"脚"を使う幸せを大切にしていたことを一気に思い出したからです。

だから、もしかしたら・・・・

ずっと遠い昔、イライザは人間の世界に憧れて声を失った人魚の世界のお姫様だったのかもしれない。もしかしたら、たった一人この世界に生きてきて、靴など必要のない水の世界でやっと分かり合える相手に巡り逢えたのかもしれない。

もしかしたら。もしかしたら。

そんな風に"もう一つの物語"を映像によって観る者に想像させてくれること。おとぎ話のように語ってくれること。そんな思いが自分の中にワーっと押し寄せてきて、映画への愛を感じた私は胸がいっぱいになってしまいました。



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『艦隊を追って』(1936/アメリカ)で見せた、フレッド・アステアとジンジャー・ロジャースの洗練された優雅なダンス。



そんな夢のような世界をそのままに、現実ではタマゴをもぐもぐしている"彼"と踊り歌い上げるイライザの姿は微笑ましくもあり、イライザの美しい魂そのもののようでもありました。彼女だけの宝物のような夢の世界を大切に見せる、メキシコ人で情熱を持つオタクのデル・トロ監督の技。

映画って素敵だなぁ。







あ、そうそう。
この映画でいわゆる"悪役"に徹したストリックランド。私は、もう彼がなんだか哀れで哀れで。過ちを犯さず、常に"強い男"であり続けなければならない時代の重圧を感じさせて物悲しくもあり、どちらかというと半漁人くんよりも彼の方が気になって仕方ありませんでした。

トイレで用を足した後、威張り腐っているでしょう?ドン引きされているのに。欲望を満たすことだけを優先した、あまりに即物的なベッドシーンなんて滑稽でしょう!声を出せない者に音を上げさせる(支配する)ことに興奮を覚える人なのに、上司から「ぐうの音も出ない」ほど散々言われた挙句、鏡に向かって自分を鼓舞しても愛車はボコボコにされてしまう。パワハラでイライザに迫ったくせに「おれは一体何をやっているんだ・・・」なんて我に返ったりして。

本作の脚本は、デル・トロ監督が出演者を想定して“当て書き”(ジャイルズ役はイアン・マッケランを想定)したそうなのですが、ストリックランド役のマイケル・シャノン、これは役者冥利に尽きるでしょうねぇ(笑)。



毛髪を失って力をなくし、再び髪の毛を得て復讐を果たした旧約聖書のサムソンの話ではありませんが、友人役のリチャード・ジェンキンスが本当に素敵でした。荒唐無稽なこの物語に、ユーモアと包容力と優しさを注いでくれたジャイルズ。孤独で居場所がないと嘆いていた彼こそが、イライザを幸せにしてくれた一番の立役者でしたね!



それでは最後に、ギレルモ・デル・トロ監督の興味深かったインタビューから一部を引用させていただきます。


パイやキャンディ、車のほか、(イライザたちが働いているアメリカ政府の機密機関の)研究室にも緑を用いています。そして、イライザのアパートの室内も。水の中のように、青緑色で統一されています。一方、隣人のジャイルズや同僚のゼルダ、ホフステトラー博士など彼女以外の登場人物の家には、オレンジや琥珀など温かみのある色が使われていて、太陽や風などを彷彿とさせます。ただ、イライザのアパートで唯一異なる色が使われているのが、ドア。外の世界へと通じるこのドアは、階下にある映画館の扉と同じく、赤に塗られています。また、「彼」と恋におちたイライザは、赤色のものを身に着け始めますね。赤は、愛や血などを表現する場合に用いています。

実はこの映画にはもう一つテーマがあって、それは“時間”なんです。この映画の舞台となっている1962年は、アメリカ人が未来に目を向けている時代。作中にも「You’re the man of the future(あなたは未来を生きる男です)」、「The future is green(未来は緑です)」など、未来に関するセリフが登場します。ちなみに、最初のセリフは、アメリカ政府のエリート調査官ストリックランドが車を見ている際にカーディーラーから掛けられる言葉。この直後に、ストリックランドは、teal(「鴨の羽色」と呼ばれる、青緑色の一種)の高級車キャデラックを購入します。このように、ストリックランドは未来に生きようとしていますが、過去にとらわれている登場人物がいたり、現在を生きている人もいたり、と“時代”も本作のテーマになっています。色は“時代”を表すためにも用いられているんです。

ありのままの相手を想う、心からの美しい気持ち『シェイプ・オブ・ウォーター』監督インタビュー【シネマズby松竹】


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