『悪人に平穏なし』 (2011/スペイン) ※あらすじメモ&ネタバレ解釈いってみましょう!

はなまるこ

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悪人に平穏なし Blu-ray


●原題:No habrá paz para los malvados  英題:No Rest For The Wicked
●監督、脚本:エンリケ・ウルビス
●出演:ホセ・コロナド、ロドルフォ・サンチョ、エレナ・ミケル、フアンホ・アルテロ、ペドロ・マリア・サンチェス、ナディア・カサード 他
●ある事件をきっかけに、すっかり落ちぶれてしまった中年刑事のサントス。そんなある日、マドリード市内の酒場で揉め事を起こし、酔った勢いで3人を射殺してしまう。とっさに証拠隠滅を図るサントスだったが、現場から逃げ出した目撃者の存在に気づき、その足取りを追い始める。やがてそれは、恐るべき計画を準備するテロ集団へと繋がっていくのだが・・・。本国スペインのアカデミー賞“ゴヤ賞”で、作品・監督・主演男優を含む最多6部門を受賞した作品。





獰猛な面構えでアルコール中毒。不愉快千万、嫌悪感満載。予測不能で、何を考えているのか全く解らない。で、悪人か!と思っていたら、なんとこれが刑事で主人公とは!

ほぼ何の説明もないままただただ突き進んでいく、2011年スペインで最も評価の高かった『悪人に平穏なし』を今回はチョイスしてみました。


登場人物のバックグラウンドがほぼ描かれず、なのに映像からの情報量は多くて、おまけに登場人物の見分けがつかず、異国の人物名が覚え切れないとあって、一度観ただけでは半分も飲み込めなかった私。「・・・・あんだって??」のバカ殿様状態で観終えたのですが、これは暑さのせいなのか、最近理解力が落ちてきているからなのか・・・・不安だ。

なんでも丁寧に解りやすく教えてくれる映画ばかりを観ていたせいなのか、こうやって「自分の目と頭で考えろ!ついて来れる奴だけついてこいっ!」みたいな作品に当たると俄然ファイトがわいてくる私。スペイン語の作品なので、huluの字幕版と吹替え版で各カットの繋がりなんかを徹底的に観て、それでもようやく半分くらい理解できたかも。いやー、もうこれはほとんど闘いですよ!


ですので、今回はいつもの映画感想とは異なって「誰が誰と繋がっていたのか?」「何が起きてどうなったのか?」「そもそもこの人は誰なの?」と、頭の中が????状態だった自分のために『悪人に平穏なし』の【あらすじ】をまとめておくことにしました。そして、自分なりに理解できた範囲内でこの物語に対する解釈なんかを最後に載せてみることにしました。そのため、未見の方にとっては大変不親切な記事になっているかと思います。何卒ご了承ください。







●映画の冒頭、主人公サントスが≪Club Leidy's≫で射殺したのは
【ペドロ・バルガス】:店主らしき人
【ウーゴ・アングラーダ】:用心棒の男
【イングリッド】:女主人


●証拠隠滅&身元確認等を遅らせるため、彼らの携帯電話やら財布、監視カメラのディスクなど全て押収してくるサントス。押収物や薬莢はすべて廃棄し、銃を特定されないように自分の銃のライフリングを削ったりも。サントスぬかりなし。


●帰宅後、確認した監視カメラの映像には【ペドロ・バルガス】【ウーゴ・アングラーダ】、そして逃走した【目撃者の黒髪リュック男子】が金の受け渡しをする場面が残されていた。



●証拠隠滅のために取ってきた【ペドロ・バルガス】の携帯電話履歴から【アウグスト・ロラ】というコロンビア人の名前を知ったサントス。職場でこっそり、ロラの2004年の麻薬密売逮捕(detenc on fpor trafico de drogras 2004)やら、他の犯罪履歴を確認する。



●もう一人の殺した用心棒【ウーゴ・アングラーダ】の財布にあったホテルのカードキーで、彼の部屋に侵入。物色して赤い車のキー発見。車内のカーナビの履歴から"トリブレッテ通り21番地"を知る。



●トリブレッテ通り21番地のアパートへ行ってみるが特に大きな収穫もなく、入口の集合ポストを見た後外へ出る。通りのベンチに座って周りの人々に目を移す。移民やイスラム系の人々、明らかに裕福な人々の住む町ではないことがわかる。


※↑ここですよ、サントスが何か思いあぐねているような表情を見せるんですね。このカットだけ他と違ってサントスの微妙な表情を映し出していたので気になりました。射殺した【ペドロ・バルガス】がコロンビア出身であり、逃げた【目撃者の黒髪リュック男子】をマグレブ系(北アフリカ系)と睨んだ上で、コロンビアマフィアとモロッコとのキナ臭い関係に足を突っ込みつつある自分の立場を確認し、そこでコロンビア系と繋がりのあるモロッコ系情報屋のRachid(「ラチド」と呼ばれていましたが元はアラブ人名の「ラシッド」ではないかと)を思いついたのかなぁ、と。


●で、今度はどこかのクラブへ出向き「ラチドを見たか?」「ラチドはどこだ?」「まだセリアと一緒か?」と、【ラチド】を探し回るんですね。セリアという女性の家へ行って「あいつはだまコロンビア人と繋がりがあるのか?」と聞くサントス。


●次の手として、今度は【アウグスト・ロラ】(真ん中)が経営するクラブ「サラ・マチュカ」へ。【お調子者で情報屋のラチド】(右)を見失うも【アウグスト・ロラ】と話していた【金髪ベスト男(フラビオ)】(左)が車に乗り込むのを駐車場で発見。今度は彼を追って深夜のファミレス?へ。



●で、そこで彼らを見張っていると、なんと【目撃者の黒髪リュック男子】が現れて合流するのを発見。サントス、店を出た彼らの後を追跡し、どこかのアパートに到着。その間、車の所有者情報を署に問い合わせるも全く別人の情報だった。盗難車?協力者の車?なのかな。



●銃を構えて部屋の中を窺うも、【もう一人の人物】が入るのを目撃したためアクションは起こさず。



●車の中で張り込み?寝ていた?サントス。翌朝、【目撃者の黒髪リュック男子】【もう一人の人物】が車に乗り込んだのを見て追跡。彼らがバスターミナルで【金髪ヒゲの白人】(真ん中)を迎えるのを確認し、また移動。しかし、サントスまかれて悔しがる。



●で、今度は【目撃者の黒髪リュック男子】が入っていった例のアパートへ戻って侵入。物色。このアパートの所有者の家へ行くことに。所有者夫婦の娘【パロマの夫】は、市内にあるタンジール文化協会でアラビア語を教えていたことが判明。そこへ行ってみると、【パロマの夫】【お調子者ラチド】が一緒に映ったサッカーの写真が飾られているのを発見。



【お調子者ラチド】をふん捕まえて、【パロマの夫】=【セウティ】の名前と情報を得る。郊外にある【セウティ】の家へ案内させるが、誰もいない。



●もう一度"トリブレッテ通り21番地"にある集合ポストのあったアパートに戻ってみる。地下に置かれた消火器を目にするサントス。



●他に情報が掴めないまま向かいのバルに行き、ラムコークを一杯飲んで外に出ると、赤いバンに消火器を車に詰め込む【セウティ】たちを発見「ようし、いいぞ!」追跡して郊外の倉庫へ。



●倉庫へ入っていった赤いバンとは違う車が出てきて、今度はそれを追跡。駅に到着。【目撃者の黒髪リュック男子】が一人で降りる。彼はサントスをまこうと誰かに電話。サントス、通路で何者かに刺される。
 


●サントス、自宅で傷口を縫合。幼い我が子を笑顔で抱きしめている写真が飾られるベッドサイドで銃の準備をする。しかし、そこに元同僚のレイバが現れ、召喚されてチャコン判事に尋問される。しかし、証拠不十分で釈放される。



●野に放たれた野獣の如く、でかい銃を構えて一人で【セウティ】たちがいた倉庫へ向かう。しかし、中はもぬけの殻状態。ふと、ブレーカーに書かれているアラビア語に気づく。以前、郊外にある【セウティ】の家に行った時にも書かれていたものだ。そして、サントスは郊外にある【セウティ】の家へ単独で乗り込んでいく・・・・!!






以上が、主人公サントスの行動の流れです。



この間、チャコン判事やレイバたちによる捜査が事件の真相に近づきつつ、その裏にあるコロンビアマフィアとモロッコのテロリストの繋がりが徐々に明らかになっていく、という展開になっています。

例えば、サントスが射殺した【ウーゴ・アングラーダ】は別名【アンドレス・ダビド・ウルタード】で、彼はコロンビア革命軍(FARC)の殺し屋で国際手配犯だったことが分かります。サントスは、最初のバーでとんでもない現場に居たことがわかるんですね。そして、チャコン判事が【中央対外情報局】の部長やメリダ捜査官らと話す内容からも、モロッコテロリストのリーダーが【セウティ】だということも明らかになってきます。

しかし、この【中央対外情報局】の部長とやらが全くやる気のない奴で。


【セウティ】のことを「バルセロナに移動した後に見失ったんすよ」「ま、バルセロナにはいないでしょ」「アフガニスタンやイエメンで目撃はされたけど、頻繁に動くから監視していても突きとめることも検挙することも至難の業なんすよねー」ということをヘラヘラと話すんですね。

2004年にスペイン・マドリードでラッシュ時の鉄道で同時多発テロが起きるという悲惨な出来事がありましたが、実は情報をしっかり精査・把握し、捜査機関どうしの情報連携があればこのテロは防げたのではないか?という批判。この視点を、この映画ではここに反映させているのでしょう。




これより先は『悪人に平穏なし』のラストに触れています。ネタバレになりますので、まだご覧になっていない方や、これから観ようと思っている方はご注意ください。


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※サントスの過去


この映画のそもそもの発端、≪Club Leidy's≫で【ペドロ・バルガス】が登場した時のことです。

それまでサントスは誰に対しても「飲ませろ飲ませろ」の一点張りで、誰に対しても高慢で高圧的、尊大で横柄な態度をとりまくっていたにもかかわらず、バルガスの登場後、急に押し黙って彼の顔を凝視し、口元から酒をこぼし、グラスをうまく持てずにテーブルへ落とすという明らかに異常な行動を見せました。単なる酔っ払いの動きにも見えるかもしれません。しかし、映画を何度か観直しているうちに、まるでこの時のサントスだけが別人のような動揺を見せていることにずっと引っ掛かりを感じていました。

そう。もしかしたら、サントスはバルガスのことを知っていたのではないでしょうか?


 家族の喪失もそうですが、過去にサントスがコロンビアで関わった事件が現在の荒んだ生活の発端になっている。けれど、その事情も具体的には出てこないですよね。彼がバーで起こした殺人はコロンビアと繋がりがあるのか?と思われますが、そこにも説明はありません。

エンリケ・ウルビス監督:私の考えを言うと、最初に彼が引き起こす事件は偶然の産物なんですよ。実際、コロンビアのコカインがアフリカのセネガルを経由して入ってくるというコネクションは存在します。そして、それがテロの温床になっているということも確かです。それと主人公が過去にコロンビアにいたという話も確かに繋がってはいるのですが、事件は偶然。でも、「いや、そうじゃないでしょう」と思う観客がいるかもしれませんね。

スペイン・アカデミー賞受賞『悪人に平穏なし』エンリケ・ウルビス監督インタビュー:「この映画で描いているのは、一人ひとりのちょっとした間違いが悲劇に繋がってしまうということ」 【映画と。】


うーむ。
ウルビス監督によれば、サントスがクラブ・レディースに行ったのは偶然だった、事件も偶然だったとのことです。が、射殺した【ペドロ・バルガス】との"繋がり"については言及されていませんよね・・・・。最初に観た時は、ただの飲み過ぎのアル中男がブチ切れたようにしか見えなかったのですが、二度三度観るうちに、サントスが彼を見て何かを思い出しているのか、或いは思い出したのか。この映画の中で、最後まで決して見せなかった表情を見せていることが気になりました。

彼は車に戻った後にハンドルをぶっ叩き「取り返しのつかない最悪のことをやってしまった!」という表情を見せるのですが、実はその後悔とは、決別しようとした過去に引き摺り戻されることへの怒りに似た思いだったのではないか?と思うのです。


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サントスの人生のターニングポイントとなったのが2003年ということは分かっています。
彼がコロンビアのスペイン大使館に配属されていた時期のことです。作戦の最中に弾詰まりを起こした銃が暴発。パートナーだったルイス・マリア・サンチェス・ナヘラが重傷を負って下半身不随になり、2年前に亡くなっているとのこと。

更に、コロンビア警察によると、サントスが張り込み中に銃が暴発したというちょうどその日にカリ郊外のスラム街で銃撃戦があり、麻薬カルテルのトップ二人が死亡。当初、コロンビアの警察当局はこの二つの事件は関係があると考え、サントスのパートナーだったナヘラがこのカルテルと関わりがあると疑っていたようです。

実はサントスが射殺したこの【ペドロ・バルガス】は銃撃戦のあったコロンビアのカリ出身であり、奇しくもこの事件と同じ2003年にスペインに来たと報告されているシーンがありました。そして2004年にはコカイン密輸事件に関与→しかしロラと共に不起訴に・・・・


もしかしたら。
サントスのパートナーはコロンビアの麻薬カルテルと繋がりがあった汚職警官で、それを知ったサントスがトラブルに巻き込まれたか、狙われたか、或いは狙ったか。少なくとも、サントスはこの事件以降、警官としての正義や誇り、家族や人間として大切なものを全て失ったのでしょう。たぎるような怒りと虚無感を抱え、破滅的でアルコールに走るだけの荒んだ人生に。

そして、カルテルの抗争で生き延びた、或いはそれを契機に力を伸ばしたバルガスがコロンビアを離れ、マドリードへと拠点を移していたのかもしれません。


サントスは殺害現場の証拠隠滅を図る際、用心棒の【ウーゴ・アングラーダ】の身元確認はしているのに対し、【ペドロ・バルガス】の確認はしていませんでした(←少なくとも映画ではそういったカットはなく、バルガスの携帯が鳴って初めて近寄ったことになっている)。

自宅で監視カメラのチェックをした際も、映画はまるで【目撃者の黒髪リュック男子】の口封じを目的としているかのように映していましたが、実は金の受け渡し場面を確認したサントスは【目撃者の黒髪リュック男子】を追うことでバルガス(コロンビア・マフィア)の資金の流れが掴めるのではないか?と、既にこの時から大きな覚悟を決めていたのではないかと思うのです。

そしてそれは、トリブレッテ通り21番地のアパートに行った際に、コロンビア・マフィアとイスラム系の繋がりに気づき、モロッコ系の情報屋ラチドを探し出すという行動へと繋がったのでしょう。


・・・・・と、まぁここまで堂々と書いてしまいましたが、これはあくまでも私個人の想像、妄想にすぎません。でもこのくらいこの映画の背景を考えると、極悪人一辺倒だったサントスへの印象もちょっと変わってきて面白いですよね!



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※人生の間違い、悲劇、その結果

『悪人に平穏なし』という映画では、スロットマシーンが出てくるシーンが2度あります。


ボーナスタイムにもかかわらず、まるでサントスの人生を表すからのように「金」「銃」「保安官バッジ」などの目が揃わず、悪態をついてサントスが煽るように酒を飲みまくるオープニングのシーンが一度目ですね。



そして二度目。
サントスが情報を求めて再度"トリブレッテ通り21番地"へ行った時のことでした。

いつものようにアルコールを入れたくなったサントスは、向かいにあるバルが目についてふらりと立ち寄ります。店の入口近くにあるスロットマシンからはボーナスタイムの「やったね!」の声が。いつものようにラム・コークを一杯ひっかけて外へ出たところ、彼は【セウティ】が消火器を積み込む場面に遭遇するのです。


そう。
彼のアルコール中毒が"助け"となって、テロ計画へと近づくことができたのです。もっと言えば、彼がクラブ「レディース」へ行き着いて飲もうとした酒が、結果として【ペドロ・バルガス】の元へと導いたとも言えるかもしれません。エンリケ・ウルビス監督の云うところの"偶然"に。

監督は、"この作品で描いているのは、人間一人ひとりのちょっとした間違いが、最終的に悲劇に繋がってしまうということなんです。"とインタビューで答えていますが、やはりその一方では、その"間違い"こそが新たな道へと繋がる選択肢にもなっていた、そんな役割をサントスが担っていた、とも私には思えたのです。


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最初と最後のポーズの一致は、“結局のところ、彼は最初から死んでいるようなもの”だということです。“デッドマン・ウォーキング”なんていう言葉もありますが、そういう意味です。手にしている銃は、サントスにとってかけがえの無い伴侶のようなもの。あのシーンで無造作に扱っているのは、彼と武器の親密な関係を表しています。彼は最初から死んでいるという暗喩。そして、夜のシーンから始まって、昼のシーンで終わるというのも、サントスの行動の流れとして最終的に完結していると考えています。

スペイン・アカデミー賞受賞『悪人に平穏なし』エンリケ・ウルビス監督インタビュー:「この映画で描いているのは、一人ひとりのちょっとした間違いが悲劇に繋がってしまうということ」 【映画と。】



No rest for the wicked
神に逆らう者は巻き上がる海のようで 静めることはできない。その水は泥や土を巻き上げる。 神に逆らう者に平和はないと わたしの神は言われる。

旧約聖書「イザヤ書」57章 20-21節


宗教でよく"悪人"とは「神を信じない者」と言われますが、映画の最初から最後まで、サントスはずっとクロス・ネックレスをその胸に光らせていました。相手が誰であれ、結果として殺人を犯してしまったサントスでしたが、一方で彼が救ったであろう命の多さを考えると、本当の"悪人"は一体誰なのだろう?と考えさせられるのです。何が善で、何が悪なのか?それは、捨て身だったからこそ可能だったサントスの行動と、もがき続けたであろう彼のこれまでの人生を考えることで、また新たに見えてくるのかもしれません。

そうそう。
消火器の"赤"が示すような特徴的な赤の色遣いや、カットの一切の無駄のなさなどが主人公の孤独をより一層際立たせていて、なんとも強烈な印象を残す映画だったと思います。時にはこういう映画を観て、目も頭も鍛え直さないといけませんね!


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