"お父さん映画"まとめて6本『はじまりへの旅』『ウインド・リバー』『プリズナーズ』『gifted/ギフテッド』『ハロルドが笑う その日まで』『はじめてのおもてなし』

はなまるこ

はなまるこ

本日は、今年観た"お父さん"が主役の【アメリカ映画】【ノルウェー映画】【ドイツ映画】の6作品をまとめて書き残しておこうと思います。

まったくブログに書き残せなかった映画作品を「如何にして"おまとめ"してしまおうか!?」と考えていた時に、この【お父さん映画】というカテゴリーを思いつきました。意外とお父さんを主役にした映画って多いのですね。今日は書かなかったのですが『いぬやしき』もそうですよね。なんでしょう、哀愁漂うお父さんたちの姿って共感を呼びやすく、人間ドラマを描く"素材"としては映画向きなのかもしれませんね。

ガンバレ世界のお父さんたち!




『はじまりへの旅』 (2016/アメリカ)
captain_fantastic001.jpg







はじまりへの旅


●原題:CAPTAIN FANTASTIC
●監督:マット・ロス
●出演:ヴィゴ・モーテンセン、フランク・ランジェラ、キャスリン・ハーン、スティーヴ・ザーン、ジョージ・マッケイ、サマンサ・イズラー、アナリース・バッソ、ニコラス・ハミルトン、シュリー・クルックス、チャーリー・ショットウェル 他
●アメリカ北西部の山奥にこもり、大自然の中で自給自足のサバイバル生活を送るベン・キャッシュと6人の子どもたち。文明社会とは距離を置き、学校すら行かない子どもたちだったが、ノーム・チョムスキーを信奉する父親自らの型破りな熱血指導により、文字通り文武両道の優れた能力を身につけていた。そんなある日、数年前から入院生活を送っていた母親レスリーの訃報が届く。レスリーの家族と折り合いが悪いベンだったが、彼女の葬儀に出席するため、子どもたちちともに2400km離れたニューメキシコへ向け自家用バスを走らせるのだったが・・・。




当初は【コメディ映画】という認識で観始めたのですが、ヴィゴ・モーテンセン演じるベン父さんの"教育方針"に強烈な違和感を持ってしまい「どうもこの映画、私には合わないんじゃ・・・」と最後までこの映画のポリシーを受け入れられないような"疑念"を抱きながら観るという事態に。

いやー、しかしですね、だからと言って「納得いかないからこの映画好きじゃなかった~」とか「自分には合わないからつまらなかった~」とかいう感想だったわけではなく、観終わった後にああでもない、こうでもないと自分の中で色々と考えさせられることがあって、結局は観られて良かったなぁと思いました。観終わった後に何も残らないんじゃ寂し過ぎますもんね。


よく親子関係の問題や教育の世界で言われるのは「子どもは親のコピーではない」「我が子とはいえ、親とは別の人格を持った"一個人"なのだ」ということ。

親が自分の子どもの教育方針を語る時、その家庭における信念やポリシーがあるというのは本当に素晴らしいことだとは思うけれど、それはやはり子どもの成長や発達の仕方、興味や性格などを見極めた上で、その都度その都度軌道修正していくというのが一番自然な流れなんだろうなぁと思います。だって、人間は常に一直線に同じ方向だけを向いて同じテンポで生きているわけではないですから。



映画の冒頭、父親が子どもたちにナイフ一本だけでも大自然の中を生き抜いていけるようなサバイバル術を教え込み、戦闘・狩猟・ロッククライミングなど、一家総出で徹底的に身体を鍛えている様子がすぐに伝わってきました。ユニークな生活ですよね。でも、そこから垣間見える彼らの生活スタイルは「自然の中で、自然とともに生きていく」というよりもむしろ「自然を相手に戦い、征服する」といった「備え、闘う」という"武装"に近いものではないかなぁと感じました。

それは"知識"の面でもまったく同じスタイルを貫いているようにも見えました。"自然"に対する日本との文化の違いからそう感じたのかもしれませんが。

宗教、歴史、哲学、芸術、文学、政治、経済といったあらゆる思想に関する膨大な知識を蓄え、徹底的に理論武装し、自分たち以外の世界を完全に拒否し、闘う、という。そしてこの家では、お母さんを失った今、物事の善し悪しをジャッジする人がお父さんしかいない、ということも子どもたちの成長を窮屈なものにしてしまっているようにも感じました。それって実は、絶対的なものだと信じられ、資本主義だとか社会主義だとか自由経済だとか、社会全体を縛ってきた"イデオロギー"にも似ているのではないかなぁ、と、


希望はないと思うと、確実になくなる。自由への衝動と物事を変えるチャンスを感じたら、世界をよくできるかもしれない。
ノーム・チョムスキー



長男のボゥが「大学で学びたい」と言った時「これ以上何を学ぶのか?」と父親は反対しました。 でも、知識や教養というものは自分だけが知っていれば良いというものではなく、学校や社会の中で他の人々と共有し、その中で異なる意見と出会い、深め、さらにそこから新たな世界を作っていくという循環がなければ澱んでしまうものだと私は思っています。

ベンお父さんは良いことを言うんですよ。
"Interesting is a non-word."「"興味深い"は無意味だ」
"興味深い"で思考を止めるな、自分の考えを自分の言葉で示せ、と。これを積み重ねてきたキャッシュ家の子供たちの思考力はとてつもなく深いはず!


子どもの心は柔軟ですね。そしてどの瞬間にも成長をしています。知識と体験が互いに作用して、子どもたちは初めて自分で考えられるようになっていくのでしょう。そして、どこにでも羽ばたいていける。何にでもなれる。 世界も変えられるかもしれない。

実はこの映画、ラストに2分近く何もセリフがない1カットのシーンが続きます。それまでは散々、思想や主義主張に関するディスカッションや家族間の言い合いが続いたにもかかわらず。溢れんばかりの言葉でいっぱいだったこの映画は、お父さんが何も言わず、子どもたちそれぞれの時間をそっと静かに見守るシーンで終わるのです。

うーん、お父さん、やっぱり良い教育をされていますね。






『ウインド・リバー』(2017/アメリカ)








ウインド・リバー [Blu-ray]


●原題:WIND RIVER
●監督:テイラー・シェリダン
●出演:ジェレミー・レナー、エリザベス・オルセン、ジョン・バーンサル、グレアム・グリーン、ケルシー・アスビル、ギル・バーミンガム 他
●アメリカ中西部ワイオミング州にあるネイティブアメリカンの保留地ウインド・リバー。ここで野生生物局の職員として活動している地元の白人ハンター、コリーはある日、雪の上で凍りついているネイティブアメリカンの少女の死体を発見する。彼女は亡くなったコリーの娘エミリーの親友ナタリーだった。やがてFBIから新米の女性捜査官ジェーンひとりだけがやって来るのだったが・・・。





そのただならぬ緊張感に、予告編を初めて観た時からずっと気になっていたジェレミー・レナー出演作品です。

分厚い雪に覆われた広大な雪原、山岳地帯の中で「闘う意志を持って生き抜くか、弱さで死ぬか」という二者択一の厳しい現実。大自然の中だと命の見限り方も早い。すぐに救急車を呼ぶこともできない。激しい天候の変化で証拠も消えてしまう。強姦されたうえ、凍傷を負った無残な姿で亡くなっているのに、肺が凍って破裂してその出血で窒息したため"殺人"にはならないなんて。

BIA(インディアン管理局)、部族警察、郡保安官、野生生物局、エネルギー省、保留地内の借用地、連邦法。知らない言葉、知らなかった現実が次々と並び、いかに自分が"守られた世界"で、それを当然のようにしてぬくぬくとで生きているのか思い知らされた気がしました。


短時間で急変する天候の中、切り裂くようなエンジン音を轟かせながら雪原をスノーモービルで駆け抜けていく人間たちの姿からは"疾走感"といったものは感じられず、その代り、太刀打ちなどできないほど圧倒的な大自然に向き合うしかない、この地に押し込められた先住民族たちの悲しみ、怒り、疲弊にも似た出口のない"息苦しさ"が感じられて、「これが"恐怖"なんだ」という思いが体の奥からぐっと込み上げてくるのです。生死とは紙一重なんだ、と。


どうして娘を失わなければならないのか。どうして犯人が捕まらないのか。自然を相手には堂々と立ち向かうジェレミー・レナー演じるハンターのコリーが、一方では事件の中で何度も何度も堪え切れずに涙を流す時。彼の抱えているものが「痛みを忘れなければ娘と共にいられる」という決意のもとにあるものなのだと分かった時。これは、この映画のコリーのことだけではなく、このウインド・リバーに住むすべての人の思いなのだと気づかされ、彼らの失ったものの大きさとその喪失感を思うと無力感に陥って辛くなりました。



視界のはっきりしない中、必死の形相で銃を構えて部屋の中で犯人を追う若い女性FBI捜査官ジェーン。容疑者宅を訪問し、ノックの音に玄関の扉が開くシーン。「君は重要なものを見過ごしている」と指摘される彼女を見ていたら、どうしても『羊たちの沈黙』のクラリスを思い出さないわけにはいかず、これはかの映画へのオマージュなのだろうかと思う部分もありました。

「あなたの言いたいことはわかる」と言った彼女のセリフ、込み上げてくる感情を必死に堪えている彼女の姿に私は胸が詰まりました。生きていく場所が違うということ、留まるべき世界があるということ。そして、意志を持って生きていくという人間の強さ。尊さ。FBI捜査官としてだけでなく、人間としての彼女の成長の物語でもあったのだと思います。




Brutal Crimes Grip an Indian Reservation【The New York Times】
平均寿命は49歳。失業率は80%。若者の自殺、児童虐待、十代での妊娠、性暴力、家庭内暴力。アルコール依存症に薬物中毒。水質汚染に化学物質による環境汚染。

「死化粧の仕方を教えてくれる者がいない」というネイティブ・アメリカンのセリフが胸に刺さります。





【その他の"お父さん映画"】
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督、ヒュー・ジャックマン&ジェイク・ギレンホール共演の『プリズナーズ』(2013/アメリカ)、父親ではなく伯父と姪としての家族の物語『gifted/ギフテッド』 (2017/アメリカ)、ノルウェーからは『ハロルドが笑う その日まで』(2014)、ドイツからは『はじめてのおもてなし』(2016)も観てみました。感想は簡単に。

『プリズナーズ』(2013/アメリカ)。賢さと情熱を内に秘めているが故に表面的には冷静さを保とうとし、結果それが"手ぬるさ"に見えてしまうロキ刑事(可哀相に)。逆に、怒りと苦しみで我を忘れて限界までいくヒュー・ジャックマンにはもうドン引き過ぎて、途中からは見るのが辛くなってしまいました。時には盾に、時には勝手な解釈で人間を恐ろしい方向へと引き込んでしまう信仰心って一体・・・・。ポール・ダノの演技には戦慄が走ります。


あのですね、わたくし病院のシーンで滂沱の涙でした。『gifted/ギフテッド』は、ネコと愛らしい女の子を出しているだけで反則でしょう!販促か?ずるいぞー。それとは別にですね、数学者の祖母を悪者に仕立て上げすぎて【数学の証明の美】までに悪印象さえも残すような描き方はちょっと残念でした。数学だって素晴らしい。人生だって素晴らしい。対立構造をわかりやすくするためだったのか、もっと複雑な葛藤を描いても良かったのでは・・・と感じました。


ノルウェー映画『ハロルドが笑う その日まで』(2014)。
オープニングで手際よく見せる主人公の温かな人生が、北欧家具で有名なあの【IKEA】の登場で一気に暗転!リアルに企業の名前を出すのか!とビックリ。伝統ある本物の家具が、プラスチックの組み立て式の安物家具に負けるなんて。文句一つ言わず長年連れ添った愛する妻は認知症発症後に帰らぬ人に。意気消沈の末の自殺も失敗。おまけに息子はダメダメ。

寒いから服をプチプチで包むとか、爺さん二人裸で抱き合って体温を温存するとか、北欧の笑いもところどころに挟みつつ、過去を引きずって相手を恨んでも何も変わらない。何もかも失って・・・でも家族がいる。役割がある。 思うことは世界中どこでも同じなのだなぁ。


ドイツ映画『はじめてのおもてなし』(2016)。
ミュンヘンに住む裕福なハートマン一家。外科医の父さんは職場で老害。教職を引退した母親は手持無沙汰。30歳を過ぎた娘は自分探し。弁護士の息子はワーカホリックで子どもの面倒は放り出したまま。そんな崩壊寸前の一家が、ナイジェリアからの難民である青年ディアロを迎え入れることになるのですが・・・・・

ドイツ映画とはいえ国民性が日本と似ているのか、【外国映画】としてのギャップはほとんど感じませんでした。話題としては、ドイツ国内で繰り広げられている移民・難民問題をダイレクトに扱っているものの、どちらかといえば崩壊寸前バラバラの家族が如何にしてお互いを気にかけまとまっていくか!?という山田洋次監督の『家族はつらいよ』的な古風な日本のお話にも見えました。ただ、これだけは言いたい!エンドロール中に挟まれるカットが逸品過ぎてドキリとさせられました。本編がちょっとお行儀良すぎたんでしょう、やっぱりこれくらいスパイスが効いていなくちゃ!


関連記事
アメリカ映画ドイツ映画ノルウェー映画
Posted byはなまるこ

Comment 0

There are no comments yet.

Leave a reply