『ザ・コンサルタント』 (2016/アメリカ)

はなまるこ

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ザ・コンサルタント[Blu-ray]


●原題:THE ACCOUNTANT
●監督:ギャヴィン・オコナー
●出演:ベン・アフレック、アナ・ケンドリック、J・K・シモンズ、ジョン・リスゴー、ジョン・バーンサル、ジェフリー・タンバー、シンシア・アダイ=ロビンソン、ジーン・スマート 他
●田舎町で小さな会計事務所を構える物静かな男、クリスチャン・ウルフ。他人とのコミュニケーションに問題を抱える一方、数字に対して超人的な能力を発揮する彼は、裏社会と繋がりを持ち、彼らの仕事を請け負っていた。アメリカ政府当局もその存在には気づいていたが、なかなか正体を掴めずにいた。そんな中、ウルフのもとに大手メーカー、リビング・ロボ社の財務調査という依頼が舞い込む。しかし、同社の経理担当デイナとともに使途不明金の解明に乗り出した矢先、調査は一方的に打ち切られてしまう。そしてその日から、何者かに命を狙われるウルフだったが・・・・。




表情のレパートリーが3つくらいしかなくて、これまで個人的に彼の演技に"深み"など感じたこともなく、ファンの方には大変申し訳ないのですがそのぬぼーっとした情感のなさがちょっと苦手だなーと思っていたベン・アフレック。



ところが!えーっ、この『ザ・コンサルタント』という映画、すごいじゃないですか。

ベン・アフレックのこのぬぼーっ感が彼が演じる会計士クリスチャン・ウルフにぐっとくるような重みのある存在感を与えていて、「これはぜひともシリーズ化された続編を観てみたい!」と思わせてくれるサスペンス・エンターテインメントにキリッと仕上がっていました。

前半は、主人公のミステリアスに見える行動と小出しにされる様々な情報とで割とじわじわとしたスローペースで進むのですが、ピッタリ1時間経過後に、これまで抑えめに描かれていた主人公の危険な面を強烈に見せ付けるのです。そして、後になって思い返すとどのシーンにも全く無駄がなかったことが分かるんですねぇ。最後の最後でピースがピタリとはまる瞬間がやってきた時・・・・・この映画が描こうとしていたこと、どんな人物の人生を見せてくれていたのかが静かに伝わってきて(個人的にも痛切に感じるものがあり)胸に迫るものがありました。

父と子・母と子の関係や、敵味方の識別、素性や経歴等々・・・若干モヤモヤっとする点はあるにはあるのですが、それを吹き飛ばしてしまうほどの絶妙な構成で、最後まで観るともう一度最初から観直したくなるという。これは拾い物だったわ~!と、わたくしちょっと興奮してしまいました。





ベン・アフレックが演じた主人公、クリスチャン・ウルフの魅力とは・・・・
彼は驚異的に数字に強い会計士であると同時に、インドネシアの伝統武術ブンチャック・シラットの達人でもあるという【無敵の最強会計士】であったります。ここはいかにも映画っぽい設定ですね。ところがもうひとつ、彼は自分自身がASD:自閉症スペクトラム症候群(障がい)であることをきちんと認識しているところに、この映画が観るものの心を惹き付ける力があるように思うのです。



この障がいの特徴は人によって出方が様々なので、それを「キャラの強い人だな」という"個性"や"才能"として認めてもらえることもあれば、世の中は何でも"平均"で物事を図るためそれよりも"劣っている"と感じると、本人が生きづらさを抱えて生きていくことにも繋がっていきます。

主人公ウルフの場合、彼は生活習慣の中に強いこだわりを持ち、一度始めたことは終わらせないと気が済まない。パターンを好み、几帳面で形式的には礼儀正しいけれど、相手の言葉をそのまま受け取ってしまったり冗談が通じないため、人とのコミュニケーションが円滑にいかない。車の駐車の仕方、ガレージを閉ざすタイミング。目玉焼きの数、食事の仕方。などなど・・・・

任務を完璧に遂行しようとする真っ直ぐな彼の特性と同様に、ウルフが得意とするブンチャック・シラットも、直線的で効率的、無駄のない攻撃性が特長なのです。



この映画の特典映像の中で、美術担当のキース・カニンガムはそんな彼の特徴を以下のように表したと述べています。


監督やベン(・アフレック)と話し合って、クリスチャンの日常から周辺環境を考えました。クリスのこだわりを美術にも反映させたのです。彼は自分が安心できる環境(safe zone)を作り出しています。布製品などは無地を好み、特徴のない部屋に住んで日常に潜んでいます。彼が生きる世界は、非凡なほどに凡庸なのです。彼は自分の頭脳の囚人ともいえます。その主題をセットでも表しました。彼が箱の中にいるように見せる仕掛けを多用したのです。


「自分が他の人とは違う」ことを幼い頃から強く認識させられ、それを乗り越えるために父親から徹底的に鍛えられ、独自の方法で世の中を生き抜いてきたであろうクリスチャン・ウルフ。感情をうまく表に出せず、他人と距離を置くことで身を守って生きている主人公の孤独感を、ベン・アフレックは彼独特の存在感で表しました。






我が家の娘も同じ障がいを抱えている、という理由もあって、私は『ザ・コンサルタント』の冒頭から強く強く惹きこまれてしまいました。

そしてそれは"障がい"という面に共感したわけではなく、この映画がクリスチャン・ウルフの"強み"として描写した点に唸らされるものがあったからなんです。


娘もずっと幼い頃からやや軽めながらもASDの特徴を見せていました。しかし、学校や地域社会の中でたくさんの方々の協力や理解の中で見守ってもらっていただいたことによって笑顔の多い明るい(?)ASDのため、この映画のウルフのように相手をバッタバタと倒すような戦闘力は身につけずにすんでいます(笑)。が、今でも相手の言葉の裏を読み取ることが苦手でスムーズなコミュニケーションが図りにくいことは確かです。

その一方、この【微妙な空気を読めない】という特徴が娘にとってプラスに働く面を私は彼女の人生の中で何度も目撃してきました。それは、自分の限界や「失敗したらどうしよう」という先を読むことが優先されないため、他の人が無理だと思うことでも恐れずにチャレンジし、何が起きても動揺せず、失敗を恐れないという点。ただ、娘は自分がASDであるということを完全には認識していないため、ウルフのような悲しみは見えません。いつかは自分の特徴と向き合わなければならない日が来るのだろうな・・・。親として日々そんなことも思ったりします。

つまりこの映画では、そういったASDを抱える人の心のひだを主人公の"強さ"と"弱さ"の両面から描いていたように思うのです。高い集中力、体を鍛え抜く徹底ぶり、最後まで任務を遂行する冷静さ。そして、それがあるからこそ、他人との間に生まれる心の溝とその孤独も。




そうそう、『ザ・コンサルタント』という作品は"映画的"にも興味深いものがあるなぁと感じたことがありました。

というのも、この物語は彼の特性・・・・つまりASDの場合、状況によって行動がブレたり変化させられることはないという側面が、「ウルフは一体何を考えているのだろうか?」「どのような判断を下して行動をとるのだろうか?」「彼はどんな過去を背負ってきたのだろうか?」「次はどんな受け答えをするのだろう?」という、映画としてよりミステリアスでサスペンス的で、時にユーモラスな要素を含んだものとして十分に発揮されている!という発見でした。そうなんですよ、よく考えてみればうちの娘も映画的要素満載ですよ。おかげで私は新しい驚きも満載の日々ですが(笑)。孤立するだけでなく、ビックリすることも楽しいこともASDにはあるのです。

※ちなみにギャヴィン・オコナー監督とベン・アフレックは、ロサンゼルスにある【Exceptional Minds】という自閉症の青少年のための非営利のデジタルアートスクール兼アニメーションスタジオなどで、18から35才の自閉症の人たちと実際に過ごし、人物造形やシーンの演出のためにリサーチしたといいます。
Exclusive Interview With ‘The Accountant’ Director Gavin O’Connor




そして、【町の会計士】と【裏社会の掃除屋でスナイパー】という二面性を持ち併せているウルフだけではなく、この映画に登場するあらゆる人物たちが皆"二面性"を持ち併せているということもなかなか興味深いものでした。・・・・いや、一人だけ裏表のない純粋な女性がいましたが。

物語が進むにつれて彼らの"二面性"が徐々に表に現れ、物語に多層的な構造が見え、登場人物たちの描かれ方にも深みが増し、誰と誰に一体どんな繋がりがあったのか?という面白さで最後まで目が離せなくなってしまう・・・という点は、観る者を惹き付ける手段としても成功しているように思います。

そして、アナ・ケンドリック演じる会計士、デイナ・カミングスが「高校のプロムで素敵なドレスを着たかった。ただ、みんなの仲間に入りたかった。みんなと繋がりたかった」と思い出を語るシーン。表裏のない彼女の本音は、建前を持たないウルフの心にどれほど響いたのか。想像すると私は胸が痛くなるのです。






表情と感情を結びつけるのが苦手なASDのために、視覚的支援をするために使うイラストカードというものがあります。「にっこり笑顔」「ぷんぷん怒り顔」「えんえん泣き顔」「さみしい悲しみの顔」。


ウルフは射撃の練習の際、果物にペンで"標的"の顔を描きます。



しかし、ある仕事を請け負った後、ウルフには全く理解できない納得のいかない事態に陥り、苦しい過去の思い出や忘れられない言葉を思って彼は標的を「スマイルマーク」にするのです。

裏社会という残酷な世界で生きていく道を選んだクリスチャン・ウルフ。愛する者、弱い者を傷つけようとする相手には容赦なく復讐の刃を向けますが、そんな彼の心の奥底に沈んでいるであろう落胆、絶望、不安、苦悶。表現することの出来ない混沌とした彼の感情がこのマークに込められている気がして、一瞬ほどのカットでしたが突き刺さるほどに心に残りました。


"もしかしたら、彼は私たちに伝える術を知らないだけなのかもしれない。あるいは、我々が聞き方を知らないだけなのかも。"
"And maybe, just maybe, he doesn't understand how to tell us. Or... We haven't yet learned how to listen."



自戒の意も込めて。
私には忘れられない映画になりました。


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