『13th 憲法修正第13条』 (2016/アメリカ) NETFLIXオリジナルドキュメンタリー

はなまるこ

はなまるこ


●原題:13th
●監督、脚本:エイヴァ・デュヴァーネイ
●出演:ブライアン・スティーブンソン(弁護士/作家/EJI創設者)、ヘンリー・ルイス・ゲイツ・Jr.(ハーバード大学歴史学教授)、ミシェル・アレグサンダー(教育者/作家)、アンジェラ・デイヴィス(カリフォルニア大学サンタクルーズ校名誉教授)、ジェームズ・キルゴア(元受刑者/作家)、カリール・G・モハメッド(ハーバード大学歴史学 人種と公共政策教授)、チャーリー・ランゲル(ニューヨーク州第13選挙区下院議員(民主党))、パット・ノーラン(元受刑者の活動家 プリズンフェローシップ シニア副理事長)、バズ・ドライジンガー(教育者/作家)、コリー・グリーン(元受刑者の活動家 H.O.L.L.A.共同創設者)、ヴァン・ジョーンズ(#CUT50創設者 ドリームコープス共同創設者・理事長)、ニコラス・ターナー(ヴェラ司法研究所所長)、コリー・ブッカー(ニュージャージー州選出上院議員(民主党))、マリー・ゴッドシャルク(ペンシルベニア大学政治学教授) 他
●現代の米国の社会問題に、アフリカ系アメリカ人の"大量投獄"がある。黒人が犯罪者として逮捕されやすい事実を学者、活動家、政治家が分析するドキュメンタリー。NETFLIXオリジナル作品。





アメリカの人口は、世界のたった5%程度。けれど、受刑者の数は世界の25%。つまり、世界中の受刑者のうち、4人に1人はアメリカ人ということ。・・・・・・お、多いですよね。

そしてこの映画によると、1972年の受刑者の数は30万人。しかし、今日(2016年)ではなんと230万人

「いやー、アメリカって犯罪の多いところなんですねー」
なんていう感想がこの数字からポン!と頭に浮かぶのですが、まぁ刑務所に入るというからには、やはり犯罪を犯した人たち。それなら収容されても仕方がないのでは??ドラッグや銃の問題とかアメリカって多そうでしょ。

・・・・最初は私もそんな風に思いながら観始めたのです。

が、この"受刑者"というのもですね、裁判前に拘留されている人や差戻し囚人など「有罪」が確定していない人もいますからね。おまけにアメリカでは費用のかかる裁判よりも司法取引へと持ち込もうとする傾向があるため、拘留された人のうち97%は裁判を諦めて司法取引に応じるといいます。「裁判に持ち込むなら30年。取引するなら3年の刑ですむぞ」って。←この映画でも言っていますが米国の刑事ドラマではよく見るシーンですね。 そのため、裁判で争うための弁護士費用がない"無実の人"も長期に渡って拘留・投獄されているケースもありますからね。つまり、受刑者=犯罪者ではない場合もありますからね・・・・


※ちなみに、イギリスの国際刑務所研究センター(International Centre for Prison Studies)のサイトでは、世界各国の刑務所にいる人たちの数(Prison Population Total)や人口10万人に対する囚人率(Prison Population Rate)などをランキングで見ることができるのですが、アメリカの囚人数は飛び抜けて多い。
■アメリカ(2016年):全国人口10万人当たり:655人 
■日本(2018年):全国人口10万人当たり:41人


アメリカの受刑者って・・・・・・お、多いですよね。



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そして当然といえば当然の流れになりますが、急増する受刑者の数に対して収容場所が確保できなくなってくるんですね。そこで、アメリカは【民間刑務所】なるものを作ることになります。


その流れというのは、例えばこんな風に・・・・

 カンザス州にホートンという人口千八百人ほどの小さな町がある。三千五百人を雇用していた鉄道が近隣から撤退してからは、農業だけが唯一の産業となって、カンザス州でも最高の失業率の町となった。新しい産業誘致にも失敗した同町では、州が増大する犯罪に対応して刑務所を新設する計画があるのを知り、誘致に名乗りを上げた。敷地を提供するのが条件だと分かると、その資金以上の二十万ドルが一週間のうちに集まった。
 しかしこの時は、他の町に先を越されてしまった。住民の中に知恵者がいて「それならば、囚人たちを全米からかき集めたらどうだろう。どうせこの先犯罪は増える一方だし、刑務所は既にどこも満杯なのだから」と提案した。既に敷地の準備はある。計画案も検討済みだ。町は「刑務所建設、囚人移入案」を正式に採択した。

 計画案によると、四百エーカーの広大な土地に刑務所を建てるのだが、少なくとも四百の新規雇用が望めるし、面会者用のホテルやレストラン、娯楽設備も期待できる。委託運営費やら関係者のサラリーで二千四百万ドルのカネが町に流れ込むだろう。刑務所に休みはないし、関係者は一日三シフトの勤務が可能だ。 (中略)
 武器は野放し、犯罪は増える一方、為政者取り締まりの強化ばかりを訴えるとすれば、刑務所商売の繁盛間違いなしだ。「風が吹けば桶屋が儲かる」式のこのアイデア、犯罪大国アメリカの中でうまくヒットしたのである。

宮本倫好「アメリカ 民族という試練」 第3章二つのアメリカ pp.136-137. 筑摩書房 (1993年) 


完全にビジネスの世界ですね。繁盛間違いなし、って(笑)。
そして、「コストがかかり過ぎる!」とか「制度が肥大化している!」という以前の問題として、この『13th 憲法修正第13条』という映画はもっとビックリすることを言います。

営利目的の【刑務所産業】には、黒人差別の人種問題が絡んでいる。つまり、廃止されたはずの奴隷制度は、大量投獄された受刑者への合法的な強制労働力として今も存続している、と。





【大量投獄】
まず、この映画の最大のテーマ【大量投獄】について。
最初の刑務所ブームは、奴隷制度廃止後の南北戦争後のことだったといいます。確かに【奴隷制度】自体は廃止になりましたが、今度はアメリカ合衆国憲法修正第13条の"抜け穴"が利用され、アフリカ系アメリカ人が一斉に【犯罪者】として逮捕されるという事態に繋がったといいます。抜け穴↓


修正第13条[奴隷制の禁止] [1865 年成立]
第1項 奴隷制および本人の意に反する苦役は、適正な手続を経て有罪とされた当事者に対する刑罰の場合を除き、合衆国内またはその管轄に服するいかなる地においても、存在してはならない。
第2項 連邦議会は、適切な立法により、この修正条項を実施する権限を有する。

American Center Japan[法律]アメリカ合衆国憲法に追加され またはこれを修正する条項

これが今の時代の法律だなんて!
だって【犯罪者】になってしまったら誰でも【奴隷】として強制労働させられる可能性がある、仮にそうなっても問題ない、という仕組みなんでしょう。もしアフリカ系の人々が狙い撃ちされたら、再び白人支配の奴隷制時代に逆戻りということじゃないですか。というか現代において【奴隷】という言葉が出てくるコト自体が恐ろしい・・・・・


そして、奴隷制度廃止後もアフリカ系の人々への人種差別はリンチや社会的人種隔離という形で続いていき、やっと1964年と65年に公民権法と投票権法が制定された・・・にもかかわらず、今度は公民権運動隆盛期の1970年代に第二次大戦直後のベビーブーマーたちが成長したことによって犯罪発生率が上昇。これを当時のリチャード・ニクソン政権時代は【人種問題】と結び付けて、黒人=犯罪の源というイメージが定着していくように仕向けて行った、とこの映画は言います。

「法と秩序(Law & Order)」を約束したニクソンは「麻薬取締局(DEA)」を設置するなど、特に麻薬との戦い(A War on Drugs)に力を入れていきましたが、当時の内政担当大統領補佐官のジョン・アーリックマンという人が「麻薬戦争」の背景にあった真の目的を以下のように語っています。



1968年の選挙戦とその後の選挙戦には二つの敵、反戦左翼と黒人がいた。当然ながら彼らをただ罰することはできない。だが、ヒッピーとマリファナ、黒人とヘロインを巧みに結び付け、両者を処罰すればそれらのコミュニティを破壊できる。奴らのリーダーたちを逮捕し、会合をぶち壊し、ニュースで繰り返し奴らを非難するんだ。"麻薬のことはでっち上げ"かって?勿論だ。



そして、レーガン政権でそれがさらなる強硬路線へ。
「麻薬戦争」は、次に「クラック(CRACK)」を標的にしていきます。クラックは高価なコカインと違い安価で流通したため、主に都市部に住む貧困層のアフリカ系アメリカ人社会を席巻することに。そして、クラック30gの所持と粉末状コカイン3kg所持の懲役刑が同じ長さという"不平等"な量刑が設定され、黒人やヒスパニック、ラテン系らの有色人種がクラックを所持していた場合、通常よりも重い刑が科せられやすくなり、その結果、とてつもない数の人々が刑務所送りにされていくことになったと『13th 憲法修正第13条』では語られます。

その後、クリントン政権では「3ストライク法」「必要的最低量刑法」「真実の量刑法」などが次々と可決され、事実上、法的機関による投大量投獄がいよいよ可能に。アメリカ各州では次々と刑務所建設が進められ、警察官も大量に増員。この映画では「アフリカ系の人々の大量投獄」に繋がった、と表現されています。


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※ちなみに、第50代下院議長で、2012年の共和党大統領候補だったニュート・ギングリッチ氏は、この映画の中で「コカインとクラックの量刑は不公平だった」と後から述べ、クリントン元大統領も1994年の法案は過剰だったと認めています。





【ALEC:米国立法交流協議会】
一方、【大量投獄】の問題にあわせて、この映画で登場・指摘されるのがALEC(The American Legislative Exchange Council)という組織の存在と影響についてです。

ALECは会員制で、そのメンバーである企業は政治家に法案を提示できるとい仕組み。・・・え、これって、民間企業の利益に影響する(=利益をもたらす、有利に働く)法案が作れてしまう、つまりは民間企業が立法に関与できるということですよね。


 アメリカの州では、ひとつの法律を決めるとき、その法案の中身を州議会の議員に打診する。議員は、基金の代表である支援者や民間企業に前持って意見を求める。非政府機関には、事前に法案を協議し検討する評議会がある。ALEC(アメリカ国立法交流議会)は、1975年、保守派の議員によって設立され、"小さな政府"と"自由市場主義"を柱としている。現在、州議会議員の3分の1にあたる約2000人、下院議員90人前後のほかに民間企業や基金の代表で成り立っているが、ほとんどが共和党員である。
 政治に対してモノ言うロビイストと違って、法案に直接的に関わるALECは強大な力を持っている。アメリカの州議会は、ALECによってコントロールされていると言っても過言ではない。ALECの運営を支えているのは民間人の基金と企業の寄付金であるが、多国籍企業も多く含まれている。ALECが関心を持つ州法には、移民政策、労働権法、税金制度だけでなく、医療制度や銃規制、環境、エネルギー問題など、州に限らず地球的規模な問題にも及ぶ。大統領だって、決めることができるかもしれない。

森田 靖郎 「カネと自由と、文明末ニューヨーク」第2章 原風景 アドレナライズ(2017年)


保険や製薬業界など様々な分野の超有名企業が名を連ねる中、この映画が取り上げたのは、まず【正当防衛法】を成立させたことで銃の売り上げを伸ばした世界最大のスーパーマーケットチェーン「ウォルマート(Walmart Inc.)」ウォルマートは、アメリカ最大のライフル販売業者で、世界最大の弾薬小売業者でもあったんですね。みんなが銃を持ってくれたら、弾薬も売れて儲かりますね。


しかし、丸腰のアフリカ系アメリカ人少年が不当に射殺され、撃った側は逮捕もされず、無罪となった事件が発生。それはALECによって立法されたフロリダ州の【正当防衛法】によって「銃を持つ権利があった」「正当防衛で身を守っただけ」という"言い訳"が通用してしまったから。当然、この法案の見直しが叫ばれ非難されることになり、その後ウォルマートはALECを脱退。イメージが悪化し、そのダメージから企業利益が落ちてしまっては本末転倒ですからね。


そして、もう一つ、ALECのメンバー企業で刑務所運営会社の「CCA:Corrections Corporation of America」が取り上げられます。※公式サイトはコチラ!

この企業、受刑者が矯正施設に、移民と疑われた人が収容施設に"安定供給"されれば利益は常に出るわけで・・・・つまり、"犯罪者"と言われる人がいればいるほど、満員であればあるほど富が得られるという・・・ちょっとスゴイですね。"犯罪者"が一杯で儲けもいっぱい。まるで映画みたいな話ですけれど、これが資本主義社会の紛れもない事実なんですね。しかし、2010年にCCAは「法案通過に企業利益が関与!」とメディアに暴露されてしまい、ALECを脱退することになります。






確かに、この映画で描かれていくアメリカの【刑務所産業】という巨大なシステムの実態には絶句します。「金儲けしたっていいでしょ」という発言にもビックリ。そして、アフリカ系の人々が不当に逮捕、拘束されたり、冤罪にもかかわらず投獄されるといった酷い現実にも。もし自分が・・・と考えただけでも絶望的な気持ちになります。



ただ、この映画を見ていてずーっと思っていたのですが、この【刑務所産業】というシステムの裏には、根深い人種差別や偏見による無実の人への投獄・人権問題とは別に、もともとの所に巣食う問題・・・・経済格差、利益偏重主義、つまり行き過ぎた資本主義社会のシステムそのものが元凶だとしか考えられませんでした。


アメリカというのは、日本人の私からするとあまり理解できない部分、驚かされるような側面が多くあります。例えば・・・・犯罪や暴力が発生しやすくなると思われる荒廃した環境や貧困問題等に対して「経済格差をなくし、教育や福祉に力を入れて環境を整え、犯罪を抑制する努力と、受刑者の社会復帰に役立つ活動を重視すべきだ!」なんて主張したりすると、「政府がより直接的に貧困問題など福祉対策に介入しようとすることは、個人の尊厳に対する攻撃である」とか「大きな政府は自由の侵害を引き起こす」といった保守派からの反発にあうことがあります。


そもそも政府の力によって人間そのものを変えるようなことは、自由な政治体制と両立するはずがないではないか、という結論になる。例えば、犯罪といった問題はその典型であって、それを「根本原因」にまで遡って根絶することは、自由な社会における権力の在り方と根本的に矛盾せざるを得ない。「法と秩序」を擁護する保守の人々は、犯罪者の更生その他による問題の抜本的解決よりも、ありのままの人間の姿を前提にして、確実な逮捕と迅速な裁判・処罰といった人間の自己利益に訴える有効な抑止を行うべきであると主張することになった。

佐々木毅 「アメリカの保守とリベラル」 第一章 保守主義によるリリベラリズム批判 pp.32  講談社 (1993年)


「ヘロイン中毒になる自由」とか「盗みに入る自由」とか、そういうことも"個人の自由"として肯定するということなんでしょうかね。・・・・とはいえ、犯罪傾向の高い地域や社会をそのまま放っておくこともできませんので、結局、貧困問題を解決できない(もしくは、しない)政治家たちは選挙用としての「治安強化」を訴え続け、政府は犯罪に対する厳罰化だけはどんどん推し進めてきたのかもしれません。"見た目の治安強化"として。

ただし、そこにはアメリカの歴史の中で無視することのできない人種差別や偏見の目が確かに存在し、それは警察などの権力側からの問題(レイシャル・プロファイリングなど)ともなり、映画の中では「抑圧のシステムは時代によって形を変える」という言葉で説明されていますが、つまり資本主義社会のシステムの中で当然存在する【搾取される者】が現制度の中では【受刑者】として低賃金で強制労働させられ、食い物にされている・・・・それがアメリカの現状なのでしょう。

そして、それは必ずしもアフリカ系の人々に限ったことではなく、人種的マイノリティーの人々や貧困の多い地域・コミュニティでも起こっていることなのでしょう。


■アメリカの資本主義社会の中では、主に労働者階級や貧困層の「受刑者」が弱い立場として「搾取される者」となり、その裏では巨額のカネが動いていること。
■自社の利益拡大へと誘導できる法制度の立法に民間企業が関わってきたこと。
■裁判や仮釈放などの刑事司法制度が公正さに欠け、不平等であること。
■そして、そこに人種差別問題が加わり、人の命と権利があまりにも軽視されていること。



不都合なことはみーんな【大量投獄】でいっぺんに片づけようとしているんじゃないの?なんて、乱暴な言い方ですがこんな捉え方さえも出来てしまうかも・・・・



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ちなみにこの映画では、メリーランド州上院議員(共和党)でALECメンバーのマイケル・ハフ氏が「ALECは一切無関係」という立場で登場します。が、「何を言っているのかわかりません」「えへへへ」と氏がヘラヘラと答えているインタビューのカットが幾つか挟まれるんですね。こういった編集のされ方はちょっと意図的に感じられます。『13th 憲法修正第13条』は"ドキュメンタリー映画"としてジャンル分けされていますが、どちらかというと"意見広告"という意図が強いかなぁとも思います。


参考文献、資料

「警察の不当な扱い」、黒人の5人に1人が経験 CNN調査 CNN.co.jp 2015.12.01

8歳の黒人少女が白人女性に通報される:人種差別が「撤廃」されたのは、わずか54年前 Wezzy 2018.07.06

『ニューヨーク市警察の捜査における人種差別の有無のロジスティック回帰分析:分析編』 D4DR BLOG ちょいみる統計, オピニオン 2016年10月12日

【論説】ニューヨーク市における犯罪の減少と秩序維持ポリシング 今 野 健 一(人文学部 法経政策学科)  高 橋 早 苗(仙台白百合女子大学 人間学部 准教授) 山形大学紀要(社会科学)第38巻第2号

International Centre for Prison Studies (国際刑務所研究センター)


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