映画を読み解く 図書館の本棚(その2) 「顔に魅せられた人生」

はなまるこ

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読書するにも良い季節になりましたね!無性に本が読みたくなる時期到来です。

でも私は、こんな時代にもかかわらずダウンロードされた本を読むのが未だに苦手だったりします。実際に本の重さを手で感じながら、さらっと紙の感触をもってページを捲っていく感覚がないと、なんだかアタマに内容が入っていかない感じがしてどうも落ち着かないのです。それで今でもよく図書館を利用しているのですが、ここの映画関連の本棚が最近いよいよ充実してまいりまして!いやもう嬉しいやら困っちゃううやら。

フランシス・フォード・コッポラ、映画を語る ライブ・シネマ、そして映画の未来

↑割と新しい本も入ってくるので、時間を見つけてはちょこちょこと読みに行ったり借りてきたりしています。




今日は、今週借りてきたばかりの本をご紹介したいと思います。ちょうど今月からレンタルも始まった『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』にも関連する一冊です。





「顔に魅せられた人生」
辻 一弘(著) 、福原 顕志(構成) 宝島社 2018/7/13発行

もとの顔を思い浮かべれば、何をどうひっくり返しても「チャーチル役なんて絶対無理だろう!(だって顔の形が全然違うもん!)」と普通の人は諦めそうなところを、特殊メイクを施して熱演で挑んだゲイリー・オールドマン。この『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』で、オールドマンが遂に【アカデミー賞主演男優賞】を獲得したのは今年の3月のことでした。

彼はこの映画出演を受けるにあたり、一度は映画界から退いて現代アートの世界で活躍していた辻 一弘氏をメイクアップアーティストとして指名していました。辻さんを自宅まで呼び寄せ、「カズが受けてくれなければ私はこの役を降りるつもりだ」と懇願した(というか脅した笑)といいます。



↑ご指名 入ります!

大御所からの信頼も厚い辻一弘さん初の著書が、今回私が読んだ「顔に魅せられた人生」です。

長年ハリウッドで活躍してきたアーティストということで、どれほど華やかなで煌びやかな人生なのでしょう!と期待してページを捲っていくと・・・・第一章から辻さんの幼少期のことがこれでもか、とばかり丁寧に丁寧に語られていくのです。どうしてこんなことが書かれているのだろう?と最初は不思議に思っていたのですが、辻さんの育った環境が、その後彼に与えた影響が、どれほど大きなものであったのか、それが次第に痛いほどに伝わってきて、軽い気持ちで手に取った本でしたがあっと言う間に惹きつけられ、最後まで一気に読んでしまいました。


京都で生まれ、幼かった辻さんは親の感情に振り回される中で"自己肯定感"というものを持つことができず、蔑まされ、否定され、人間の表と裏を理解しようと一生懸命に人の表情をうかがっていたのだといいます。小さな男の子がお母さんにも褒められず、お父さんからもないがしろにされ・・・。そんな彼の記述には胸の奥をギュッと掴まれるような痛みを感じるとともに、でもそこから生まれたのであろう"人への観察眼"に対して、人生なにが良くて悪いのか、泣きそうな気持ちになりました。

でも、その観察眼はとても鋭くて、とても独特で、初めて黒澤明監督と会った時の印象でガチガチに緊張しまくっていたにもかかわらず「耳」の毛をよく見ていたというエピソードは、それまで真剣に読み進めていたのに思わずププっと笑いが漏れてしまうものがありました。



↑辻さんのアーティストとしての歩みが作品の写真と共によくわかるスピーチ(ロサンゼルスの日本総領事公邸にて)


どこかで満たされていない部分を抱え、常に自分に満足できず、新しいものを求めて挑戦しよう、努力を重ねていこう、そういった辻さんの姿勢は彼の力の源となり、そしてそんな彼の姿を必ず見ていて応援してくれ人たちがいたこと、そばにいてくれたこと。その幸運こそ、辻さんの直向きさや情熱が呼び寄せたものだったのだと思いました。

より良いものを創り上げよう、生み出そう。そうやって進化し続けるべく努力する辻さんは、デヴィッド・フィンチャー監督やギレルモ・デル・トロ監督、ブラッド・ピットといった映画界の人々と共鳴し合うものがあるようです。映画に対して細部にまで拘りを持ち、妥協せず、情熱と愛情を注ぎ続ける同じ類の人々。辻さんの目を通して垣間見ることの出来る彼らの人となりは一映画ファンにとっても大変興味深かったですし、彼らは本当に想像通りクリエイティブで才能豊かな方々なのだぁと感心させられました。

と同時にですね、"そうではない人たち"のバックステージ模様もとても納得のいくものでして。辻さん、大変な目に遭われたのですね・・・・・



『メン・イン・ブラック』では怪優ヴィンセント・ドノフリオをエイリアンに食べられた農夫エドガーに化けさせ、『バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲』『マイティ・ジョー』では辻さんが試行錯誤して作り上げていった技術(髪の毛や睫毛など一本一本の生え方や、瞳のレンズの作り方など)が、今やハリウッドでのスタンダードとなっているというのだから本当にスゴイ。ゆで卵を食べながら目をパチクリしていた『シェイプ・オブ・ウォーター』の怪人の、深い海の底を思わせるエメラルドのような瞳も印象的でした。

ティム・ロスにメイクを施した『PLANET OF THE APES 猿の惑星』『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』ではブラッド・ピットのCGの原型を、ジョセフ・ゴードン=レヴィットをブルース・ウィリスに寄せた『LOOPER/ルーパー』など。私が観てきた映画の世界には、辻さんがいたんだ!



顔が持つ造形的な奥行きが好きだ。人の顔には表面があり、形があって、そこに感情がつき、その中に考えがあって、真ん中に魂がある。それが表面にどう伝わっているのかを見るのは楽しい。そして、何を大事にしてどんなふうに人生を歩んでいくかで、人の顔は年齢とともに変わっていく。それを見るのが楽しい。それ自体が、わたしにとってはアートだ。

第7章 顔に魅せられ作品づくり 顔に魅せられた人生 宝島社 p209


自分を客観視できる辻さんの凄さというのは、もしかしたら"人の顔や表情を見ること、追求すること"="自分自身の内面を探ること"と同じだったことによるのかもしれません。決して恵まれたとはいえなかった家庭環境の中から、心から尊敬できる大人に出会えたこと・・・ディック・スミスという大きくかけがえのない存在を得られたこと。ここに深い愛が込められていることに胸打たれました。

辻さんの作られる2倍サイズのポートレイト。いつかこの目で実際に見てみたいなぁ。



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Posted byはなまるこ

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